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人類を絶望させたい元魔王軍の罠師、殺意100%のダンジョンを作ったのに死にゲー狂いから「神運営」と崇められる  作者: 他力本願寺


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第50話 人類滅亡計画、無期限延期

グラズ消滅から数時間。


 地球の空は青さを取り戻したが、俺の制御室は過去最大の騒音に包まれていた。


『マスター。同時接続数、6000万を突破』


『観測熱、計算上限へ接近』


『神運営が世界救ったぞ!』


『最後までフェアな極悪罠だった!』


『ありがとう神運営!』


「……なぜ俺が感謝されている」


 グラズが俺の庭を荒らしたから、俺のやり方で処分しただけだ。


 人類救済などという美談へ変換される筋合いはない。


 行政から最上位通信が割り込む。


『対未同期コア戦で消費した希少素材の補填枠を承認しました!』


「補填だけでいい」


『公式認定グッズのロイヤリティも――』


 画面には、俺の黒い外套を着せられた丸いスライム。


「俺の殺戮兵器をまた可愛くするな」


 通信を切った。


 NAVIが別の確認を出す。


『当初の「勇者の故郷へ絶望を刻む計画」について、実行スケジュールを再計算しますか?』


 俺は答えず、監視水晶を見る。


 広場では迅、レイナ、豪がボロボロの装備のまま笑っていた。


『次の階層いつ?』


『最後の罠、俺ならもっと早く気づけたかな』


『ガハハ! 次は俺たちが運営を泣かせようぜ!』


「……狂ったネズミどもめ」


 ふと、NAVIが黙っていた暗闇を思い出した。


 同接も、投げ銭も、コメントも見えない。


 座標が届いたかすら分からない。


 それでも俺は、キーを叩く手を止めなかった。


 一度だけ『生きろ』と打ち、消した。


 あれを善意と呼ぶ気はない。


 あいつらを助けたかったわけでもない。


 ただ。


 俺の罠を最も深く理解し、俺が残した極細の道を、何度死んでも見つけてくる連中がいなくなるのは――。


「……勿体ない」


『発言を記録します』


「するな」


 俺は設計盤を引き寄せた。


「計画を中止する気はない」


『では、継続ですか?』


「人類絶望計画。ステータスを『無期限延期』へ変更しろ」


『理由を記録します』


「俺があいつらの思考を完全に上回り、逃げ道を示した上で心を折るまでだ。それまでは、他の三流に壊させる価値もない」


『了解。無期限延期』


 ――数週間後。


 グラズ戦で焼けた回路を交換し、砕けた床石を一枚ずつ戻し終えた頃には、世界のダンジョン配信熱は戦争前より騒がしくなっていた。


 だが俺が気にしていたのは数字ではない。


 第五階層。


 本来ならWorld First Cupの先に開くはずだった場所だ。戦争で手前の大広間までしか使えず、旧設計は防衛線へ転用した結果、見る影もなく潰れた。だから残骸ごと捨てた。


 他人との戦争のために歪めた設計を、俺の作品として出す気はない。


 新しい石床の上へ膝をつく。


 一本の鋼線を張り、指の腹で弾いた。高すぎれば音が出る。低すぎれば視線が落ちる。何度か張り直し、首を刈れる高さの少し手前で止める。


 次に、乾いた粉塵を薄く撒いた。刷毛の先を一度だけ走らせ、鋼線の真下に細い切れ目を作る。見ようとした者だけが見つけられる程度に。


 壁の石材は一枚だけ継ぎ目を三ミリずらす。床の反響も、空気の抜け方も、立ち止まれば違和感になるように整える。


 そして最後に、致死機構が閉じる直前へ0.1秒だけ通れる道を残した。


 逃げ道を作るたび、黒曜砦とグラズの顔が脳裏を掠める。


 それでも指は迷わなかった。


「……これなら見える」


 俺は粉塵の切れ目を見下ろし、僅かに口角を上げた。


「見えてなお死ね。それでこそ敗北だ」


 立ち上がり、完成した門へ手を置く。


「今度こそ、第五階層だ」


 正式名称は――『絶望』。


 公開権限を押し込んだ。


 数秒後。


 エントランスには、誰より早く迅、レイナ、豪が並んでいた。


 その後ろへ、世界中の探索者が列を作る。


『大型アップデートきた!』


『今日こそ運営の想定を壊す!』


『ガハハ! さあ死にに行こうぜ!』


「…………」


 入場同意の表示が次々と緑へ変わる。


 魂アンカーが生成される。


 ゲートが開く。


「なぜ笑う!」


 俺は玉座から怒鳴った。


「泣け! 恐怖しろ! 絶望しろォォォッ!」


 NAVIが、いつもの調子で報告窓を一枚だけ開いた。


【人類絶望達成率 0.00%】


【観測熱 過去最高を更新中】


「だから逆だろうがァァァッ!」


 最初の探索者が、新しい罠へ一歩を踏み出した。


 今日も軍拡は終わらない。

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