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「――冗談じゃねぇや!」
シャルの口調は素晴らしいほど元気がよく、無駄に明るいものだった。彼がこんな調子で話を進めるときには、大抵ろくなことが起きていない。電話越しに聞こえるようわざとらしい舌打ちをすると、フェネアンはとりあえず今見ている分のチップの欠損プログラムを修復し、中身が入っていない外部記録媒体にデータのバックアップを取ると即座に出かける支度をする。白衣に適当に腕を通すとバッグのひもを握り、玄関へ急いだ。
「たくよ……! バンボルの集団プログラム破損、可能性があるとすればウイルス……面倒なことが増えていく!」
家の前に、子供が倒れていたのだ。自分の家の周りでは見かけたことのない少年のようで、フェネアンはガシガシと頭を掻き毟ると、問答無用で子供の腰に腕を回して担ぎ上げる。
「どっから来たガキか知らねぇけど後で送り届けてやんよ、今はそれどころじゃねえ!」
悪態をつきながらも、抱えあげた子供の体はしっかりと支えており。フェネアンは本日二度目となる研究所への道を急いだ。
「今朝がたの比じゃねえや、こりゃあ」
プログラマーも、研究部も、技術部も関係なく、バンボルを手に集まってきている人々の対応に追われている研究所の職員に、フェネアンはため息をついた。腰に抱える子供はまだ目を覚ましておらず、仕方がないのでそのまま人の波を掻き分けようとする。
「アン!」
「よう、こいつぁえらいことになってるな」
「ここの研究所だけじゃねぇって話だ、他の研究所でも報告が上がってるらしく、バンボルのプログラムが」
「必須条件の第一と第三の破損、だろ。こんだけ数がいるんだ、ほぼ間違いなくウイルスだな……やっかましいぞてめぇら! ゴチャゴチャ喚くんじゃねえ!」
予備動作の一切ない腹からの怒号に、騒いでいた人々は全ての動作を止めた。フェネアンは煙草を咥えて火をつけ、静かに煙を吐き出すと、子供を抱えていない方の手をポケットに突っ込む。
「どけ、入れねぇだろうか」
ギチリと眉間にシワを寄せ、上目づかいに人々を睨みつけると、彼らはバンボルを庇うようにしながらも勢いよくフェネアンに道を空けた。彼は悠々とその中央を研究所の入り口に向かって歩き、同僚たちに並ぶ。
「ここじゃどうしようもねぇだろ、あの石頭どこ行った」
「お前に電話かけた時まではいたんだけど、緊急事態だってことで、急遽所長会議が開かれたってジェット機でセントラルに行っちまったよ!」
「役立たずが……、脳ばっかありやがって。とにかく一旦、中に入れ」
こめかみに青筋を立てながら言う彼の威圧感に、誰も逆らわず、大人しく研究所の中に入っていった。




