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2人の世界

約束の時間ぴったりに男爵邸へ迎えに来てくれたレナードと、お互いに気合を入れすぎた仕度を笑い合ったあと、私たちはまず服飾店へと向かった。

「今日は君に、特別なドレスを贈りたいんだ」

馬車の中でそう言って微笑んだレナードに連れられ、豪奢な外観の店内に足を踏み入れる。

事前に予約をしてくれていたようで、私たちはすぐに奥の特別な個室へと案内された。そこに並べられていたのは、目移りするほど美しい一級品の生地やドレスの数々。

「エリカ、次の夜会には、お互いの色をあしらった衣装で出席したい。……君に、私の色をまとってほしいんだ」

レナードが私の顔を覗き込む。彼のその燃えるような美しい赤色の瞳にじっと見つめられ、私の胸はトクンと跳ねた。

彼が選んでくれたのは、彼の瞳の色そのものである、鮮やかで情熱的な「赤」の生地。そこに、我が家の象徴である「金」の刺繍がふんだんに施された、息を呑むほど豪奢なドレスだった。

「まあ……レナードの赤色ね。とても綺麗……」

「ああ、よく似合っている。私は、君のその新緑のような緑色の瞳に合わせて、緑の生地に金の刺繍をあしらった上着を仕立てる。私の身に君の緑を、君の身に私の赤を。並んで歩けば、誰もが私たちが完全に縛り合っている一対だと気づくはずだ」

鏡の前で、赤と金の生地を身体に当ててもらう私。その私を映すレナードの赤色の瞳は、満足そうに、どこか誇らしげに細められていた。

「君を私の色で染め上げたい、そして自分も君の色に染まりたい」という、彼なりの一途で激しい独占欲。お互いの存在を身にまとうようなその特別さが愛おしくて、私は幸せな気持ちでドレスの新調を受け入れた。

その後、服飾店をあとにした私たちは、レナードが事前に席を整えてくれていた街で一番人気のカフェへと向かった。

案内された窓際の席に座ると、彼はさらに、小さな木箱を私に差し出してきた。

「それから、これはさっき言っていた、お詫びと卒業の祝いだ」

そっと蓋を開けると、そこには陽の光を浴びて七色に気高く輝く、見事な貝細工の髪飾りがあった。

職人が一つ一つ熱を込めて削り出したのがわかる、繊細で美しい薔薇の意匠。さっき選んだ赤と金のドレスにも、きっとよく映えるに違いない。

「レナード、ありがとう。本当に嬉しいわ」

「君が喜んでくれてよかった。……うん、今日の君は本当に可愛いな。仕度を頑張ってくれた甲斐があった」

レナードは私の髪にそっと飾りを挿し込むと、本当に愛おしそうな目で私を見つめた。

騎士団で見せる冷徹な顔などどこにもない、ただ私を愛することに命をかけている、優しい私の婚約者。運ばれてきた名物のタルトを美味しそうに頬張る私の姿を、彼は自分が食べるのも忘れて、幸せそうに眺めていた。

このまま、この穏やかな時間がずっと続けばいい。

彼を怯えさせるすべてのものから、私のこの緑の目のなかに隠してあげられたらいいのに。

そう、心から願っていた。


楽しい時間はあっという後に過ぎ、夕暮れ時。

帰りの馬車を待つ間、私たちが大通りを歩いていたときのことだった。

レナードが少し目を離した隙に、道に迷っている様子の異国の行商人が、私に声をかけてきたのだ。

「申し訳ない、中央広場へはどちらへ行けば……」

「あ、広場でしたら、あそこの角を右に曲がって――」

ほんの数秒。ただ道を尋ねられ、親切心から指を差しただけだった。

「――エリカ!!」

背後から、凍りつくような鋭い声が響いた。

振り返る間もなく、私の右腕が強い力で引っ張られる。あまりの衝撃に足元がよろめき、私はレナードの硬い胸へと抱き寄せられた。

「な、何をしているんだ君は! 誰だその男は!」

私の顔を覗き込むレナードの赤色の瞳が、一瞬で狂気の色に染まっていた。

呼吸は浅くなり、端正な顔が怒りと恐怖で引きつっている。彼は行商人を殺さんばかりの鋭い眼光で睨みつけ、私の手首を、ギリギリと握り潰さんいきおいで掴んだ

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