タイトル未定2026/05/20 02:25
週末の夜、bar「ジェシカ」の店内ではカウンター席に一人の男性客。
同じカウンター席に、二人の男性客がいた。
二人の男性客は酒を飲みながら、静かに談笑をしていた。
一人の男性客は、常連客でカウンター内にいるマスターと話をしていた。
「また、シロちゃんが来ないじゃん」
「忙しいんです。バイトだから、無理はさせれません」
五十代の常連客は、数いる中の流花のファンだった。
仕事中マスターが「白田さん」と呼ぶのを聞き、常連客は「シロちゃん」と親しく呼んでいる。
その声を聞きつけた他の流花のファンは、同じように「シロちゃん」と呼んでいた。
この常連客は「シロちゃんのファン第一号」とマスターに公言をしている。
「マスター、シロちゃんいつになったら来るんだよ?」
「さぁ……」
マスターはグラスを磨きながら、視線を合わせずに言った。
「マスターさぁ、結婚しているの?」
「結婚?」
「ずっと気になっていたんだけど、指輪をしているじゃん」
「指輪をしていれば、結婚していると思われますから」
「そう言うことか」
常連客は、店内を見回した。
「シロちゃんがいないと、この店も侘びしいな」
マスターは、そっと顔をそむけ小さく笑った。
カウンター席にいた常連客と二人の客が居なくなると、入れ違いに水田若菜が店内に訪れた。
若菜は高校時代からの流花の親友で、菓子メーカー水田の社長の一人娘。
若菜はショルダーバックを肩に下げ、大きなキャリーバッグを転がしていた。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは!マスター久しぶり」
若菜はキャリーバッグを転がしながら、マスターの目の前のカウンター席に座った。
「あぁ、疲れた!マスターお水ちょうだい」
マスターが冷えたミネラルウォーターを差し出すと、若菜は一気に飲み干し、大きく息をついた。
「旅行に、行かれたんですか?」
「短大でよく一緒にいた子たちと、連絡を取り合って旅行に行ってきちゃった。さっき、皆と別れたばかり」
「お疲れさまでした」
「マスター、お腹空いちゃった」
マスターは、メニュー表を若菜に差し出した。
若菜はゆっくりメニュー表を眺め、エビピラフとたまごサンドをオーダーした。
マスターはイヤホンマイクで、厨房にいるたきこにオーダーを告げた
お手拭きで手を拭っている若菜に、マスターが言った。
「旅行は、いかがでしたか?」
「短大の時に、仲良くなった友人と行ったんだ。いろんなとこ見に行って、たくさん歩いた。疲れたけど、楽しかった」
若菜は足元に置いたキャリーバッグから紙袋を取り出し、マスターに手渡した。
「マスターお土産」
「ありがとうございます」
「マスターに、似合うかな?」
「拝見しても、いいですか?」
「うん!見て!」
マスターは、袋からお土産を取り出した。
お土産は、白色の御当地ティーシャツだった。
胸ポケットが付いていて、背中には地名とその土地のキャラが可愛く大きく描かれていた。
しかも、赤やピンク色のハートマークが、散りばめられていた。
大きく描かれたキャラに、マスターは声を出さず苦笑した。
「マスターには、可愛すぎるかな」
「お土産ありがとうございます。ティーシャツ着ますね」
「本当に?」
「はい」
マスターがティーシャツを袋にしまうと、若菜がオーダーした料理をたきこが運んできた。
「お待たせしました」
たきこは言いながら、料理を若菜の目の前に置いた。
「たきさんにも、お土産を買ってきました」
「お土産?」
若菜はキャリーバッグからお土産を出して、たきこに手渡した。
「見ても良いでですか?」
たきこのお土産は、ワンポイントに紫色の花の刺繍があったタオルハンカチだった。
「可愛いタオルハンカチですね。嬉しいです。スイちゃんありがとう。早速使います」
たきこはお土産を手にして、厨房に戻った。
たきこが居なくなると、マスターはストローが刺さった飲み物を、若菜に差し出した。
驚き顔の若菜に、マスターは言った。
「レモネードです。サービスです」
「わぁ、ありがとうございます」
若菜は、レモネードを飲んだ。
レモンの酸味が、疲れた身体を癒す。
若菜は身体ごと大きく息をつき、サンドイッチに手を伸ばした。
初めこそゆっくり味わっていたが、次第に食べるスピードが速くなり、たまごサンドとエビピラフをあっという間に食べてしまった。
「あぁ〜美味しかった!ごちそうさま」
マスターは、お皿とスプーンを厨房に持っていき、グラスはカウンターの流しに戻した。
グラスを洗いながら、マスターは若菜に聞いてきた。
「保育士になられたんですよね?仕事は、どうですか?」
「まだ見習いだけど、覚えることがたくさんだし、保護者には気を使うし。でも、子どもたちが可愛くて!」
「水田さんらしいですね」
「マスター、シロちゃんとうまくいってる?」
「水田さんが、白田さんの背中を押してくれたおかげです」
「そんなぁ、マスターったら大げさ」
「水田さん、ありがとうございます。これからも白田さんの親友でいてください。白田さんが落ち込んでいる時は、支えになってください」
若菜は照れながら笑い、マスターに言った。
「シロちゃんの支えになるのは、マスターでしょ!」
若菜の言葉に、マスターは目を見開き慌てて言った。
「そうですね。そうでしたね」
若菜は、声を上げて笑った。
笑いが収まると、若菜はマスターに聞いた。
「マスター、シロちゃんとなんて呼びあっているの?」
「それは……ご想像にお任せします」
「出たっ!謎多きマスター!」
うつむいたマスターは、流花を思い出して、静かに微笑んだ。




