11話 酷寒
チュルディラへの道のりを舐めていた。北へ行くほど寒くなることくらい知っているが、これほどの極寒だとは思わなかった。私は四本の手足でのそのそと歩くクレイの背中の上で、毛皮に身を包んで、ぎゅっと縮こまって震えていた。
自前の分厚い毛布にくるまり、音もなく眠っているシドロが気に入らない。
もっと話がしたいって言ったくせに。
違う、別に私が話したかったわけじゃない。ただ、何もせずに震えている時間が、退屈に思えただけだ。
今日は朝から一日中、青年から質問攻めをされ、調子が狂い、息をつく間もなかった。その疲れが、今になってどっと込み上げてくる。それでも私は、これから一睡もせずに運転しなければならない。
今朝の新聞は焚き火に投げ込んだ。シドロを見ても、やはり眠っている。普段持ち歩いている詩集を読もうにも、そのために手を出すのが億劫になるほど寒い。本当に、することがない。これが朝まで続くのかと思うと、今の仕事が嫌になってくる。
これも自分で選んだ道だ、頑張らなくては。
腹が減った。昼食も夕食も食べていなかったことに、今気づいた。そして、鞄の底にあるものを取り出した。
目の粗い布に包まれたそれは、数ヶ月前に、本で読んで作った保存食だった。野菜やら豆類やら乾燥した魚肉やらを混ぜて棒状に伸ばしたものだが、一年間は保存できると本に書いてあったから、問題ないはず。私は布をめくってそれを一口齧った。
……不味い。むちっとした食感とともに、雑草と生肉の中間のような味が広がり、ねばねばと口の中で糸を引く。この粘り気が、過去に食べた東洋の茶色い豆に似ている。
一口目で捨ててしまおうと思ったが、私はこれをなんとか最後まで食べ切った。
……食べなけりゃよかったなと、心底後悔している。
粘っこい唾液が口の中に残る。本に書いてあった保存食がこんなにも不味いとは思わなかった。
しかし、食事をしたおかげで、少し身体が温まった気がする。私は再び毛皮にくるまった。
何時間クレイを歩かせ続けただろうか。林を抜け平原に出たあたりから、眠気が襲ってきた。腹も痛くなってきた。
休みたい。しかし、休めるところがない。なんとか眠らないようにと、眠気を感じる度に私は自分の頬を引っ叩いた。それでも眠いときは、カンテラに顔を近づけて、魔除け香の煙を思い切り、わざと咳き込むほど吸った。
寒い、疲れた、眠い、お腹が痛い。嘆いたところで助けなど来ないのはわかっていても、何かに期待してしまう。すぐそこに村があって、誰かが暖かい食事と寝床を用意してくれるんじゃないか。今すぐに日が昇って、気温が上がるんじゃないか。
私は自分の頬を一際強く叩いた。深夜だからといって、馬鹿なことを考えるな。
と思い直したものの、こういう時に決まって蘇る、過去の碌でもない記憶が、頭の中をぐるぐる回る。嫌な景色、嫌な言葉が何度も繰り返される。寒さもあってか、それらが時折、私の胸や喉元を強く握る。
駄目だ、こういう時間帯に、こんな寒い環境では頭がろくに働かない。
つらい、寂しい。人と関わりたくなくて、一人で生活する仕事を選んだのは自分自身なのに、都合が悪くなると、急に人が恋しくなるのは、矛盾した感情だと、自分でもわかっている。孤独感に苛まれて、苦しいとかつらいとか思う自分が愚かだということは、人に言われなくても自覚している。
いつも新聞を見て呟く言葉が自分を抉る。「自業自得」という考えが、真っ直ぐに心臓を射抜く。
「……わかってる、わかってるよ」と独り言を零す。「おかしいよな、なあ、クレイ」
クレイは返事をしなかった。当たり前だ。私はもう一度、右手で自分の頬を叩いた。




