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ひねくれゴーレム運転士  作者: 零たろ
12/13

12話 朝食

 眠気と寒さに耐えながら目を半開きにして進んでいると、長い夜の末に、朝が来た。日は昇っていないものの、東の空が仄赤く染まっていくのが見える。


 息を飲んだ。夜通し続いた運転がようやく終わると思うと、それがただ、嬉しかった。


 日の出から程なくして、私は小さな村に着いた。通行の邪魔にならないところにクレイを停めて降りようとしたが、シドロはまだ目を覚まさなかった。


「おい、お前、起きろ」と呼んでも、反応がない。声を大きくして繰り返したが、結果は同じだった。私は運転席の脇にあるクラクション用のハンドベルを掴み、荷台に手を伸ばしてシドロの耳元で鳴らした。


「わああああ!」と子どもみたいな大声を上げて、シドロが飛び起きた。彼は毛布にくるまったままきょろきょろと見回し、それから私の顔を見上げて、「ここ、どこですか?」と聞いてきた。


「村」


 シドロは涎を垂らした口をぽかんと開けた。


「降りろ」とシドロに指示し、私はクレイから降りた。


 地面に足をつけた私の目の前に、一瞬だけ靄がかかり、足がふらついた。夜行のせいだろうか、身体が怠い。しかし、まずは魔除け香を買い足そう、と私は自分の足で歩いた。


「らっしゃっせー!」という威勢のいい女性の声が、扉を開けると同時に店内に響いた。「何をお求めで?」


 じゃあ僕は、と言いかけたシドロを制した私は、「魔除け香はありますか?」と茶髪の女性店員に尋ねた。


「魔除け香っすか〜、ちょっとウチじゃ扱ってないっすね」と首を傾げた店員は、「回復香とかなら、あるっすけど」と提案した。


 魔除け香がないとは。踵を返そうとした私の視界に、毛皮のコートが入った。白と、赤と、黒の3種類が店内の壁に掛かっている。また夜行するなら必要になるだろう。


 やっぱり、と足を止めた私はコートを指差して、「あっ、えっと……白いコートを一つ」と店員に言った。ここで赤を避けてしまう自分が悔しい。


 シドロを置いて店を出た私は、白いコートを着て村をふらふらと歩いた。


 どこかで朝食を食べたい。そして今日は何もせずにゆっくり休んでいたい。


 しかし、この小さい村も近代的だな。道具屋や飲食店、宿屋など、村を訪れる冒険者に目を付けた店が多い。とりあえず、テラス席のあるあそこのカフェに入るか。


「ヘネリアさん、なんで置いてくんですか!」とシドロが後ろから走ってくる。


 なぜ付いてくる、と私が聞きたいのだが。


「私が運転士で、お前は乗客。連れじゃない」とシドロに言った。「明日の朝には出発するから、それまで自由に行動してろ」


 シドロは納得いかない様子だったが、「はい……」と苦笑いで頷いた。


 テラス席でパンとスープを喫する私の視界の隅に、シドロの姿がある。


 だから、なぜ同じカフェに来る。なぜ付いてくるのだ。


 私と同じテーブルに来ることはなかったが、彼は少し離れたテーブル席で、他の冒険者グループの客と話していた。大剣を背負った男や、杖を椅子に立てかけている女が、シドロと楽しそうに話しては、ちらちらと私に視線を向ける。


 話し声が大きくて落ち着かないな、と思いつつ、気づかないふりをして、パンを千切ってスープに沈めた。


 欠伸をしながらゆっくりと食べていると、食事を終えたシドロが、四人の若い冒険者を連れて、私のテーブルに来た。私を取り囲むように立つ五人に、思わず背筋を伸ばした。


「冒険者か。何の用だ」と言った私の声が、少し震えてしまった。


「あの、今ちょっと話で聞いたんですけど……」とシドロが話し出す。話が長い。私は敢えて音を立ててスープを啜った。


「それで、その……クエスト、手伝ってくれませんか?」


 ざっくりとした話の内容は分かった。村の近くの山に魔物が出て、村の人間がクエストとして届け出を出したと。四人はギルドの人間で、その討伐を手伝って欲しいと。つまり、私を賞金稼ぎに使いたいと。


 口に入れたパンをスープで流し込み、私は長くため息をついた。


「嫌だ」


 それが私の答えだった。

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