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私たちのすべて
「黙れ! 私以外の男にそんな笑顔を見せるな! 君も母様のように、私を騙してどこかへ行くつもりだろう!?」
大通りの真ん中で、彼は周囲の目も気にせず激昂した。
行商人は彼の尋常ならざる気迫に怯え、脱兎のごとく逃げ去っていく。
私の手首はきっと、明日には真っ青に腫れ上がってしまうだろう。新調した、お互いの瞳の色を交換して身にまとうはずのドレスの約束をしたばかりなのに、彼の心はまた、一瞬で不安の闇に呑まれてしまった。
けれど、私を締め上げる彼の大きな手が、酷く小さく、ガタガタと震えているのが伝わってくる。
(ああ……またこの綺麗な赤い目を、恐怖で曇らせてしまった。私が彼を支えなきゃいけないのに)
「ごめんなさい、レナード。私が悪かったわ。もう誰とも話さない」
私は痛みを堪え、私の緑色の瞳で彼の赤色の瞳を真っ直ぐに見つめながら、空いた左手で、彼の強張った身体をそっと抱きしめた。
雑踏の中、私に縋りつくようにして「行かないでくれ、エリカ……」と小さく泣き始める、誇り高き騎士。私は彼の背中を優しく撫でながら、いつものように彼を許し、受け入れていく。
この泥濘のような世界こそが、私たちのすべて。




