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縁の下に咲く花達  作者: 光希 佳乃子
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第22章

杉崎さんの事は、「ERIS」のメンバーに任せることにした。


「ERIS」のメンバーにしてみれば、杉崎さんはデビュー前から世話になっている恩人でもあるし、明日香の共犯者ではあるけど、七海を助けた、という事もあるし、なにより、七海さん自身が、杉崎さんには感謝こそすれ、恨んでいる様子が全くなかった。


「私は、このコラボのプロジェクトが終わったら、警察に出頭するつもりです」


そう言っている杉崎さんを、半ば宥めるようにしてマナトさんは控室から連れ出した。


ただリュウだけが、まるでフリーズしたように、椅子に座り込んだままだった。


「・・・なあ、青木さん?」


それからどのくらい経ってからか、リュウが俺に声をかけてきた。


その声は、どこか覇気が無くて、まるで今繰り広げられた一連のことさえ、飲み込めていないのかと思う程だった。


「何ですか?」


「七海が、襲われたってのは、本当なんだよな?」


「本当です」


俺は断言した。七海さんは、リュウから目を逸らした。


「それに・・・杉崎さんが絡んでいた、ってのも本当だよな?」


確認するように、言った。一瞬ため息をつきたくなったけど、俺はそれをぐっと堪えた。きっと、今目の前で起こっていた事自体、まだ把握できていないのだろう。・・・きっと、七海さんがここにいる事で、他のことなんか、二の次になってしまっていたのだろう・・・


「本当です・・・動機や理由は・・・」


「や・・それは判ってる・・・つもりだ・・・・」


リュウ自身と七海さんの事を、事務所に秘密にするため、明日香に口止めするために、明日香に協力した、という事。


「七海を襲ったのは、明日香・・・なのか?」


「その可能性が、高いです」


状況証拠と杉崎さんの証言で、明らかになった。明日香の当日のアリバイとか、決定的な証拠は何もない。・・でも、間違えないだろう。


するとリュウは、何か決心したように立ち上がると、つかつかと控室から出ようとした。


「ど、何処行くんですか?」


俺がそう言って呼び止めようとすると、


「明日香と話ししてくる!

彼女今日、別のスタジオでドラマ収録だ!

今行けば会えるはずだ!

明日香に直接会って確かめる!」


「辞めろ!リュウさん!」


出て行こうとするリュウを止めたのは、憲一さんだった。桜さんを宥めていた憲一さんが、俺が動くよりも早く、ドアの前にいるリュウに近づいてその腕を掴んだ。


「離せよっ!

明日香なんだろ?

会って問い詰める!」


「辞めろ!

問い詰めたって否定するだけだ!

それに、彼女と彼女の事務所のバックには、暴力団がいる。

揉み消される。

それどころか・・・お前の事務所に圧力かかるかも知れないぞ!

・・・うちの事務所みたいに、な」


「なん・・・だって?」


事務所への圧力。その一言で、リュウは驚いた様に憲一さんの顔を見た。


「桜さんたちの事務所に、圧力かかったのかっ?」


リュウの問いに、憲一さんはうなずいた。


「七海さんが襲われた事件に関する、一切の関与を止められた。

明日香の事務所と、その暴力団の圧力で、な。

同じ圧力を、そっちの事務所もかけられるかもしれないぞ。

そうなったら面倒だ!」


事務所への圧力。そう言われた途端、リュウははっとしたように動きを止めた。


その圧力の恐ろしさを、もしかしたらリュウは知っているのかも知れない。


「でも・・・明日香が犯人なんだろ?間違えないんだろ?」


「状況証拠と杉崎さんの証言だけです」


俺はそう言った。リュウはため息をつきながら項垂れた。決定的な証拠がない、それにリュウも気づいたみたいだ。


ふっと、俺は、項垂れるリュウから、視線を桜さんに移した。


さっきから、桜さんが何も喋っていないのを思い出したのだ。


「桜・・・さん?」


桜さんの手には、彼女の携帯があった。


何やら操作をしているみたいだった。前の収録の時もそうだったけど、桜さんの、意味不明な行動が、最近怖くなってきた。


「何・・・やってるんですか?」


この緊迫した空気の中で、何をやってるんだ? 半ば呆れながらそう聞いた。


「・・・うん、明日香さんに連絡してるの。

暇だったらこっちに来てって言おうとしたんだけどね・・・」


「おい桜!いくら何でもそれはまずいだろ!」


その桜さんの行動を真っ先に止めようとしたのは憲一さんだった。


憲一さんの言うとおりだ。それは辞めた方が良い。


ここにはリュウも、七海さんもいるのだ。もしも明日香が犯人だったら・・・明日香は七海さんに何をするか判らない。


けれど桜さんは、ん〜・・・と、何か考え込んだままだった。


「でもね、さっきから、明日香さんにメールしてるんだけど、エラーで送信できないの。

電話もしてみたんだけど、電話番号無効になって・・・繋がらないの」


桜さんは携帯を眺めながら残念そうにそう言った。


「携帯が使えない?どういうことだ?

彼女、携帯持ってないと不安になる奴だから、

携帯手放すなんてあり得ないぞ」


リュウも、不思議そうな顔をしている。


もしかしたら、警察が、明日香と明日香の事務所に対して動き出しているのかも知れないし・・・そして、明日香は危険を察知して携帯を手放した可能性もある。・・・


「でも・・・このテレビ局には来ているんだよね?」


「ああ、収録があるって言ってた」


桜さんの問いに、リュウは答えた。


明日香さんは今、ドラマの撮影中だ。もう佳境に入り、かなり忙しいらしいが・・・


「やっぱり、撮影現場に行ってみるか?」


「それはやめておいた方が良い。ドラマ収録に支障が出たら大変だろ?」


常識論を唱えたのは、憲一さんだった。収録が長引く・・・それが現場にどんな影響を及ぼすかは、憲一さんも含めた俺達が一番良く判っているつもりだ。そのせいで帰宅時間がどんどんずれ込み、次の仕事、翌日にさえ支障が出ることさえ、ある。


それも明日香一人ならまだ良いが、そのとぱっちりをくうのは、スタッフ全員だ。スタッフは、ドラマに出演するキャスト以上の数、いるのだ。そんな大人数に迷惑をかけるわけにはいかない・・・


「じゃあ、どうすれば・・・」


黒幕が判っているのに捕まらない・・・その苛立ちが部屋を見たそうとしていた。


その時、


ドアのノックと同時にドアが開いた。


「桜さん、三十分後にリハーサルです!準備お願いします!リュウさんも!みんなが探してましたよ!」


それは、番組スタッフだった。


「あ、はい!判りました!」


桜さんは慌てて返事をすると、支度をするべく立ち上がった。


そう、今日は、こんな話をしに来たわけではない。“ERIS”とのコラボ曲を生放送で初公開する当日なのだ。


その意識は、リュウにもあったらしく、スタッフに声をかけられたリュウは、心を切り替えるべく、首を横に振った。まるで雑念を取り除くように・・・


「また後で・・・」


短くそういうと、リュウは俺と憲一さんに軽く一礼すると、控室から出て行った。


俺達は、その背中を見送った・・・


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