くろねこじゅうとにひき。
この世界で暮らすと決めた日から約1ヶ月たった。
この世界にもだいぶ慣れ、なんとなくここがどういう世界なのかも分かってきた。
大きく分けるとこの世界には3つの国が存在するようだ。
1つはリュオンの治めている魔帝国『ラグアス』。
ここは魔力が豊富にあり、主に魔人や魔獣、魔族等が多く暮らしている。少数だが人間もいるようだ。だが、人間を餌とみる魔族も多いゆえ、あまり人間は住みたがらない。魔族の寿命は長く、この世界で1番古くから存在する国とされている。ちなみに私が迷い込んだ《次元の森》はこの世界で一番大きい森らしく、迷い込んだら抜け出せないとか…。
2つ目は、この国より南側にずっと進むと『ラグアス』よりもちょっと小さいが同等の経済力を誇る国、『聖クラント王国』が存在する。この国は主に人間が住んでいて、紗亜音の住んでいた世界よりも文明は発達してはいない。が、長年の魔法の研究により魔法を用いる武器、魔機の生産量はこの世界一だそうだ。
3つ目の国はこの世界では1番面積も小さいが一番の経済力を誇る国で、国を治めているのはザッシュという、元を辿れば商人の一族らしい。
主に獣人や商人、用心棒など一定の居住地を持たない者が多いらしい。と、いうのもこの国はザッシュ家に認められた一部の一族や商人しか住めないという。その分、旅の人への宿屋や武器屋等が豊富にあり、それにより豊かな財源を確保できるというわけだ。
根っからの商売気質国らしい…。
とまぁ、大まかに3つの国がこの世界を牛耳っている。残りは殆ど海や山で、元の世界ではビルばっかりに囲まれて育った私からしてみれば新鮮で遠くの景色を眺めているだけでも楽しい。
ちなみに私が今いる場所はこの城の図書室で、この国の文字が読めないのでシャムにお勉強を見てもらっている。英語も万年赤点族だったから実際文字とか意味不。
なにこのみみず…。
得体の知れない文字と中身の無い私の頭を格闘させていると、タイミング良くシャムが話しかけてきた。
「シャーネ様、そろそろ休憩のお時間になさいますか?」
「ん~そうねぇ。なんだかお腹もすいたし、リファナでも呼んでお茶にしよかなぁ。」
ポツリ、と呟いた筈なのに、すごい勢いでドアが開いてリファナが駆け込んできた。
「シャーネ様!!お呼びですか!!?」
ランランと目を輝かせながら嬉しそうに、猛スピードでお茶の用意をしていく。その様子に、半ばあきれ気味のシャムがリファナに少しだけお説教している。
「まったく…。貴女は何でもう少し上品に振る舞えないんですか?そして能力を無駄に使わない事です。見た目は清楚で綺麗なのですから…シャーネ様が戻ったからって、興奮するのは分かりますが少しは落ち着きなさいな。」
「…はーい。」
口を尖らしながらも頷くリファナが何ともいじらしく可愛い。ちょっとだけ顔がニヤけてしまう。
「まぁまぁ、リファナが嬉しそうで私は嬉しかったし。シャムさんもここらで一緒にお茶しましょうよ、ね?」
その場の雰囲気を和らげる為に、ニコッとシャムに笑いかける。すると一気にシャムの顔が真っ赤に染まっていく。
「くっ…。大切な姉君であるシャーネ様に言われたら…断る理由なんて在るわけ無いですよ。」
「わぁ~、シャムさん、真っ赤ですわぁ。シャーネ様ってすごいですわね…!!」
「そんなっ、私なんて普通だよ。それよりも、リュオンはまだ仕事なの?」
何となく気恥ずかしく、話題を逸らそうとシャムに問いかけたところ、シャムは思い出したように立ち上がり、その様子に少し紗亜音はビックリした。
「そうでした、私としたものが…!まだ3時にはなられてませんね。はぁ、…良かった。」
「何?一体どうしたの??」
「シャムさん、どうされたんですか??」
「今日はレイン様がお見えになるので、魔王様にお伝えしないといけなかったんですよ!。」
「…誰?」
初めて聞く名前だった。
だがシャムの様子からすると中々重要な客の様だ。まぁ、リュオンに用がある客は大抵、国の重鎮ばかりだが…。
「すみません、シャーネ様。私は席を外させて貰いますね。お茶はまた今度誘ってくださいね。」
「あ、うん」
急ぐようにシャムは去って行った。
残された紗亜音とリファナはゆっくりとお茶を味わう。
だが紗亜音は何故かさっきのレインという名前が耳から離れなかった。
んー。なんか気になるんだよね…?
女の勘、と言うのだろうか。少しだけ胸騒ぎがする。
すると、それが顔にでも出ていたのだろうか、リファナがふふっと綺麗に笑ってとんでもない提案をした。
「シャーネ様、気になるなら見に行けば良いじゃないですか!」
…は?




