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ひねくれゴーレム運転士  作者: 零たろ
10/13

10話 夜行

 刻々と夜が迫り、辺りが暗くなってくる。いつかの誰かが残した轍を頼りに、私はクレイを歩かせた。


 早く起こしてくれれば、という考えが脳裏を掠めるが、それは我儘でしかない。わかっているが、だからこそ腹立たしく思える。


 日が暮れてしまう。魔物が活動し始める前に、宿泊できるところが見つかるだろうか。


 早く、早くしないと、夜が来てしまう。


「すっかり秋ですね。虫が鳴いています」


 黙っとけ。どうでもいいことで話しかけるな。私はシドロの声が聞こえないふりをして、周りを見回した。


 どこかに明かりが灯っていれば、そこに民家や村があるのだが、それらしいものは何も見当たらない。ならば、今からハールハル高原に引き返そうか。


 いや、今から引き返しても、高原に着くころには真夜中だろう。


 西の空を睨む。いつの間にか太陽は沈んでいたが、まだ橙色が残っていた。


 運転席の脇に吊るしたカンテラに目を遣る。できればやりたくないのだが、もうやるしかない。私はクレイの歩みを止めた。


「もしかして、キャンプですか?」と、シドロが屋根付きの荷台から話しかける。


「お前、魔力結界が張れるのか」


「え、いえ、張れないですけど……結界って必要ですか?」


 経験が浅いのか、こいつ、野宿を舐めてやがる。結界の重要性を知らないようだ。「魔物のおやつになりたきゃ、好きにしろ」


「そんな言い方しなくたって……」と呟いた青年は、「じゃあ、どうするって言うんですか?」と口を尖らせた。


「夜行だ」と答え、私はカンテラを手に取った。確か魔除け香が荷台に置いてあったな。「そこにある赤い小箱を取ってくれ」


「やこー……夜行⁉︎ 夜行なんて、危ないですよ! 夜行なんてしたら、それこそ、魔物のおやつじゃないですか!」


「わかったわかった、いいからその箱を」


「この前だって、僕の親戚の友達の弟さんのギルドが……」


「いいからさっさと寄越せ」と、睨んだ私の目に、シドロが怯んだ。そして、渋々小箱を手に取った。


「何ですかこれ……」


「魔除け香」


 シドロが黙る。私の言っていることを理解したようで、かなり恥ずかしそうに俯いていた。そして、どうぞ、と私に小箱を手渡した。


 香箱の蓋を開けると、魔除け香の粉末が少しだけ残っていた。足りないわけではないが、次使おうと思えば、途中で無くなるだろう。次の街で買い足さなくては。


 カンテラの上部にある細い筒に、魔除け香をささっと注いで、パチンと指を鳴らしてカンテラに火を灯す。すると周囲が薄明るく照らされ、魔除け香のフローラルな香りが漂い始めた。この香りは私のお気に入りなのだが、魔物にとっては吐き気がするほどの悪臭なんだとか。


「今の、指鳴らして火つけるやつって、魔法ですよね! どうやって使うんですか?」


 まったく感情が忙しない奴だ。どうやって、と言われても困るのだが。「普通に、鳴らすだけ」


「普通って言っても、習得しないとできないですよね! 他に使える魔法とかって、あるんですか?」と、目をキラキラ輝かせて尋ねてきた。


「今ではこれしか使ってない」と、シドロにきっぱり言ってやった。「着火以外は、魔法がなくても自力でできる」


 魔法について話を聞きたかったのか、シドロは少し残念そうに肩を落とした。


 そんな彼をちらっと見たあと、私は前を向き直り、よし、頑張ろう、と息をついた。


 疲れるからなるべくやりたくなかったのだが、もう、頑張って行くしかない。


「今から翌朝まで夜行する。寝ていてくれて構わない」


「いや、もうちょっと、ヘネリアさんとお話がしたいです」


「……そうか、好きにしてくれ」


 初めて言われた言葉だった。胸がキュッと締まるような、知らない感情が湧く。シドロが後ろでどんな顔をしているかわからないが、私は振り向かなかった。なんとなく、目を合わせたくなかった。


 片手で手綱を引く。真っ暗な林道の先を、荷台を引いたクレイが、静かに歩き始めた。

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