無音の世界
どれほどの時間が流れたのだろう。
窓のない部屋には、朝の訪れを告げる鳥の声も、夕暮れの街の喧騒も、一切届かない。ただ、壁に掛けられた豪奢な魔導時計の、音もなく進む針だけが虚しく時を刻んでいた。けれど、その数字が指す「10時」や「3時」が、昼なのか夜なのかすら、今の私には分からない。
「……レナード」
ポツリと、彼の名前を呟いてみる。
けれど、私の声はふかふかの絨毯と厚いシルクの壁紙に吸い込まれ、こだますることさえなく消えていった。
本当に、何の音もしない。
時折、廊下を歩く給仕の足音や、かすかな衣擦れの音くらい聞こえてもいいはずなのに、この部屋はまるで世界から切り離された空白の空間のようだった。
そして、私をここへ連れてきたアレクセイ公爵も、あれ以来、一度も姿を現さない。
(レナードは無事なのかしら……。冷たい床で、震えていないかしら……)
一人きりで静寂に取り残されていると、心臓の鼓動だけがやけに大きく耳に響いて、緊張で全身の筋肉が強張っていく。
思い返せば、これまでの私は、いつもレナードの激しい感情の渦の中にいた。
彼が怒り、叫び、私を強く抱きしめて泣く。その激しすぎる喜怒哀楽の真ん中で、私は彼の痛みを和らげる「揺りかご」として、自分の存在意義を強く感じていた。手首のあざは痛かったけれど、私は確かに、彼の愛を肌で感じて、必要とされていたのだ。
なのに、この部屋には、私を必要とするレナードの叫びも、私の名前を呼ぶ声も、何もない。
底の知れない不安が、足元からじわじわと這い上がってくる。
私自身、これからどうなってしまうのだろう。
公爵は本当にレナードを救ってくれるのだろうか。それとも、すべては私を捕らえるための罠で、レナードはもう……。
最悪の想像ばかりが頭を駆け巡る。
座っていることも耐えられなくなり、ベッドの端で膝を抱え、ただじっと一点を見つめた。
一分が、一時間のように感じられる。
一時間が、まるで永遠の苦行のように長く思える。
音のない金色の檻の中で、私はただ、終わりなき時間の波に溺れそうになりながら、私を揺さぶる「誰か」の気配を、狂おしいほどに待ち望んでいた




