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こちら陽だまり中央総合病院・総務課 〜望月くんは定時に帰らせてもらえない〜  作者: キサラギ15


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陽だまり埋蔵金?隠された財宝を探せ!~前編

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 第一章:陽だまり埋蔵金?隠された財宝を探…すの?

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『医療法人福福会 陽だまり中央総合病院』。


 首都圏のはじっこ、これといって特徴のない平凡な地方都市に佇むその病院は、50床という小規模さゆえに、いつもどこかアットホームな——悪く言えば、じっとりとした人間関係が渦巻く場所だった。


 1階にある総務課の事務室。午後五時二十五分。


 四〇代、平社員、フツメン、メガネ、彼女なし、趣味なし。世間一般の「持たざる男」のテンプレートをそのまま形にしたような男、望月 修二は、液晶モニターを睨みつけながら、超高速でキーボードを叩いていた。


(あと五分。あと五分で、俺の神聖なる定時が訪れる。余計な電話は鳴るな。誰も話しかけるな。特に目の前で豚のようにいびきをかいている男、お前だっ)


 望月の視線の先では、睡眠時無呼吸症候群の総務課長・田中 信夫が、だらしなく口を開けて爆睡していた。デスクの上には、彼が今日一枚も目を通していないであろう書類の山。彼の特技は「責任転嫁」と「自席での熟睡」である。今日も今日とて、午前中に他部署から受けたクレームをすべて望月に丸投げし、自分は夢の国へ旅立っていた。


「望月さーん、進捗どう?」


 隣から声をかけてきたのは、同僚の高野 美咲だ。彼女は活発系女子で、趣味は婚活。特技は婚活。夢は玉の輿。職場恋愛は非合理すぎるという理由で鼻から除外している徹底主義者だ。定時に帰るためなら、通常の三倍の速度で動く。別名:総務課の赤い彗星。


「あと、この稟議書チェックしたら終わり。高野さんは?」


「バッチリ。今日の夜、商社マンとの3対3があるの。遅刻は一秒たりとも許されないわ」


 高野の目が肉食獣のようにギラリと光る。まるで逆転の3Pシュートを狙うシューターだ。


 その時、総務課のドアがバァン!と勢いよく開いた。


「大変よ! 望月くん!」


 滑り込んできたのは、受付の主であり、病院内の一大情報ネットワークの総元締、奥山 友子だった。うわさ話が大好物の彼女の顔は、興奮で紅潮している。


「奥山さん、静かにしてください。課長が起きます……いや、起きていいんですけど」


 望月が溜息をつくと、奥山は田中のデスクを激しく叩いた。


「起きて、田中さん! ビッグニュースよ! さっき理事長室から、理事長が叫びながら出てきて……『総務課のどこかに、わしの数千万円の金塊を隠したまんまじゃった!』って、喚いてるのよ!」


「ぶふっ!?」


 田中が自分のよだれでむせながら跳び起きた。


「き、金塊ぃ!? 理事長がですか!?」


「そうなのよ! 最近ちょっとボケが進んでるから怪しいんだけど、昔バリバリだった頃に裏で貯め込んだ隠し財産が、総務課のどこかに眠ってるって大騒ぎで!」


 望月はそっとメガネを押し上げた。


(出たよ。70代、お金大好き、足腰ふらつき気味のボケ老人。数千万円の金塊を総務課に忘れるわけがないだろう。だいたい、そんなものがあったら、このケチな病院のボイラー室が毎年冬に壊れかけるのを放置するはずがないわ……)


「金塊……金塊かぁ……」


 田中課長が、いやらしい目で総務課の床や棚を見回し始める。その目が「もし見つけたら自分の懐に」という汚い欲望で濁っているのを、望月は見逃さなかった。


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 第二章:トラブルは派遣社員と共に

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 ドタバタが始まった総務課に、もう一つの影が差し込んだ。


 カツカツと、冷酷な靴音が響く。現れたのはつい先月、人材派遣会社から鳴り物入りで採用された事務長の太田だった。高級そうなスーツに身を包み、絵に描いたようなエリート風を吹かせているが、その実は傲慢の塊。現場を一切見ず、数字だけで人を判断する男だ。


「……何ですか、この騒ぎは。勤務時間中に大声を出すなど、言語道断だ」


 太田が冷徹な声を響かせると、田中課長は一瞬で、媚び売りモードにシフトした。


「あ、いや、太田事務長! これはその、理事長が、ですね……」


「理事長の認知症の戯言などどうでもいいのです。それより田中課長、依頼している経費削減プランの提出が遅れていますよ」


 太田はフンと鼻で笑い、望月と高野を値踏みするように見つめた。


「そもそも、この総務課は無駄が多すぎる。50床の小規模病院に、これほど人員は必要ない。特にそこの……望月くんでしたか? 毎日定時になると一目散に帰るそうですね。やる気がないなら、いつでも代わりはいるんですよ。まったく無能の集まりが」


(無能だと?)


 望月の心の中で、何かがプチリと音を立てた。


(おいおい、高級スーツ。お前が乗ってきた外車の経費精算、誰がやったと思ってるんだ? お前が『よく分からないからやっといて』と投げ捨てた、小難しい行政文書の処理を「眠眠打破」を片手に夜通しやったのは誰だ? 目の前の饅頭キングが寝ている間、この病院のインフラを綱渡りで維持しているのは、この俺だぞ)


 しかし、望月はプロの社畜だった。顔には完璧な無表情(ポーカーフェイス)を貼り付けたまま、静かに一礼する。


「申し訳ありません、事務長。以後、気をつけます」


「フン、分かればよろしい。私はこれから院長と経営についての重大な会議だ。経営陣の足を引っ張るような真似だけはしないでもらいたいものだな」


 太田は傲慢に顎を引くと、そのまま大股で去っていった。その去り際、太田の目が総務課の奥にある、古い耐火金庫を一瞬だけ鋭く睨みつけたのを、望月は見逃さなかった。


(……あの目の色は、完全に『ネコババ』を狙う人間のそれだな)


「なによ、あのスカした奴! 無能ですって!?」


 太田がいなくなった瞬間、高野がボールペンをデスクに叩きつけた。


「望月さん、聞いた!? ……私は無能じゃない! ただ婚活に命をかけてるだけよ!」


「落ち着いて、高野さん。それより……」


 望月は時計を見た。午後五時四十五分。完全に定時を過ぎている。


(なんてことだ。太田、お前のせいで俺の五分、いや十分のプライベートが奪われた。許すまじ)


 **


「ねえ、望月さん」


 帰り支度を始めようとした望月の袖を、高野がグイと引っ張った。その目は、先ほどとは違うベクトルで血走っていた。


「……何ですか、嫌な予感しかしないんですけど」


「金塊よ」


「はい?」


「理事長の金塊! もし本当にこの総務課のどこかにあるなら、それを最初に見つけた人が第一発見者よね? もし数千万円の金塊が手に入ったら……私、商社マンの合コンなんて行かずに、自分で自分を玉の輿に乗せられるわ!」


「高野さん、目を覚ましてください。ボケた理事長の言うことですよ」


「でも、あの太田事務長、口では『戯言』って言いながら、目が笑ってなかった。あいつ、絶対に一人で探す気よ!」


 確かに、太田の去り際のギラついた視線は、何かを確信しているようでもあった。


 さらに、田中課長は「ちょっとお腹が痛いから、正露丸と友達になってくる」と言い残して、何時間も戻ってこない。絶対にどこかでサボりながら金塊の行方を探しているに違いない。


「お願い、望月さん! いまから一緒に病院を捜索しましょう! 総務課に隠されたお宝は総務課が探すのよ!」


「いや、俺は帰ってニチレイのたっぷり卵のえび炒飯を食べて寝る! という重要な任務が……」


「見つけたら山分け! 4割あげる!」


「……半分なら」


「成立よ!」


 これは欲望に負けたのではない。太田へのささやかな反逆のためだ。望月は心の中でそう言い訳した。


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 第三章:深夜の暴れん坊将軍は誰だ

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 日が暮れた定時過ぎ。二人は薄暗い病院内を捜索することになった。まずは総務課の事務室をくまなく調べてみる。


「ないわね……」


 続いて、受付の裏、書類キャビネットの奥を確認するが金塊らしきものは見つからなかった。


「だから言ったでしょう。総務課関連でいうなら、2階の備品室でも見てみますか?」


 二人が足音を忍ばせて2階へ上がると、備品室の中に人影があった。暗闇の中、懐中電灯で不自然に周囲を照らしているのは……なんと田中課長だった。大きな体を縮こまらせて、備品棚の段ボールを漁っている。


「田中課長、何してるんですか」


 望月が声をかけると、田中は「ひゃあああ!?」と情けない悲鳴を上げて飛び上がった。


「も、望月くん!? 高野さん!? いや、これはその、総務課の備品管理をだね、課長みずからチェックしようと……」


「金塊探してるんですね……」


 高野が冷たく言い放つ。


「いや、違うんだよ! 違くないけど、あ、あれ? 足音がするよ!」


 廊下の向こうから聞き覚えのある靴音が近づいてくる。


「マズい、みんな静かにして! 懐中電灯を消してください!」


 望月が小声で叫び、高野は息をひそめる。田中課長も大きな体を丸めて段ボールになりきっている。


 足音が備品室の前で止まった次の瞬間、ガチャリ、とドアが開いた。


「誰ですか、こんな時間にサボっているのは」


 凛とした、しかし恐ろしくドスの利いた声。三人が恐る恐る見上げると、そこには不夜城の如き病棟を統括する、看護師長の大熊 ほのかが立っていた。


 夜勤用スクラブに身を包んだ彼女は、誰もが憧れる圧倒的な優しさと、誰もが恐れる圧倒的な仕事への厳しさを併せ持つ、この病院の真の支配者だ。そして、ストレッチの効いた制服からも分かる通りの見事なナイスバディの持ち主でもあるが、今の彼女の後ろ姿には仁王像のようなオーラが立ち上っていた。


「大熊師長! これはその……」田中課長が震える。


「田中課長、こんな時間に仕事をサボって仮眠ですか? 望月さんも高野さんも、総務課が総出で夜勤の邪魔をしないでいただけますか?」


「すみません、大熊師長。実は……」


 望月は正直に「理事長の金塊騒動」と「太田事務長が怪しい動きをしていること」を打ち明けた。ここで大熊師長を敵に回すのは、病院内での死を意味するからだ。


 大熊師長は美しい眉をひそめた。


「太田事務長が? ……そういえば、今日の昼間に総務課のマスターキーの場所を理事長に聞いてたらしいわよ。セキュリティがどうとかって理由で」


「えっ!?」


 望月と高野が顔を見合わせる。


「あと、受付の奥山さんから教えてもらったんだけど、太田事務長が『鍵は手に入った……今夜決行だな……ふふふ』って呟いてたみたい」


(……つまり、そういうことか)


 太田は最初から、総務課の事務室にあるアレを狙っていたのだ。


「総務課の事務室に戻ろう! 俺の推理が正しければ、奴はあそこに来る! (じっちゃんの名にかけて!)」


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 To be continued→

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