タイトル未定2026/05/20 07:00
結局ジェットコースターだけを乗ったマスターと流花は、遊園地を出て繁華街から外れた古い建物が並んだ下町を歩いていた。
「なぎちゃんが、喫茶店を教えてくれたんだ。お昼、ここでも良い?」
「良いですよ」
マスターと流花は下町を歩き、時折流花は携帯の地図アプリを見ながら歩いた。
歩き続けていると、やっとお目当ての喫茶店が見つかった。
下町の奥まった場所に、その店はあった。
白いコンクリートの建物で、同じ建物の中に喫茶店とブティックと雑貨屋の全く異なる三店舗が入っていた。
ブティックと雑貨屋は、一階の隣同士にあった。
喫茶店は、外階段をあがった二階にあった。
なんだか、秘密基地のような店だった。
マスターと流花は階段を上がって、二階の喫茶店に入った。
店内は、カウンター席にテーブル席が四脚あった。
テーブル席が満席だった為、カウンター席に案内された。
メニュー表を見ると、ワンプレートに自分の好みの食事を、三つ選択するシステムだった。
マスターは、エビピラフとデミグラスソースのハンバーグとミックスサンドを選んだ。
流花はチキンライスとホワイトソースのハンバーグとたまごサンドを選んだ。
オーダーを済ませると、流花は店内を見回した。
店内はコンクリートの無機質な建物だが天井は高く、大きな二台の扇風機が天井に付いていて、扇風機のの羽根がゆっくり回っていた。
「味気ない店内だけど、なんだか落ち着くな」
流花の言葉に、マスターが言った。
「そうですね。BGMも流れていないし、静かですね」
店内は満席にも関わらず、静かだった。
しばらくすると、小ぶりな野菜サラダと日替わりスープが運ばれた。
やがて料理が揃い、マスターと流花は食べだした。
エビピラフをスプーンですくいながら、マスターが聞いてきた。
「大学は、忙しいですか?」
「もう、課題に追われる毎日。それも、どんどんレベルが上がってきてる。それと同時に、就職活動もしなきゃだし」
野菜サラダを突きながら、流花は答えた。
「今は大変でも、時が経てば、良い思い出になりますよ」
「わぁ、今そんな余裕なんてないよ」
「希望をしている、就職先はあるんですか?」
「まだ漠然だけど、小さくても良いから設計事務所に就職したいな」
「就職すれば、一級建築士の資格が取れるんですか?」
「そんなすぐには。まず、実績を積まないと。資格は、それから」
「長い道のりですね。でもボクは、ずっと流花を見守っています」
マスターの言葉に、流花はクスクス笑った。
「マスター。ランチを食べながら、言う言葉じゃないです」
自分が言った言葉に、今更のように気がついたマスターは、照れ笑いをした。
ランチの量は少ないものの、品数が多いため、流花は食べるのをやめてしまった。
流花が半分以上食べることが出来なかったチキンライスは、マスターが引き継いだ。
店を出てマスターが階段を降りきったところで振り返ると、流花はまだ階段の踊り場にいた。
マスターが見上げると、流花は踊り場の手すりにつかまって、笑顔でマスターに手を振った。
やがて流花は階段を降り、マスターの側に立った。
「凄い青空で、気持ちが良かった!」
目を細め、眩しそうに青空を見上げて言う流花に、マスターはかぶっていた帽子を取ると、自分の帽子を流花にかぶせた。
少し驚いた表情をした流花だったが、帽子をしっかりかぶりながら言った。
「似合う?」
マスターは、黙ったまま大きく頷いた。
流花は笑顔で歩き出し、マスターは流花の後ろ姿をみつめていた。
やがて立ち止まった流花は、マスターに向かって大きく手を振った。
その姿は、まるで子供のようだった。
……子供みたいな流花が、ボクは大好きです。
胸の中でそっとつぶやいたマスターは、流花に向かって小走りに駆け寄り、流花の肩を抱いて流花と一緒に歩き出した。




