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甘やかな時間

卒業パーティーの喧騒が遠ざかる夜道。ガタゴトと揺れる馬車の中で、私とレナードは並んで座っていた。

さっきまでの狂乱が嘘のように、車内には静謐な空気が満ちている。

「……すまない、エリカ。本当にすまない」

レナードが、私の右手を両手でそっと包み込んだ。

大きな、剣のタコができた固い手。けれど、今の彼の触れ方は、壊れ物でも扱うかのように、酷く繊細で、優しい。

「また君を怖がらせてしまった。突き飛ばすなんて、どうかしていた……。君が他の男と楽しげに話しているのを見て、頭が真っ白になってしまったんだ。君まで僕を置いて、どこかへ行ってしまうんじゃないかと、不安で、堪らなくて……」

彼は私の手の甲に額を押し当て、祈るように、懺悔するように言葉を紡ぐ。その肩が小さく震えていた。

「愛しているんだ、エリカ。君だけが僕の光なんだ。君を失ったら、私は生きていけない」

切々と言葉を捧げる彼の顔は、月光に照らされて息を呑むほど美しい。

そうなのだ。レナードは本来、若くして王宮騎士団の分隊長を務めるほどの有能な剣士であり、真面目で誇り高い、絵に描いたような美貌の騎士だった。

私が「他の男と話さない」「無断で遠出をしない」という彼との約束を守ってさえいれば、彼はこの上なく穏やかで、私を誰よりも大切に甘やかしてくれる。

「いいのよ、レナード。あなたを不安にさせた私が悪かったわ。怒らせてごめんなさい」

私が微笑んで答えると、レナードは救われたような顔をして、私の手を何度も愛おしそうに握り締めた。

「次の休日は、君が好きなあのスイーツの店へ行こう。……それから、親戚が出資している服飾店ができたんだ。是非君にドレスを送らせてほしい。さっきのお詫びと、卒業の祝いを兼ねて」

「嬉しいわ、楽しみにしているわね」

私の存在意義は、ここにある。

この傷つきやすく、私なしでは崩れてしまう気高き騎士の、唯一の理解者であり、揺りかごであること。彼からの歪んだ、けれど純粋な愛を受け止める瞬間、私は何物にも代えがたい幸福を感じるのだった。

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