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こちら陽だまり中央総合病院・総務課 〜望月くんは定時に帰らせてもらえない〜  作者: キサラギ15


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陽だまり埋蔵金?隠された財宝を探せ!~後編

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 第四章:正義の鉄槌!金塊の真実

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 病院全体が静まり返っている。望月は大熊師長、高野、なぜかついてきた田中課長と共に、1階の総務課の事務室へと戻った。


 四人の目の前には古い耐火金庫がある。太田が狙うとしたらこれしかない。


「望月さん、さっき金庫の中も見てみたわよね? 金塊なんてなかったと思うんだけど」


 ここには病院の登記簿謄本や不動産全部事項証明書、その他の重要書類が保管されている。


「うん……ここを開けるとしても、ダイヤル暗証番号を知っているのは理事長と田中課長、それと俺だけだ。太田は知らないはず」


 田中課長が小声で告白した。


「いや、あいつは昼間、僕のデスクを漁ってたんだ……。もしかしたら、僕がチップスターの缶の裏に書いておいた暗証番号を見られたかもしれない……」


(この無能上司、本当にどこまでもセキュリティ意識がザルだな!)


 その時、大熊師長のスマートフォンにメッセージが届いた。


「望月さん、太田事務長が3階のスタッフステーションからここに向かってきてるみたい!」


「こうなったら一泡吹かせてやりましょう」


「何か策があるの、望月さん?」高野が身を乗り出す。


 望月は、総務課の備品棚からあるものを取り出した。それは先週、地下のボイラー室でネズミが大量発生した際に業者から仕入れた、「超強力・業務用ネズミ捕り粘着シート(特大サイズ)」だった。一度踏んだら、大人の男の力でも絶対に剥がせない、悪魔の粘着力を誇るシートだ。


「こいつを金庫の前の床一面に敷き詰めます」


「それなら」大熊師長がポケットからスマートフォンとポータブルWi-Fiカメラを取り出した。


「私が持っている『病棟監視用のポータブルWi-Fiカメラ』をここに設置しましょう。私のスマホからリアルタイムで録画・監視ができるわ」


(これで準備万端だ。我ながら、見事な「ネズミ捕り地帯」を形成したもんだ)


 四人は総務課の机の下や備品棚の影に隠れ、大きなネズミを待ち構えるのだった。


 **


 静まり返った総務課に、ガチャリと鍵を開ける音が響いた。暗闇の中、忍び込んできたのは……高級スーツのジャケットを脱ぎ捨てた、太田事務長だった。


 懐中電灯を片手に持った彼の目は完全に血走っており、反対の手には田中課長のメモから盗み出したであろう暗証番号が握られている。


「ククク……ボケ老人が。金塊を総務課の金庫に隠したことを、自ら白状するとはな。経営改善などどうでもいい、金塊さえ手に入れば、私は海外へ高飛びして……」


 太田が独り言を呟きながら、金庫の前へと一歩、大きく踏み出した。



 べちゃ。



「……ん?」


 太田が足を上げようとした。しかし、上がらない。


「な、何だこれは!? 足が……動かん!?」


 焦った太田は、バランスを崩してもう片方の足を踏み出した。



 べちゃァッ!!



「うおっ!? ぬ、抜けない! なんだこのベタベタするものは!?」


 パニックになった太田は、手を床についた。



 べちゅるぅぅぅッ!!!



「ぎゃああああああ!? 手が! 手がァァァ!!」


 完璧だ。太田は金庫の前で両手両足を「超強力ネズミ捕りシート」に完全にホールドされている。まるで蜘蛛の巣に引っかかった哀れな虫のように、床に這いつくばった状態で完全に身動きが取れなくなった。


「かかった!」


 望月はすばやく総務課の照明をパチリと点けた。


「ま、眩しいっ! ……お、お前たちは!?」


 床で無様にのたうち回る太田が表情を歪ませて見上げてくる。大熊師長、高野、田中課長、そして望月が、彼を冷ややかに見下ろした。


「お疲れ様です、太田事務長。こんな時間に総務課の金庫の前に這いつくばって、一体何をされているんですか?」


 望月が、これ以上ないほど冷徹な声で問いかける。


「ち、違う! 私は、総務課のセキュリティチェックを……!」


「見苦しいですよ、太田事務長」高野が大熊師長のスマホを指さす。


「大熊師長のカメラに、あんたが『金塊を奪って高飛びする』って独り言、バッチリ音声付きで録画されてるから」


「な、何だと!?」


 太田の顔が一瞬で土気色に変わった瞬間、田中課長がここぞとばかりに偉そうに一歩前に出た。


「太田事務長……あなたには失望しましたよ。真面目に働く僕たち総務課を『無能』呼ばわりしておいて、自分が一番の無能で犯罪者だったわけですね!」


(……お前が言うなや)

 望月は心の中で激しく突っ込んだが、口には出さなかった。


「おや、なんや騒がしいのう……。おお、太田くんじゃないか。床で何をしておるんじゃ?」


 全員が声のする方に振り向くと、そこにはなぜか理事長が足元をふらふらさせながら立っていたのだ。


「り、理事長! 助けてください! こいつらが私を嵌めたのです!」


 太田が必死に叫ぶが、理事長は全く聞いていなかった。


「そんなことよりのう。わし、急に思い出したわ。居ても立っても居られなくて飛んできたんじゃ。金塊、金庫の中じゃなくて、給湯室の冷蔵庫の奥に隠したんじゃよ」


「「「え?」」」


 理事長がフラフラと給湯室へ向かい、古い冷蔵庫から、埃をかぶったひとつの四角い缶を取り出してきた。


「これじゃ、これじゃ! わしの数千万円の金塊じゃ!」


 全員の視線が、その缶に注がれる。

 太田もシートに顔を貼り付けたまま目を剥いた。

 理事長がパカッと缶を開ける。


 そこに入っていたのは——まばゆい金色に輝く、しかしどこか見覚えのある包装紙に包まれた塊だった。


「……これって」高野が絶句する。

 望月は、その塊を手に取り、裏面のラベルにメガネを近づけて読んだ。


「『昭和のレトロ金箔チョコレート・純金風パッケージ』……。販売元、福福製菓。賞味期限は……昭和六十二年で切れてますね。あと、当時の価格で『一箱二千円』って書いてあります」


「……は?」太田が呆けた声を出す。


「チョコレートじゃと!?」理事長が目を丸くする。「おお、そういえば昔、バリバリ働いてた頃に、バレンタインデーで当時の婦長からもらった高級チョコ……じゃった気がするわい! 懐かしいのう!」


「チョコ……? 数千万円の金塊じゃなくて……ただの、賞味期限切れの、二千円の金塊風のチョコ……?」


 太田は理解した。自分がそのチョコのために、ネズミ捕りに引っかかり、自分の地位も何もかも失ったことを。そして、絶望の絶叫を上げる太田。


「あ、あ、ああああああ……ちくしょう!!」


「太田事務長、この件は人材派遣会社に報告させていただきます。理事会にも通達しますし、場合によっては警察介入になりますので覚悟しておいてください」


 その後、太田事務長は本日付で辞職。

 病院の金を横領しようとした証拠の動画もあったため、言い逃れの余地は一切なかった。

 大元の人材派遣会社とは契約打ち切り。


 こうして金塊騒動は幕を下ろしたのだった。


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 第五章:エピローグ、望月くんは定時に帰っちゃう

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 翌日。太田事務長が去った『陽だまり中央総合病院』は、何事もなかったかのように、いつも通りの平凡な日常を迎えていた。


「いや〜、それにしても、昨日は大活躍だったね、望月くん! 高野さん!」


 田中課長が、お土産の高級どら焼きを食べながら、自席でふんぞり返っている。


「太田の不正を暴いたのは、我が総務課のチームワークの勝利だ! 上層部には僕からうまく報告しておいたからね!」


(手柄を全部自分のものにしやがったな、この生ゴミ処理機め)


「……私は商社マンとの合コンが流れちゃったこと、恨んでますからね」


 高野が不機嫌そうにキーボードを叩いている。


(えぇ……高野さんが金塊探そう! って言ったんじゃん)


 望月は心の中でツッコミを入れたが、あえて口に出さなかった。なぜなら、只今の時刻は午後五時二十五分。望月は、今日やるべきすべての業務を完璧に終わらせ、パソコンのシャットダウンボタンにカーソルを合わせた。


(あと五分。今日こそ、誰にも邪魔させないぞ。俺は定時に帰り、スーパーで割引になった惣菜を買い、家で静かにビールを飲むんだ)


 窓の外からは夕日が病院を穏やかに照らしている。

 クセの強い面々に囲まれた、この『陽だまり中央総合病院』での日常は、これからもきっとドタバタと続いていくのだろう。


「望月くーん、これ明日の朝イチで……」


 田中課長が書類を持とうとした瞬間、望月は目にも留まらぬ速さで立ち上がり、カバンを掴んだ。


「課長、それは『明日の朝イチ』の業務ですので、明日の朝やります。お疲れ様でした!」


 午後五時三十分。


 四〇代、フツメン、メガネの平社員・望月 修二は誰よりも早く、完璧なステルス性をもって、病院の職員通用口をくぐり抜けたのだった。


(定時退勤、最高。ようこそ、神聖なプライベートタイム!)


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 End→

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