頑張れ宰相
王様がそう言うと宰相が私達の前に立った。
小さく咳払いすると3人の後ろに立つ軽装の兵士に指図を出す。
「3人の魔法を解け」
風魔法で音が遮断され声を出せなくなる魔法があるのは私も知っていたが初めて目にした。
この魔法を掛けられていたから静かだったらしい。
「父上!帰られて早々、私が帰って早々この扱いは何なのですか!私が城にいなかったのはディボラを迎えに行ってたからです!」
魔法が解けた途端セドム王子が喚く。
流石にファミー伯爵家の二人は黙っていた。
「セドム、発言を認めとらん。それにお前の言い分は宰相から充分に聞いた」
陛下の言葉に宰相が大きく頷く。
「セドム第二王子殿下、私めはロドリオ王太子殿下からも話を聞いた上で合わせて陛下に報告しております。ですのでご不在だった理由も陛下はご存知です」
「うるさい!私は今父上と話しているのだ!宰相に話しかけているわけではない!」
セドム王子の発言に大人たちの溜息があちこちから聞こえた。
そんなため息の中、苦虫を噛み潰したような顔をしていたファミー伯爵が手を挙げ発言を求める。
「陛下、セドム様は何か悪い魔法にでもかけられているのでは?あの聡明な王子とは思い難い行動の連続です」
まぁ…そう言いたくもなるか。
本当に聡明だったのはディボラ様だったんだけどさ。
「ファミー伯爵…仰りたくなる気持ちは分かる。分かるが解術どころか解呪の魔法も試している。何も掛かっていない、正常な状態だと証明済みなんだ…」
宰相も苦虫を噛み潰したらしい。
渋い顔で苦々しくそう告げる。
「そう…ですか…。なんと…」
ファミー伯爵の顔から色が無くなった。
色々諦めたらしい。
それを悟ったのかリーナが喚き出した。
「お父様!?それだけですの!?ちゃんと弁解して助けて下さい!可愛い娘が腰に縄を回されているのですよ!?」
「…落ち着きなさい」
「何言ってるの!?お父様だってディボラ様の立場を奪えって応援してくれてたじゃない!」
「あれはそういう意味ではない!」
「なんでよ!ディボラ様に成り代われるくらいになれって言ってたでしょ!?」
「成り代われるくらいシッカリしろと言いたかったのだ!奪えとは言っとらん!」
「一緒よ!」
ドンッ!!!
ビクッ!
騎士が剣鞘を床に突いた音に驚く二人。
まぁ…私も驚いたけど。
突如始まった親子喧嘩を止められたにも拘わらずリーナはブツブツと「チヤホヤされる方法って言ってたくせに」だ何だと言っていた。
ファミー伯爵の真意がどちらだったのかは分からないがリーナの親だからな、とか思ったら失礼かしら?
「さて」
両陛下もうんざりした顔をしているが更に眉間にシワを寄せた宰相が再び口を開く。
「では、まず今回の出来事の処罰をまず申し伝える。陛下が下された沙汰ゆえ心して聞くように。まずファミー伯爵当主!」
「…はい」
相変わらず顔色の無いファミー伯爵は宰相の方を見ること無く返事をした。
「そなたの娘リーナがセドム王子を誑かし、嘘を吹き込んだ上で今回の騒動のきっかけを生んだ。当主として監督不行き届きである。異論は無いな?」
「はい…申し訳ございません…」
相変わらずの無感情な言い方である。
「先程娘を唆したとも取れる発言を伯爵の娘リーナがしていたがそれについて心当たりは?」
ここで伯爵は深いため息をついた。
「あります。しかし唆しではありません。娘が皆に注目され慕われるにはどうすれば良いか、セドム王子のような方に愛されるにはどうすればよいか、その様に悩んでいたので…ディボラ様のように素晴らしい淑女になれば良い、ディボラ様に成り代われる程の存在になれば良い、そう話しました…。まさかその立場を奪えと捉えるとは…」
そうしてもう一度深い深いため息をついた。
その様子に少し同情してしまう。
チラリと回りを見ると皆ファミー伯爵の言い分を受け入れたようだ。
どことなく同情の空気が流れている。
「娘リーナよ、相違ないか?」
宰相も若干気の毒そうな雰囲気だったが、すぐ気を取り直しリーナに問いかけた。
「そうよ、しょっちゅう言われてウンザリしたんだから!あの言い方だと私が勘違いしても仕方無くないですか!?」
うーん、仕方無くない…かなぁ?
淑女としても立派なディボラ様のようになれってのを言ってる親はそれなりにいると思う。
でもセドム王子に馴れ馴れしく近付き誑かしたのはリーナだけだ。
再び気の毒そうな空気が出ている宰相は1つ小さなため息をついて続けた。
「ではファミー伯爵、監督不行き届きとして領地のうちディノ地方を王家に返還するものとする。また、王家が負う賠償費用の一部負担を求める。内容は追って使いを出す」
ディノ地方というのはファミー伯爵家の中でも税収の少なそうな田舎地方だ。主要な街道もないので大きな痛手とはならないだろう。
「ははっ!温情ある沙汰、感謝いたしますと共に王家への変わらぬ忠義を誓います」
どこかホッとした様子のファミー伯爵は座ったまま深く頭を下げた。
『さてと』と、そう聞こえてきそうなほどウンザリした表情の宰相が次に向いたのはリーナの方だった。




