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「ちょっとパパ! 三半規管が仕事してないわよ! ベビーカーのG(重力)がすごすぎるって!」


「まこちゃん、口を開けるな! 舌を噛むぞ! とっくん、しっかりエアバッグ代わりのクッションを……って、とっくん!?」


光の渦の中、ヒロトが必死にハンドルを握り直して隣を見ると、統太は恐怖するどころか、超高速移動の風圧を「ブオーッ!」と頬を膨らませて楽しんでいた。


『——転送、完了。王族専用・第2プライベートエリアへようこそ』


無機質な機械音声が響き、視界が開ける。

ドスン、という衝撃とともに着地したのは、一層目の苔むした石造りとは似ても似似つかない、白磁と黄金で彩られた近未来的な回廊だった。

そこは、迷宮というよりは「王宮の地下シェルター」と呼ぶにふさわしい。


ベビーカーが着地した途端、壁の中からシュパパパッ!と無数の小型ゴーレムが飛び出してきた。


「パパ、迎撃!? くるわよ!」


「待て、まこちゃん! 様子が変だぞ……?」


身構える二人の前で、ゴーレムたちは剣を抜く代わりに、「最高級のふかふかタオル」と、「温かいミルク(最高級魔牛産)」、そしてなぜか「赤ちゃん用のオーガニックなおやつ」を銀盆に乗せて跪いたのだ。


『第2皇子殿下、ご帰還を心より歓迎いたします。長い旅、お疲れ様でございました』


ゴーレムたちが一斉に電子音で合唱する。


「……え、待って。パパ、やっぱり聞き間違いじゃないわよね? とっくん、この世界の皇子様なの?」


「いやいや、おかしいだろ。僕たちの息子だぞ? DNAレベルで僕とまこちゃんのハイブリッドなはずだ」


ヒロトは混乱しながらも、差し出されたミルクを念のため【万物創造】の解析機能で調べる。


「……毒、なし。それどころか、飲むだけで全属性耐性が上がり、成長が促進される伝説級の聖乳ホーリーミルクだ……。とっくん、飲むか?」


「ばぶー! あーうー!」


統太は迷わず哺乳瓶を掴むと、ゴキュゴキュと豪快に飲み始めた。

その姿は、確かにどこか風格さえ漂っている。


落ち着きを取り戻したヒロトは、先ほど見つけた「団 統太」と刻まれたガラガラを改めて観察した。


「これ……文字が刻まれているだけじゃない。エネルギーの回路が僕の作るアイテムと酷似している。……未来の僕が作ったのか? それとも……」


壁に目を向けると、そこには古びた肖像画が飾られていた。

そこには、自分たちによく似た、しかし少し大人びた雰囲気の男女と、幸せそうに笑う赤ん坊が描かれている。


「……まこちゃん、これ」


「うそ、これ私じゃない? この髪飾り、パパが去年、結婚記念日にくれた……」


肖像画の隅には、こう記されていた。


『時空の迷い子たちへ。答えは最下層、"ゆりかごの間"に置いてきた。——H&M』


「ヒロトと、まこ……。俺たちがこの迷宮を作ったっていうのか?」


驚愕の事実に立ち尽くす二人だったが、統太の元気な「ばぶー!」という声で現実に引き戻される。


『警告。第3セキュリティ・ドロイドが接近中。皇子殿下の"遊び相手"としての基準を満たしていない個体が混入しています。排除を開始してください』


回廊の奥から、今度はもてなしの心など微塵も感じられない、武装した巨大な球体ロボットが転がってきた。

どうやら「皇子の教育係(戦闘訓練用)」が暴走しているらしい。


「なるほど、事情は分からんが……とっくんの『教育』に悪いやつは、パパがぶち壊す!」


ヒロトがベビーカーのレバーを「戦闘モード」に切り替えると、背後のニトロエンジンが青い炎を上げる。


「まこちゃん、援護を!」


「任せて! おにぎりのパワーで、とっくんの将来を邪魔する鉄屑をお掃除しちゃうわよ!」


「うーっ! たーっ!」


統太が元気よくガラガラを振ると、二層目のハイテク迷宮に、団家の新たな快進撃の音が鳴り響いた。



side とっくん


ぼく、団統太。0歳。

いま、ぼくはとってもカッコいい「スーパー・ベビーカー」に乗って、空を飛んでるんだ。


「とっくん、しっかり掴まってろよ! パパ特製の慣性制御装置が唸りを上げるぜ!」


「とっくん、お口閉じててね! 風邪ひいちゃうから!」


パパとママが後ろで騒いでる。

目の前には、さっきから転がって追いかけてくる、おっきな鉄の玉。パパは「セキュリティ・ドロイド」って呼んでた。

あの鉄の玉、ピカピカしてて、ぼくのガラガラみたいでちょっと欲しいかも。


『ターゲット、第2皇子トウタを確認。保護プログラム……エラー。教育的指導モードに移行。お尻ペンペン・アーム、展開』


鉄の玉から、金属でできたおっきな手がニョキニョキ生えてきた。

それはダメだよ。ぼく、お尻ペンペンは嫌いだもん。


「させるか! とっくん、右のアヒル隊長スイッチをポチッとして!」


パパが叫ぶ。ぼくは、目の前にある黄色いアヒルさんを、おててで力いっぱい叩いた。


プポッ!


いい音がした瞬間、ベビーカーの横からシュパパパッ!とおもちゃの兵隊さんみたいな形をした小型ロボットが飛び出した。

兵隊さんたちは空中でくるくる回ると、鉄の玉の足元に「バナナの皮(超高摩擦ポリマー製)」をばら撒いたんだ。


『エラー。路面状況が非論理的に滑りやす……わわわわっ!?』


鉄の玉が、漫画みたいにツルーン!って滑った。

あはは! 面白い! ぼくは足をバタバタさせて笑った。


「よし、隙ありだ! まこちゃん、あれを!」


「了解よ、パパ! 必殺、おにぎり型・高粘着煙幕弾(梅干し風味)、射出!」


ママがベビーカーのレバーを引くと、後ろのリュックから、おにぎりにそっくりな形の玉がボーン!と発射された。

それは鉄の玉のみたいなところに当たって、ベチャッと広がった。


『視界、ゼロ。……うっ、この香りは……紀州産……? 唾液腺(冷却水ポンプ)が過剰反応……酸っぱい、酸っぱいです!』


鉄の玉がガタガタ震えてる。今がチャンスだ!

パパがぼくの手を優しく包んで、金色のレバーを一緒に握った。


「とっくん、パパと一緒にこいつを回すぞ。これぞ団家秘伝、全自動・超音波ガラガラ攻撃だ!」


ぼくはパパと一緒に、レバーを思いっきりぐるぐる回した。

すると、ベビーカーのまわりに浮いてるキラキラした石が、すっごく眩しく光ったんだ。


チリン、チリン。


最初は小さな鈴の音だったけど、それがどんどん重なって、お部屋全体が震え出した。

見えない空気の波が、鉄の玉に向かってドーン!ってぶつかる。


『ギ、ギギギ……。この周波数……お母さんの心音と同じ……!? 闘争本能が……眠気に……負ける……。おやすみなさい……』


さっきまで怒ってた鉄の玉が、急に静かになった。

そのまま「パタン」って横になって、スースーって寝息みたいな音を出し始めた。


「ふぅ。とっくん、ナイス連携だ! さすが僕の息子だな」


パパがぼくの頭を撫でてくれる。えへへ、くすぐったい。


「パパ、感傷に浸ってる暇はないわよ。見て、あの鉄の玉が寝た拍子に、床のパネルが開いたわ」


ママが指差す。

そこには、さっきまでなかった下へと続く滑り台みたいな道があった。

壁には『第3層:皇位継承者専用・お昼寝ルーム』って書いてある。


「お昼寝ルームか。ちょうどいいな、とっくんも少し眠そうだ。よし、突入するぞ!」


パパがベビーカーを前進させる。

ぼくは、ふわふわのクッションに体を沈めて、新しく手に入れた「鉄の玉の部品(パパがさっき拾ってくれた)」を握りしめた。

この先には、もっとキラキラしたものがあるのかな?


ぼく、パパとママと一緒に、もっと遊びたいな。


「あ、パパ! 滑り台の途中に『高級プリン』の自動販売機があるわ! 止まって!」


「まこちゃん、今は潜入作戦中だってば! ……しょうがないな、一個だけだよ?」


後ろで二人が楽しそうにお喋りしてるのを聞きながら、ぼくはゆっくり目を閉じた。

スーパー・ベビーカーは、風を切る音じゃなくて、優しい子守唄みたいな音を立てながら、もっと深い地下へと進んでいく。

次は、どんな面白い「おもちゃ」が出てくるんだろう?

ばぶー、うーっ。

ぼくの冒険は、まだまだ始まったばかりなんだ。


とっくん視点...書いてて可愛い。

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