第10章
大沢さんに拒絶され、しばらく立ち尽くしていたが、いつまでもこうしていられない。
落ち込む気持ちを無理やり切り替えて、食堂を出ると、そのまま桜さんの控室に戻った。そろそろ憲一さんが打ち合わせから戻ってくる。そうしたら、今日の共演者やスタッフに、桜さんと一緒に挨拶にいかなくてはいけないのだ。
重たい足取りのまま、控え室に戻った。
「おかえり」
控室には、支度をすっかり整えた桜さんが待っていた。
今日の桜さんの衣装は、いつもの伴奏者としてのドレスではなく、マナト達の衣装に合わせた、今風の服だ。「ERIS」のメンバーも、今回はダンスしないので、普段の動きやすい衣装とは一味違う。このまま結婚式の二次会パーティーにでも出席出来そうな衣装だ。
「ただいま」
そう言いはしたものの、一体どんな顔をしていいのか判らず、俯いたまま仕事に戻ろうとした。
「憲一さんは?」
「まだ戻ってないの。
そろそろ、“ERIS”のみんなのところに行こうか?
挨拶に行かなきゃ」
桜さんはそう言って立ち上がった。時計をみると、そろそろ挨拶にいかなくてはいけない時間だ。
「俺も一緒に行きます」
「ありがと」
俺の言葉に、彼女は笑顔でそう言ってくれた。まるでさっきまでのやりとりがなかったかのように、自然だった。
「でも、挨拶までに戻ってきてくれて、よかった」
「それは・・・仕事ですから」
正直、桜さんを一人で歩き回らせたくない。心配、と言うわけではないけど、万一怪我でもしたら大変だ。
単なる心配性なだけだ、と言われたらそれまでだが。
今日は、いつもレギュラー出演している音楽番組と違って、出演者も多い。共演者もスタッフも、いつもの番組の比ではない程多い。
中には、桜さんとは全く初対面の人もいる・・・いや、そう言った人の方が多い。
「ERIS」のみんなと一緒とはいえ、挨拶には、俺や憲一さんが同伴しないとまずいだろう。
「なんか・・・この衣装、派手だね。落ち着かない」
彼女はいつもと違う衣装の裾や袖に触れながら、照れ臭い顔をしている。
桜さんの衣装は、明らかにいつもと違う衣装だった。でも、「ERIS」のメンバーと一緒にこの衣装で並ぶと、さまになるし、クラシックピアニストには見えない。
その揃いの衣装も、一緒に挨拶に行く、と言う事実も。まるで、桜が「ERIS」の一員になったみたいで、嬉しいような、こそばゆいような、不思議な気分だ。
もっとも、桜さん自身は、どう思っているのか・・・いつもとさほど変わらない桜さんの表情からは全く読み取れない。ただ、いつもと違う衣装に戸惑っているようだった。
パンツスーツなのが救いだ。これでミニスカートでピアノを演奏する、なんて事になったら、桜さんは絶対に嫌がるだろう。
っと・・・あれ?
「桜さん?」
俺は不思議になって桜さんを・・・というか桜さんの腕をみた。
桜さんの腕に、見慣れないブレスレットがついていた。
ブレスレット・・・いや違う、バンクルだった。
それほどゴツいものではない。彼女の指の第一関節くらいの幅で、普通に、女性がファッションとしてつけるような、シルバーのバングルで、所々に宝石のような石・・・多分本物ではなくフェイク・・があしらわれている。
それだけだったら、単なる女性のアクセサリーだ。俺も気にも留めなかった筈だ。
でも、今まで彼女が、そんなブレスレットを腕につけて本番に臨んだことなど、今まで一度だってなかった。
ただでさえ、普段からアクセサリーを身につけない上、舞台本番の時でさえ、装飾品を着けたがらないのに。
「演奏に影響が出るから嫌だ」と、指輪さえも舞台上でつけない。もちろんブレスレットだって、つけることは絶対にない。
今まで、J- POPの伴奏をする時でも、そのスタイルを崩すことはなかった。今回だって、衣装合わせの時、スタイリストさんにブレスレットやアクセサリー類を勧められても、それを頑なに断ったほどだ。
「ブレスレットなんて、珍しいですね」
「うん。J-POPだし、ちょっとだけ派手にしてみようかなって思ったの。衣装とも合ってるでしょ?」
「え?ええ・・・」
確かに、衣装に合っている。
そういう意味での違和感はない。
でも・・・桜さんらしくない。
そのらしくなさを桜さんにぶつけようとした、その時・・・
“コンコン”
ドアをノックする音が聞こえた。『ERIS』のみんなが来たのかと思い、返事をすると・・・
「やっほ!桜っ!」
ドアの前には、明日香さんがにこやかに立っていた。
「明日香さん・・・こんにちは」
モデルで女優。そして桜さんとは飲み友達だ。
収録でテレビ局に来ると、彼女もテレビ局にいたりするとこうして控え室に遊びにくる。
細身で長身で、整った顔立ち。マナトやリュウ達と並んで立っても遜色ないようなパーフェクトな女性だ。その辺りは童顔で小柄な桜とは対照的に見える。その明日香さんが桜さんと仲良し・・・という現実も、俺は今ひとつ飲み込めない。
性格も・・・おっとりした桜さんとは対照的で、物事をはっきりさせないと気が済まない性格だ。言いたい事をずけずけと遠慮なく言うところもあって、周囲やスタッフは閉口したりする。
それでも、桜さんは、そのサバサバした性格をとても気に入っているように・・・見えた。
人は、自分にはないものに惹かれる、とでもいうのか、明日香さんも桜さんのことを気に入っているように見える。
桜さんは、女性の友達が、それほど多くはない。
同業者でもある演奏家やピアニストの女性の友達はいるけど、それ以外となると、殆どいない。
まして、テレビ局に出入りしているにも関わらず、芸能人の女性の友達は殆どいない。それは、彼女がレギュラー出演している音楽番組のみに出演しているからかも知れない。その番組関係者以外の知り合いは極端に少ない。
テレビでよく見かけるお笑い芸人さんとかバラエティアイドルなど、全く知り合いではない。テレビ局に仕事に行っているにもかかわらず、だ。
そんな彼女にとって、明日香さんは、唯一の、芸能人の女の友達のようだ。
そういえば・・・以前七海さんが俺の携帯を届けにきてくれたあの日も、収録前にシンさんと一緒に廊下で会ったし、収録の時もシンさんと一緒に収録見学していた。
実際、俺も明日香さんとは桜さん経由で知り合いになった。とはいえ、個人的に親しいわけではないが・・・
「明日香さん!」
「桜、元気?!」
明日香さんを控え室に入れると、桜さんは笑顔で明日香さんに駆け寄った。
「久しぶり!ごめんね、ここのところ忙しくて」
「いいのいいの!ERIS企画で忙しいみたいだもんね。インタビュー、読んだよ。なんかさ、いつもの桜とは別人だね。
良い感じじゃない?ビジュアル系に路線変更したみたいな感じ!」
「あ、あれね、ちょっと恥ずかしいんだ。私じゃないみたいでしょ?」
「うん、そうかも!でもイメチェンみたいでいいよ!」
そんな話をしている二人の話に耳を傾けながら、俺は書類に目を落としていた。話好きな明日香さん、桜と話を始めると、本当に長い。途中で俺が話しを中断させるのは、はっきり言って無理だ。
「そういえばさぁ、リュウの噂、聞いた?
前付き合ってた女が襲われたんだって」
リュウ、前の彼女・・・
その瞬間、はっとして、俺の耳は明日香さんの言葉をじっと聞き始めた。
マナトさんは、本当にリュウの周囲の女性に聞いて回っているのだ。この前、シンさんも言っていたけど・・・本当に捜している・・・
そう思った途端、さっきの大沢さんの一件で落ち込んでいた俺は、まるで唯一、味方を見つけたように安心した。
俺は一人じゃない。七海さんの事を考えてくれている人が、ここにもいる!
「ん、・・・私も聞いた。大変だったみたいだね・・・」
桜さんも、注意深く、その話に合わせている。
「明日香さん、リュウと付き合い長いよね?何か知ってる?」
桜さんがそう聞くと、明日香は首を横にふった。
「知らない。
リュウだって水臭いよね。彼女いるなら、ちゃんと紹介してくれればいいのに!」
心配そうな顔に、少しだけ拗ねたような声で明日香さんは言った。
「明日香さん、拗ねてる?」
のんびりした声で、桜さんがそう聞くと、明日香さんはまあね、と頷いた。
「だから、水臭いって言ってるの。
リュウと私、結構長い付き合いなのに、教えてくれないんだもの!」
少し怒っているようにそう言いながら、まるで桜さんに当たるように言った。言われた桜さんは、少し後ずさった。
「・・・明日香さん、ちょっと怖いよ」
「あ、ごめん!」
「明日香さんは、リュウのこと本当に好きなんだね。
好きな人に、隠し事されると嫌だもんね」
「そ、そりゃあ・・・」
にこにこと、毒気が抜けるような笑顔で、桜さんはのんびりと言った。明日香さんは一瞬、その怒りを鎮めたけれど・・・
次の瞬間、桜さんの口から爆弾発言が出てきた。
「そういえば・・・私、リュウの、前つき合ってた子、知ってるんだけどね?」
桜さんの、突然のその言葉に、俺は驚いて桜さんを凝視した。桜さんは、相変わらずの天然風味な表情をしている。
「え?桜、知ってるの?」
明日香さんは間を置かず、その話に食いついてきた。桜さんは、相変わらずの天然風味な表情で、うん、と頷いた。
「うん、彼女のお父さん、私の同業者だから。
彼女のお父さん経由で、ね。
私が今度“ERIS”とコラボするんだよって話したら、リュウと知り合いだって話になったの。もしかしたら、彼女がリュウと付き合ってた人かもしれないね」
「えっ?」
俺の方が驚いて声を上げてしまった。
・・・確かに、七海さんのお父さんはジャズピアニストで、桜さんとも面識がある・・・とは聞いていた。この前社長が言っていた。
それでも!
今、この状態で、彼女の個人情報をばらすのは、まずくないか?
俺のそんな想いを知ってか知らずか、桜さんは言葉を続けた。
「この前、偶然見ちゃったんだ・・・
その子が・・・車に連れ込まれてるところ・・・
多分・・・襲われた時・・・」
桜がそう言った途端・・・明日香さんの顔が、はっきりと強張った。
(・・・え?・・・)
その表情の変化はあんまりにも顕著だった。その表情を、桜さんは一瞬見たようだったけど、それでも言葉を続けた。
「たまたま、事務所に夜遅くまでいてね。憲一さんと帰る途中だったの。
一瞬しか見えなかったけど、連れ込まれてるの、彼女だった様な気がするの。
その車のナンバー写メっちゃった。彼女も写ってるの。
今回の“ERIS”企画が終わったら、警察に届けようねって、憲一さんと話してたところなの」
彼女の言葉を聞きながら、明日香さんは、顔を強張らせたまま、凍り付いたように動かない。
桜はそういいながら、カバンからさり気なく携帯を取り出すと、衣装のポケットにいれた。収録中現場に携帯を持って行くことは禁止されているはずなのに。
まるで携帯を明日香さんに見せつけるように・・・
(桜さん、何考えてるんだ!)
・・・俺は、桜さんの言葉に、言動に、声さえ出なかった。
「明日香さん?どうかしたの?顔色悪いよ?」
部屋の中には、まるで何もなかったかのような、桜の声だけが残っていた。
が。
“コンコン”
その空気を壊すかのような、絶妙なタイミングで、再び、ドアをノックする音が部屋に響いた。
慌てて返事をすると、ドアが開いて、「ERIS」のメンバーがぞろぞろと入ってきた。
「桜さん、おはようございます」
「今日はよろしくお願いしまーす」
口々に挨拶し始めたので、桜さんは慌てて、明日香さんとの話を中断し、立ち上がりお辞儀した。
「おはようございます。
ごめんなさい、こちらが挨拶にお伺いしなきゃいけないのにっ」
桜さんが恐縮しきってそう言った。でもマナトさんは平然として笑っていた。
「いやいや、いつも桜さんが挨拶に来てくれていたから、今日は俺達がね~」
「っていうのは建前!本音は桜さんの控え室、見てみたかったんだ!」
「楽屋訪問〜!」
「ついでに私物チェック!」
「そうそう!今回の企画のドキュメントで公表しちゃいましょう!マナト、カメラ回せっ!」
「ケータ、お前それはヤバいって」
「いいじゃん! 今回のCDの特典映像に追加しようよ!」
「・・・あ、明日香ちゃんも来てたんだ!、明日香ちゃん、こんにちは!」
メンバーが明日香さんに挨拶したけど、明日香さんはそれに返事することさえ、出来ないようだった。それ以上に、今の桜さんの言葉に驚いて、声さえ出ない様だった。
そんな明日香を不審に思ったのか、「ERIS」のメンバーの表情が少し曇ったが、それほど気にすることもなく、メンバーはいつものようにじゃれ始めて、桜さんはそれを見ながらくすくす笑っている。
この企画が始まってから、桜さんも「ERIS」と一緒の時間が多いせいか、以前よりも随分打ち解けているように見える。メンバーも平気で冗談を言ったりふざけたりするようになっていた。その空気は、この企画が始まった頃と比べたら随分柔らかく、穏やかだった。
けど、唯一、メンバーの中でもリュウだけは・・・表情が暗かった。それは、企画が始まったあのころとは比べものにならない程だし、企画で顔を合わせるごとに、どんどん疲弊しているように見えた。
七海さんの事で、悩んでるのだろうか?・・・
そう思いはしたけど、俺にはどうすることも出来ない。
七海さんの事は、まだリュウには秘密、という約束だった。
「リュウ!」
「明日香か・・・」
凍り付いたように動かなかった明日香さんが、リュウを見つけた途端、立て直すかのような、貼り付けたような笑顔と共に近づいてきた。
「ねえ、今日この後暇?久しぶりにご飯一緒に行こうよ!美味しそうなイタリアン、見つけたんだ!
話したいこともあるし、ね?」
「悪い、収録の後スタッフとミーティングなんだ」
そう、この収録の後、まだ仕事が続くのだ。
「終わるのいつ?遅くなりそうなの?」
「ああ、桜さん達のスタッフも一緒のミーティングだから、遅くなるかもな」
リュウがそう言った途端、明日香さんはくるりと桜さんの方を見た。その表情は、さっきとは対照的で、少し冷たい感じだった。
その視線に、一瞬寒気さえ感じた。
「桜も一緒なの?」
冷たい、声だった。さっきまで、桜さんと話していた声も、怒ったり拗ねたりしていたけど、そんなのとは比べ物にならない。本当に同一人物が同じ相手に発している声か??と疑いたくなるほどだった。
「うん。今日の収録の反省会とか、いろいろね」
一方、桜さんの態度はさっきと何ら変わらない、のほほんとした口調で答えた。他人の気持ちに敏感な桜さんが、明日香さんの態度の変化に気づかないわけ、ない筈なのに。
「うそー、私そんなの聞いてないよ!」
「誰も明日香に言ってないよ。明日香には関係ないだろ?」
リュウは冷たく言い放った。事実、この会議自体、トップシークレットというわけではない。けど、対外的なスケジュールならまだしも、内部関係者のみのスケジュールを、関係者以外の明日香に話す義理はない。
それに、この会議も嘘ではない。何せ、今回の曲を関係者以外に正式に公開するのは今日が初めてなのだ。今日の出来次第で、また曲や振り付け、アレンジの変更も考えなくてはいけないのだ。
「ずるーい、桜ばっかりリュウ達独り占めして!」
「遊びじゃないよ、仕事の打ち合わせだよ。
お前だってドラマ収録とかこつけてシン達を独占してんだろ?
シンの彼女が知ったら、ヤキモキするだろうよ」
マナトさんが、そんな明日香さんをなだめるように言ったけど、それは逆効果となった。
「そんなの、勝手にヤキモチさせときゃいいのよ!
私に関係ないでしょ?
それに大体、シンに彼女なんているの?」
明日香さんはマナトにくってかかった。マナトさんは一瞬だけ、桜さんを見た・・・ような気がしたけど、それは気のせいかも知れない程、一瞬だった。
「さあな?
でも、お前、シンに何度色仕掛けしても、あいつお前を相手にしてないだろ?
他に好きな奴がいるって事じゃないのか?」
そう言われた途端、明日香の顔は、羞恥か、それ以外の感情か、真っ赤になった。
「そんな、言い寄ってなんかいないでしょ!
それにそんなこと、リュウの前で言わなくたって良いじゃないの!」
後半は、小声になったような気がしたのは、リュウに聞かれないようにするつもりだったのかも知れない。丸聞こえだったが・・・
そして、マナトと明日香のやりとりを、どこか冷めた目で見ている、リュウとメンバー達・・・
マナトさんは、拗ねまくる明日香を宥めているが、明日香は不機嫌な顔のまま、視線の端で桜さんを睨んでいた。桜さんはその視線に気づいているようだけど、いつもと何ら変わらない、のほほんとした天然風味な表情をしている。
それが余計に気に入らないのか、明日香さんはマナトさんを払いのけるようにして、再び桜を睨み付けた。
「桜、最近リュウ達と一緒にいすぎ!」
その声は、拗ねるのを通り越して、怒っているようにさえ、見えた。
怒る・・・いや、違う・・・
これは、女の嫉妬、って奴か?
事実、ここ最近、桜さんはいつも「ERIS」と一緒の仕事が多い。そこには勿論リュウだっている。
側にべったり・・・と言うと語弊があるが、桜さんの仕事柄、一つの仕事で、ここまでJーPOPアーティストと一緒にいることは、今までなかったた。今回、ここまでがっつりと一緒に仕事する事自体、桜さんにとっては刺激になるだろう。
全てはコラボ企画の為、なのだが・・・それが、明日香には不満なのかもしれない。
「ピアニストだか東洋の至宝だか知らないけど、ちょっと調子に乗ってるんじゃないの?
ちょっと可愛くてピアノひけるからってみんなに持ち上げられてっ!」
「明日香~、ピアニストに言う事か?」
「お前だって、彼女ほどピアノ弾けないだろ?」
他のメンバーまで明日香の言動に呆れ始めている。
「そうだけど、生意気だって言ってるのよ!
リュウ達独占して・・・」
「明日香、いい加減にしろ!」
業を煮やしたようにそう怒鳴ったのはリュウだった。その声は、控え室に響いた。
「リュウ・・・」
その瞬間、控え室内はしん、とした。
それまで、穏やかだった控え室内が、一気にぴりっとした空気になった。
そして、そのリュウの視線の先には、見ようによっては逆ギレしている明日香と、桜さん・・・
重たい沈黙が、控え室を襲った。
これから本番なのに、これはないだろ?
こんな重たい空気のままで収録かよ・・・
場にいたメンバーも桜さんも、きっとそう思っただろう。
いつも陽気な「ERIS」のメンバーでさえ、その怒鳴ったリュウと、明日香さんを、おろおろとした視線で見つめている。
「・・・さて、と。挨拶に行くか?」
その沈黙をあっさりと破ったのは、マナトさんだった。そしてそれに呼応するように、頷くメンバー。
「そうだな、桜さんも行こう!」
メンバーが、桜さんを手招くと、桜さんは軽く頷き、未だに睨み付けている明日香さんの側を通り抜けてドアへと歩いた。
そして、桜さんがドアまで進むと、明日香さんをじっと見つめていたリュウが、その視線を外し、桜さんの後を追うようにして控え室から出て行った。
後に残ったのは、蚊帳の外に追いやられたような明日香さんと・・・重たい空気、そして・・・俺・・・
「つまんないの!
なによっ!みんなして桜、桜って!
あんなつまんない女の何処が良いのよ!」
残った明日香さんは、その不機嫌な感情を抑えることもなく、捨て台詞のようにそういうと、つかつかと部屋を出て行った。バタン、とドアを閉める音が、心なしか大きく聞こえた。
明日香さんは美人だし、モデルとしての人気も高い。女優としてドラマにも出演している人気芸能人の一人だが・・・
「・・・幻滅しそうだな・・・」
女の嫉妬は怖い・・・よく聞く言葉だけど、今の明日香さんは本当に分かりやすい。そして、女が女を罵るのが、こんなに怖い光景だとは、今まで思わなかった。
でも・・・
(どうして桜さん、明日香さんにあんな事言ったんだよ!)
その、怒りと驚きの混ざった疑問符は、なかなか消えない。
そんなことを考えながら、ハッと我に返ると、部屋に一人残されたことにようやく気づいた。
「しまった!挨拶ッ!」
俺も一緒に挨拶に行くつもりだったのに!
慌てて桜さん達を追いかけた。




