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手紙

あの日、二人で静かに涙を流し合ってから、アレクセイのまとう空気は一変した。

それまでの彼は、近寄りがたいほど冷徹な、すべてを統べる「最高法官」だった。けれど、心に張り付いていた冷たい呪縛が解けた今の彼は、青年というよりも、まるで純真な少年のようだった。

「エリカ、ただいま。今日の公務はこれで終わりだ」

執務が落ち着くと、彼はまるで主人の元へ駆けてくる子犬のように、嬉しそうに私の部屋へとやってくる。いつも完璧に整えられていたはずの足取りはどこか軽やかで、窓のないその部屋に、彼は毎日たくさんの「外の世界のお土産」を持ってきてくれた。

「今日は王宮の庭園で、珍しい青い薔薇が咲いてね。君に見せたくて一輪、譲ってもらったんだ。それから、街の市場でとても美味しそうな焼き菓子を見つけたから、後で一緒に食べよう」

ベッドの傍らに腰掛け、今日あった出来事をきらきらとした瞳で楽しそうに話すアレクセイの姿に、かつての冷酷な支配者の面影はどこにもない。彼はただ、一人の男として、大好きな人に自分の世界を共有できることが、嬉しくてたまらないようだった。

私はそんな彼の話を穏やかな微笑みで見つめ、彼の不器用ながらも真っ直ぐな愛に、そっと寄り添い続けていた。

「……アレクセイ閣下。毎日、私のような者のために、そんなにたくさんのお話をありがとうございます」

「閣下だなんて、そんな堅苦しい呼び方はよしてくれ、エリカ。私のことは、アレクセイと……」

「ふふ、そうでしたね。ありがとうございます、アレクセイ。あなたのお話を聞いていると、窓のないこの部屋にいても、美しいお庭や賑やかな市場の景色が、目の前に広がるようですわ」

私が丁寧な言葉遣いの中に確かな親愛を込めて微笑むと、彼は本当に嬉しそうに、少し照れたように目元を緩ませるのだった。

そんなある日、アレクセイは少し真剣な面持ちになって、私の手を優しく包み込んだ。

「……レナードのことなのだが、今、釈放の方向で手続きを動かしている。国家反逆罪の容疑は、私の権限で取り下げ、実家への沙汰もなしにする。間もなく、彼は自由の身に戻れるはずだ」

私を誘拐し、レナードを罪に陥れた自らの過ちを、彼は彼なりの方法で正そうとしていた。

かつてなら、レナードの名を聞くだけで私の心は恐怖と依存に震えていただろう。けれど、アレクセイの穏やかな光に包まれて過ごすうちに、私の心は驚くほど静かに、その事実を受け止めていた。

「ありがとうございます、アレクセイ。……あなたのおかげで、私は本当に大切なことに気づくことができました」

私は、自分のなかに生まれた新しい強さを感じながら、ひとつの決意をした。

釈放されるレナードに向けて、手紙を書こう。

アレクセイが用意してくれた上質な便箋に向かい、私は静かにペンを走らせた。

『レナードへ

私は今、とても静かで、安全な場所にいます。体調も崩さず、元気に過ごしていますから、どうか安心してください。

あなたと離れて過ごしたこの時間の中で、私はたくさんのことを考え、配置された意味を辿り、そして、新しい気づきを得ることができました。私たちがどれほどお互いを傷つけ合い、歪な鎖で縛り合っていたかということに。

あなたが無事に牢を出て、心身ともに落ち着いたなら、その時はもう一度、私たちのこれからについて、まっすぐに向き合って話し合いがしたいと思っています』

手紙を書き終え、丁寧に折りたたむ。

それは、かつてのように彼の狂気に怯え、機嫌を取るための言葉ではなかった。レナードの暴力を『是』としてしまっていた自分自身の過ちを認め、一人の対等な人間として、彼と決着をつけるための、凛とした決意の手紙だった。

「これを、レナードに届けていただけますでしょうか」

私が手紙を差し出すと、アレクセイは寂しそうな、けれど深く信頼を寄せてくれる目でそれを見つめ、静かに頷いた。

「ああ、必ず彼の元へ届けよう。……君が選ぶ未来を、私は信じているから」

窓のない部屋に、優しい風が吹き抜けたような気がした。不器用な鳥籠のなかで育まれた新しい愛が、私に一歩を踏み出す勇気をくれたのだった。

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