馬車の中で
今日は皆で乗合馬車に乗っている。
先日偶然知ったのだが冒険者の村から各ダンジョンへ定期便の馬車が出ていたらしい。
朝だからかダンジョンで多くの人が降り、逆に乗り込んだ人はあまり居ない。
「クリームが食べたいです~!チーズも捨てがたいです食べたいですー!」
「あったら寄ろうか。私も食べたいな」
乳製品が食べたいと悶絶しているのはラナである。
サマナがよしよしと宥めている。
鞄に時止めの能力が無いので保存の効かない乳製品は持って来ていない。
小屋に来てからはディボラ様の氷と氷を利用して冷やせる保管スペースで肉や果物を保管できているが、国を出る時はまさかそんな便利な物がある場所で暮らせるなんて思っていなかったのだから当然といえばそうなのだけど…。
「これも一応チーズよ?まだあるわよ」
私は携帯食のチーズを取り出す。
するとそのチーズをギロリと睨み恨みがましそうに「そんな固っ…くて塩辛いもの、チーズじゃないですよぉぉぉ!」と嘆かれた。
まぁ…確かに美味しくはない…チーズと言われたらそうかもくらいにしかチーズらしい香りも無い…。
粉にして調味料変わりに使ったりするくらいだからなぁ…ダメかぁ。
「アリア、チーズなら何でも良いわけじゃないですわ。ラナ、アリアなりの優しさなの。怖い顔で返すのは宜しく無いですわ」
少し凹む私にレリアーナがフォローを入れてくれる。
そんなやり取りをディボラ様はクスクスと笑って眺めてらした。
「お嬢さんたち、おキレイだね~。顔もだけど動きも品ってやつがあるねぇ!」
ニコニコと人懐っこい見るからに冒険者の風貌のおじさんが声をかけてきた。
ピリッと警戒が走るがディボラ様は笑顔だ。
「まあ、嬉しいわ!私達、貴族の護衛を目指しているパーティなの」
「そーか!勉強してんだな!たしかにお嬢さんたちみたいな子たちなら貴族さんといても悪目立ちしねぇわな~。俺みたいなのは依頼受けてもハネられちまうからよー」
ディボラ様の言い分を信じた…?
ガッハッハと明るく笑うおじさん。
油断させようとしているのか本当に人懐っこいのか分からないが今すぐ危険な事にはならなさそうだと少し安心する。
「実はよ、オレのことを案内に雇ってもらえないかと思ったんだよ!オレと御者席の横っちょに座ってるのは夫婦でね。初心者の手助けやお忍びの人の護衛とか案内を商売にしてるんだ」
なるほど…?やっぱり貴族とバレてるのかと冷や汗が戻ってくる。
「あの…何故奥様は御者席に?」
サマナも会話に混じった。
「あぁ…あいつ、馬車苦手でよ…酔うからあそこにしか座れねぇんだ…」
「あぁ…」「それは…大変ですね…」
思わず私も心の声が漏れてしまう。
「あぁ…冒険者なのに致命的だよなぁ…腕はオレより立つんだけど馬車だけはダメなんだよ…」
アチャーって声が聞こえそうなくらいおじさんは表情豊かだ。
うーん…私には悪い人に見えない…。
「んでよ、アンタたちの会話ちょっと聞いちまったんだけどクリームとかチーズが食いてぇのか?」
ラナがビクッと肩を跳ねさせた。
気不味そうに俯いたのを気にも止めずディボラ様はにこやかだ。
「えぇ、お幾らくらいで案内をお願いできるのかしら?」
ディボラ様も悪い人ではないと判断したらしい。
「おねえさん話しが早いねえ!店までなら銀貨5枚でどうだい?村のガイドもなら簡単になら大銀貨2枚、しっかりなら地図付きで大銀貨5枚だ」
私たちの国ガナートの国境の街の宿が確か一泊食事無しで銀貨38枚の看板が出ていたのは覚えている。
大銀貨ってのは銀貨10枚分。
宿よりも高い案内なんて…とは思えど、正直案内の相場なんて分からない。
「少し高いわね。大銀貨4枚でどう?代わりに私達が行きたいクリームのお店でご馳走するわ」
「いいね!決まりだ!どこへでも案内するし守らせてもらいやす!オレはガナ、嫁はターナだ。宜しくな!」
値切り前提の価格だったのかガナはアッサリと値切りを受け入れた。
「私はディーよ。こっちがサナ、レリー、あとは聞いていたかしら?」
「あぁ、アリアさんとラナさんだな!もうすぐ街に着くから着いたら半額貰いたい。仕事終わりにもう半分を頼む」
「わかったわ」
私とラナだけ偽名が使えなかった事にレリアーナは唇を噛む。
目で謝ってきているのか何か訴えてきていた。
なのでこちらも目で「大丈夫」だと返す。
ディボラ様が私とラナの名前がバレているのを問題視すること無く案内に雇われたのだ。
このガナという男は悪い人間では無いのだろう。
ラナもレリアーナの視線に気づいたのかニッコリとレリアーナに笑いかけ「楽しみね」と話しかけた。
私とラナに向かってレリアーナの口が「ありがとう」と動く。
ディボラ様はそんな私達を優しい笑顔で見守ってくれていた。




