タイトル未定2026/05/20 02:19
住宅街の一角にある、外観が薄緑でスタイリッシュな建物の和食の店和み(なごみ)
以前勤務中の休憩時間の時、マスターと看護師長の紫野緑が初めて訪れて以来すっかり気に入り、今では時々休憩時間の時二人で行くようになった。
この日も休憩時間を利用して、マスターと緑は和みの店内で、テーブルを挟んでオーダーした料理を目の前に向き合っていた。
しかし二人とも、料理を見つめたままで箸を取らなかった。
緑は目の前の料理を見つめながら、マスターに言った。
「今まで、こんな料理があったかしら?」
「さぁ……見落としていたんでしょうか」
マスターもまた、緑と同じように、目の前の料理を見つめながら言った。
「初めてこの店に来た時は、なかったわ。いつからこの料理が、出たのかしら?まさか、こんな料理があるとは……」
料理を見つめながら、独り言のように言い続ける緑を、マスターは制止した。
「あのぉ、緑さん。食べませんか?」
マスターの声で、緑は我に返った。
「そうね」
マスターと緑はようやく箸を取り、食べ始めた。
食べだした二人の箸が止まり、声をそろえて言った。
「……美味しい」
マスターと緑が食べていたのは、海鮮丼だった。
酢飯の上に、マグロやネギトロ等新鮮な魚たちが色とりどりに乗っていた。
海鮮丼の他に、味噌汁と漬物がつき、金額を上乗せすればコーヒーが付いてきた。
ランチにしては少々値は張るが、値段を超えたボリューム感とお得感があった。
海鮮丼を食べ終えコーヒーを飲んでいると、緑が切り出した。
「その後、流花ちゃんとはどうなった?自分の気持ち、流花ちゃんにハッキリ伝えたの?」
緑は、以前マスターに聞いたことを繰り返した。
「はい。ちゃんと伝えました」
「そう!やっと、気持ちを伝えたのね。で、流花ちゃんは、なんて?」
「駄目だったら、ずっと落ち込んでいます」
言いながらマスターはコーヒーカップを持ち、コーヒを飲んだ。
コーヒーカップを持った左手の薬指に、指輪があった。
「その指輪……ずっと気になっていたわ。二つしていた指輪から、突然一つになっていたし」
「白田さんと、一緒のペアリングです」
「ペアリング!流花ちゃんと、そこまで進んだんだ。良かった」
「心配でしたか?」
「するわよ。今度こそ、幸せになってよ」
白田流花
週末マスターの店bar「ジェシカ」のホールのバイトをしている、大学三年生。
マスターと流花はやっとお互い想う気持ちを、素直に打ち明けた。
緑は、コーヒカップを持ち上げながら聞いてきた。
「流花ちゃんと二人で出かけて、ペアリングを選んだの?」
「白田さんと大門の三人で出かけて、大門がゲーム機のコーナーにいた時に、ペアリングを選びました」
麻生大門
マスターが、大門を養子として育てている小学三年生。
大門は、自分の両親の記憶がない。
「ねぇ、二人で出かけたりしないの?」
「二人で、ゆっくり過ごしたことはまだ……」
「二人で、出かけたら?」
「それが、時間がなかなか合わなくて」
「流花ちゃん、まだ学生だもんね」
「三年生になり忙しくて、会えるのはバイトに来てくれたときだけです」
「淋しいでしょ」
「お互い忙しいのが良いんです。ちょうどいい距離感です」
強がるマスターを、緑は黙って微笑みながらコーヒーを飲み干した。




