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縁の下に咲く花達  作者: 光希 佳乃子
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第26章

「全部、話すから」


項垂れる明日香を非常階段に置いて、俺たちは建物の中へと入った。


ドラマの撮影が行われているはずの8階の収録現場近辺は、大騒ぎになっていた。


明日香の所属事務所「ファニープロダクション」の社長が、暴力団との関係について逮捕された。という第一報が入ったからだ。


以前から噂されていたことだったが、ここまで大きく取りざたされ、事務所社長が逮捕されるほどの大騒ぎになった事は、今までなかった。


そして、今ここにいない明日香を探すスタッフ・・・皆心配そうだった。


何せ、明日香は、あの事務所でも一番人気の女優兼モデル。今回の社長の逮捕と事情聴取をうけて、明日香にも事情聴取が・・・と噂するスタッフの声が、虚しく聞こえた。


そんな喧騒から逃れ、俺たちは桜さんの控室に戻った。


桜さんは、心配そうな表情で、部屋に入ってきた俺たちを見つめた。


「大丈夫ですよ、そんな顔、しないでください」


憲一さんがいつもするように、宥めるように髪を撫でると、一瞬驚いたようにビクッと体を震わせたが、少しだけ、柔らかい表情を見せてくれた。



時計をみると、昼休憩はもうとうに終わっていた。スタジオでは他のグループのリハーサルが始まっているだろう。それらが全て終わると、本番になる。


「何か、飲む?」


そう聞きながら、桜さんは俺達にコーヒーを用意してくれた。本番前のピアニストにそんなことをさせる訳にはいかない、そう思ったけど、今だけは、それに素直に甘えることにした。


俺たちの重苦しい空気は、桜さんのいれてくれたコーヒーのおかげでいくらか和らいだ。


そして、落ち着くと・・・リュウが、ポツリ、ポツリと話を始めた。


「明日香は・・・私生児、なんだ」


「私生児?」


聞き慣れない言葉をバカみたいに聞き返すと、桜さんは苦笑いした。


「正式に結婚していない男女の間に生まれた子供で、父親に認知されていない子供の事」


「・・・それって、男が、結婚相手じゃない、浮気相手の女と、子供を作った、って事か?」


そう聞き返すと、リュウは、軽く頷いた。


「・・・ま、そんなところだ。

で、明日香の父親は・・・今回問題になった暴力団のトップだ。異母兄は・・・そこの幹部。近いうちに暴力団を継ぐ奴だ」


「・・・暴力団の、トップ?!」


俺と桜さんは、それ以上の言葉を失い、顔を見合わせた。


「本人は、殆ど話そうとしない。

俺と、マナトだけしか知らない。

高校の時、偶然聞いたんだ」


リュウはそういうと、手元にあるコーヒーを飲んだ。


「私生児、といっても、明日香の両親は不仲という訳ではないらしい。暴力団側には、認知できない事情もあるらしくてな。

実際、彼女が芸能界入りする時、父親の暴力団と結びつきの強い、今の事務所に入った。・・・父親が口利きしたんだろう。

事務所は、明日香が所属することによって、暴力団とのつながりを強くして、相応の権力を手に入れた。

事務所は、暴力団との結びつきを強くしたい、と思っていたし、暴力団のトップは、娘の望みを叶えてやりたい、という想いがあった。利害関係が一致してたんだ」


俺達は、何も言えず、リュウの顔を見るだけだった。


「明日香は、自分の父親が誰なのか、とか、そう言う話は、口止めされてるのか、自分からは一切しない。

でも、ライバルの女優やモデルを潰したり、今回みたいに、邪魔な存在への嫌がらせをするのに、その暴力団を使っていたんだろうな。


俺・・・何も気づかなかった。


七海が襲われた、って話を聞いても、明日香の名前が犯人として浮上しても、明日香と暴力団の関係なんて、・・・正直すっかり忘れてた。


明日香があんまりにも自然に、俺たちの側に居すぎてな。

でも、マナトもシンも気づいてたらしい。

その可能性を俺に話してくれて、初めてその事実に思い当たったんだ。

鈍いな、俺・・・」


自嘲するように、寂しく笑った。


(コンコンっ!)


ドアをノックする音が聞こえて、憲一さんが控室に入ってきた。


「憲一さん」


桜さんが、憲一さんの見て、少しほっとした顔をした。でも、その表情も長続きしなかった。次の憲一さんの一言で・・・・


「明日香が、警察の事情聴取を受ける事になった。

事務所の社長が、明日香と暴力団の関係を警察に白状したらしい」


「そう・・・」


それを聞いたとき、桜さんは少し寂しそうな顔をした。桜さんの中では、明日香は、まだ大切な飲み友達なのだろう・・・






リュウの事が好きで、リュウに近づく女に嫉妬し続けていた明日香は、


リュウに近づく女に、ことごとく嫌がらせをしていた。


最初は、ちょっとした嫌がらせだったが、それは段々エスカレートしていった。


エスカレートするに従って、明日香は自分の兄や、暴力団の若い連中を使うようになった。


暴力団の若い連中を使うのは簡単だった。自分の実父はその暴力団のトップで、兄は幹部で、次期トップ。その立場を利用したのだ。


七海さんに対する嫌がらせも、そうだった。


一度目の犯行が終わったあと、七海さんは身を隠し、携帯も機種変更した。それで、明日香は七海とリュウが別れたと思って安心した。


ところが、テレビ局に七海さんが俺の携帯を届けてくれた、あの日。


トイレで明日香と七海さんが、偶然接近遭遇した。


明日香は、その時七海さんの携帯をスり、再び七海さんの携帯番号やメアドを手にいれた。


俺たちと同じ事務所にいる、ということも、あの日の俺との接触でバレてしまった。


そこで明日香は、 二度目の脅迫と犯行に及んだ、ということだ。



「とりあえず、これ以上・・・七海に手を出さないよな?」


憲一さんはそう言った。


実際、明日香と事務所社長が事情聴取を受け、暴力団との関係が取り沙汰されたら、七海さんどころではなくなるだろう。


けど・・・


誰も笑っていなかった・・・



重たい空気が、部屋を包み込んでいた・・・



「事実ってのは、

知っちまうと、

あっけないな」




「それに・・・

辛いね。

そんなことをしても・・・

人の心は自分のものにはならないのにね・・・」



憲一さんと、桜さんが、小さな声でそう呟いていた。


その言葉は、俺にとって、とてつもなく重たく感じた。


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