アルコールが原因の脳疾患は元には戻せません
『アルコール依存症は否認の病』と言われています。きっと聞いた事があると思います。
今年(2026年)に実際にあったことを書きます。脳神経外科からの依頼を受けて20歳代の男性が母親と一緒に私のいるCT室に来ました。
男性の風貌は明らかに風呂に入っていない。ややロングの髪が脂っぽくなっていて着ている作業着も汚れている。
「昨日まではごくごく普通だったんです。突然、今朝から何も話さなくなってしまい、意思の疎通ができなくなったのです」
お母さんは息子の飲酒癖を私に隠しました。ただ単にCT撮影だけをおこなう医療者と思ったのでしょう。
「3分と掛からないから、動かないでいて下さいね」と声掛けしても無反応です。
目は開いている。言葉は全く話しません。
CT画像に異常は認められませんでした。
この男性の風態と無反応、さらにCT画像によって脳梗塞などの血管障害が認められなかった事により『もしかしたら・・・』と気が付いたのです。
アルコールの多飲は栄養失調をきたします。この結果、脳に必要な栄養素が欠乏して起こる『ウエルニッケ脳症』という病名があります。
『ウエルニッケ脳症』はビタミンB1の不足から起こりますのでB1の大量投与が治療方針になります。治療が遅れると悪化していき、小さい脳出血を繰り返すようになります。
重篤化すると元の身体には戻せません。
アルコール依存症者の方でしょっちゅう脳出血や脳梗塞を起こす人がいますが、治療のチャンスを捨ててしまったのです。
さらに過去に遭遇した患者さんは入院期間中に病院内から夜間、脱走して缶ビールを買い込んでいました。この方もウエルニッケ脳症に陥りましたが、医療の現場ではビタミンB1の投与をおこなわなかったのです。
適切な治療をおこなわなかった理由は『どうせ、助けてあげてもまた多飲するでしょう。ならば生かさず、殺さずに生活保護受給者として入院させておいた方が良い』というものです。
生活保護受給者は同じ医療施設(病院)に2週間しかいられません。ですので、生活保護者を積極的に受け入れる病院同士がタッグを組んでグルグル回すのです。
この患者さんに社会復帰のチャンスは永遠に来ません。
非常に稀なケースとして『脳梁消失』が起こる場合があります。
脳梁とは右の脳と左の脳の情報を行き来させている場所で女性の方が男性より体積が大きいです。
『脳梁消失』してしまうと100%死亡します。
私がCT撮影した若い男性につけられた診断はアルコール依存症によるウエルニッケ脳症でした。紹介状を渡して入院施設のある病院に行くように言って帰宅していきましたが、紹介先病院にはアルコール専門病棟がありません。
これではまわり道をさせている事になります。
診断をした医師にアルコール依存症に対する専門的な治療選択肢が備わっていなかったので一般的な総合病院に紹介状を書いてしまったのでしょう。




