1-3
「十体か。……今日一日仕事サボって、寝なきゃどうにかなる数だな……」
(なんだ、この、いかれたバンボルの数は。……シャルのバンボルの、プログラム破損といい、何が起きている?)
煙草を噴かせながら眉間にシワを刻み、ガシガシと頭を掻くとフェネアンは単独施設の中に入っていった。しかし彼はすぐに姿を現し、まだそこにたむろっている人々を視界に入れると舌打ちをする。
「てめぇらいつまでここで群れてるつもりだ。邪魔だ目障りだサッサと失せろ! どうしようもないだろうが、こんなところいても! 散れ散れ! 直ったやつから連絡入れる、外身はここに置いて行くんじゃねぇぞ他の職員に捨てられてぇか!」
ガッと、腹の底から吐き出された怒声に、集まっていた人々は肩を跳ねさせ涙目になりながら、逃げるように解散した。フェネアンはそれに鼻を鳴らすとすっかり短くなった煙草を灰皿に吐き捨て、職場からいくつかくすねてきたコードをバッグの中に放り込む。
「アポートル職員! どこへ行くつもりだ、とっくに就業時間は過ぎているだろう!」
「てめぇも大概うぜえんだよ所長さんよ!」
人々を解散させると、今度は研究所の中から所長が現れ、目を吊り上げ外敵を警戒している獣のような瞳を彼に向けた。
「別にタイムカードは切っちゃいねぇだろーが! 給料泥棒なんざするつもりはねぇよ。それにな、散々、散々言わせてもらっているが、オレはオレの好きなようにさせてもらうだけだ。――バンボルは、便利な道具じゃねぇ」
と、胸ポケットから煙草を取りだし、口に運ぶだけ運ぶとフェネアンは盛大な舌打ちと共に所長へ背を向けた。火はつけず、煙草を唇に挟んだままギチリと歯を食いしばる。
こうも毎日、こんな奴にイライラさせられ、その度に煙草を呑んでいるんじゃあ一日に二箱あっても足りないかもしれない。いくら研究所で働く者の給料が一般企業よりも高くても、これでは財布に大打撃だ。
「……あぁ、そうだ……」
ポケットに手を突っ込んでみると、シャルから預かったチップに手が当たった。
「仕方ねぇ、後で電話入れて取りに来させるか」
(その代り、一カートンで済ませてやる)
長く大きなため息とともに。フェネアンはたった今来たばかりの道を歩いて家に向かうのだった。
エトリック・アポートル。現在のバンボルに関する技術を飛躍させた人物であり、研究者兼技術者。研究所に勤める者ならば誰もが知っている名であり、フェネアン・アポートルの父親。
フェネアンはエトリックのことを嫌っていたが、彼が遺していったバンボルに関係する機材のことは重宝していた。研究所から持って帰ってきたコードをあるだけコンピュータに繋ぎ、チップを差し込んでいく。それは目前に五つあるモニターそれぞれ出力され、眼鏡を合わせると瞬きすらしないようプログラムを見つめた。同時に、回収した紙に書かれている症状と照らし合わせ、欠損しているプログラムを探す。
「……症状が、ほとんど同じ……?」
――子供と遊んでいる最中、子供に怪我をさせてしまった――
――作業をしているときに、バンボルの手が滑ってしまいそのまま頭をぶたれた――
――どうやらバンボルが花瓶を割ってしまったようなのだが(当時自分のほかには彼しかいなかった)無言で首を振った――
――私の目の前で皿を割ったのだが、違うと言い張った――
――怪我させられた――
「どれもこれも、必要プログラムの一番目と三番目が狂ってる……、もしかして、他のチップも」
机の上に放っていたタブレットがけたたましく震え始め、フェネアンは反射的にそれを手に取っていた。誰からの電話なのかも見ず、着信を受ける。
「何だ誰だ」
「アン! お前、今どこでなにしてんだ!」
タブレットから響いてきたのはシャルの声だった。肩と頬でタブレットを挟み込み、バグっているプログラムの修復をしながら、フェネアンは眉を寄せる。
「お前のバンボルのチップは、とっくに修理を終えてるよ。あとで取りに」
「それどころじゃねぇって、とにかく研究所に来てみろ! つかお前すぐ仕事抜けだす癖にプログラミングの腕は逸品なんだからサッサと来い所長もガチ切れしてるぞ!」
「あんの石頭のくそじじいでオレが釣れると思うのかてめぇは! こっちはこっちでぶっ壊れたチップの処理してんだよ徹夜覚悟で!」
「そっちもぉ? こっちもぉ!」




