13話 依頼
「嫌だ」と答えた私に、五人は似たような顔で驚いた。
「魔物のせいで、村の人たちも困ってんだよ、な?」と冒険者の男が、私を諭すように言う。
敬語もままならないのか、この冒険者は。私は「へえ」とだけ返した。
「いやいや、『へえ』じゃなくてさ、ね? 困ってる人がいるわけじゃん?」
口調からして、かなり舐められている。金稼ぎをしようという魂胆が見え透いている。そんな輩のために、夜行明けの体を疲れさせたくないのだが。
「だからさ、俺たちは人助けがしたいだけなわけ。頼むからさ」と言った男が、シドロを肘でつついた。シドロは、おねがいします、と頭を下げた。
人助けがしたいだけ、なのか。私は椅子からゆっくり立ち上がった。「わかったよ」
ありがとうございます、ありがとうございますと、冒険者パーティの魔法使いや弓使いがにこにこした嘘臭い表情で礼を言った。
「ただし」と私は付け加えた。「そのクエストの討伐報酬金は、全額私に寄越すこと。いいな」
冒険者たちの態度が急変した。何言ってんだ、と言わんばかりに私を睨みつけ、さっきまで黙っていた魔法使いの若い女が、私に詰め寄った。
「ちょっとアンタ、どういうこと?」
「本当に人助けがしたいだけなら、報酬金なんて要らないよな?」
「はあ……? そういうことじゃ……」
言葉に詰まった女は言い返せず、低く舌打ちをした。そのやりとりを、シドロは不安げに眺めていた。
こうなることはわかっている。だからこそ言ったのだ。このまま同行することになると、私は金が手に入る。向こうが諦めると、私の休息時間が作れる。さて、向こうはどちらを取るか。
「もう、行こうぜ」と踵を返した男に続いて、冒険者パーティの四人は立ち去っていった。男は私の目を睨んで「調子に乗りやがって、底辺職のくせに」と吐き捨てた。
手元にあったグラスを握って振り上げた。
「えっ、ヘネリアさん⁉︎」
やっぱり、と私は手を下げ、グラスをテーブルにゴトンと置いた。
奥歯がギシギシと音を立てている。
誰が底辺職だよ。あの野郎。
「大丈夫……ですか? ヘネリアさん……?」とシドロが肩を窄めて聞く。私は、「知らねえよ」と、まもとな返事ができなかった。
少しずつ日が高くなってきている。私は借りた宿の窓際のベッドで、上体を起こして詩集を読んでいた。しかし、別に気にするほどのことではないとわかっていても、冒険者の言った「底辺職」の言葉が頭から離れなかった。
底辺、なのだろうか。そんなはずない、とかぶりを振る。別にあの言葉に深い意味なんてないだろう。あいつが苛立った勢いで言っただけ。そうだ、そうに違いない。私の仕事は底辺などではない。
ただ……、性格が曲がっているのは、自覚している。
もし私が、全額ではなく七割、いや、六割を受け取ることを提案していたら、結果は変わっていたかもしれない。もし私が、揚げ足を取らずに快く引き受けていたら。
くだらない。他のことを考えよう。詩集を閉じて枕元に置き、ふと窓の外を眺めた。緩やかな渓谷が眼下に広がっていて、その間を細く川が流れている。確かこの渓谷に魔物が出たらしい。
コンコンコンコン。
戸の向こうで誰かがノックした。律儀に四回ノックするとは、宿屋の従業員だろうか。私は「どうぞ、お入り下さい」と答えた。
思わず目を見開いた。戸を開けたのはシドロだった。彼は恐る恐る、何か言いたそうに部屋に入ってきて、ベッドの横に立った。
なぜ人の借りた部屋に来るんだ。お前の常識はどこへ置いてきた。
「何しに来た」
「あの」とシドロが言う。「さっきは、なんか、嫌な思いをさせてしまって……ごめんなさい」
なぜ謝るのだろうか。俯くシドロの目を見ると、他に言いたいことがあるのが伝わった。「それで?」
「えっと……僕だけでもいいんで、魔物の討伐に、連れて行って、貰えませんか……?」
私は黙って、再び窓の外の渓谷を見た。クレイでも歩けそうな勾配だ。しかし……。
「そうですよね、やっぱり、疲れてますよね」
見抜かれていたように感じた私は、咄嗟に振り向いた。
「いや、平気だ。それより報酬金額はいくらだ」
なぜ見栄を張ったのか、自分でもよくわからない。
「大銀貨三枚だそうです」
私はベッドから抜け出し、鞄を手に取った。全く疲れていないふりをして、「わかった、連れてってやる」と言い、部屋を出た。
「ありがとうございます!」
金になるとはいえ、また一つ、面倒を増やしてしまった。
読者のみなさんへ
どうも、零たろです。これまで連載を続けてきたこの作品ですが、忙しくなり、投稿ペースも落ち着かなくなり始めたため、誠に申し訳ありませんが、半年ほど休載をさせて頂きます。




