決意
静かな部屋のなか、微かな寝息を立てるアレクセイの横顔を、私はじっと見つめていた。
繋がれた彼の手からは、昼間の毅然とした最高法官の硬さは消え失せ、ただ無防備な温もりだけが伝わってくる。私に拒絶されることをあれほど恐れていた彼が、今ではこうして、私の隣で一番深く、安らかな眠りについている。その事実に、私の胸の奥は温かい何かで満たされていくようだった。
同時に、私の心には、これまでにない明確な決意が形を成しつつあった。
(私はもう、あの方を甘やかしてはならない……)
暗闇のなかで、レナードの赤色の瞳が思い浮かぶ。
私は今まで、彼を「私が守らなければ壊れてしまう可哀想な人」だと思い込み、その暴力や執着をすべて許してきた。けれど、それは彼を救うための愛ではなく、彼をより深い闇へと突き落とすための、私の傲慢なエゴだったのだ。
もし次にレナードと対峙する時が来たら、私はもう、彼の暴力に怯えて涙を流すだけの存在であってはならない。アレクセイが私にくれたこの安全な鳥籠のなかで、私は「正しく人を愛すること」を知った。今なら、レナードの歪んだ眼差しを真っ直ぐに見つめ返し、毅然とした態度で「それは間違っている」と告げられるはずだ。
ふと、繋がれたアレクセイの手が、眠りのなかでぴくりと動いた。
彼は不安を覚えたかのように眉をひそめ、無意識に私の手をぎゅっと握り締めてくる。
「……エリカ……行かないでくれ……」
小さな、子供のような寝言。私は空いているもう片方の手をそっと彼の銀髪に添え、母親が我が子をあやすように、優しく撫でた。
「ここにいますわ、アレクセイ。どこへも行きません」
その声に安心したのか、彼の表情はすぐに穏やかなものへと戻っていった。
かつて私は、レナードの『唯一の揺りかご』であることに依存していた。けれど今、私の隣にいるこの不器用な青年は、私を買い叩こうとしたのでも、力で従えようとしたのでもない。ただ一人の男として、私の隣にある温もりだけを、何よりも純粋に欲してくれたのだ。
私はアレクセイの寝顔を見つめながら、心の中で静かに誓った。
彼が私を信じ、私を守ろうとしてくれているように、私もまた、彼の孤独の盾になろう、と。もし、レナードという過去の因縁がこの部屋の扉を叩く日が来ても、私は二度とあの泥濘には戻らない。この繋いだ手の温もりを、今度は私が守り抜くのだと。
窓のない、夜の静寂に包まれた部屋で、私たちの魂はより一層、強く結びついていくのだった。




