第48話 変身
次に目が覚めた時、長屋は仮想空間から地下の空間へ意識を戻していた。長屋の横では、仮想空間のサーバ代わりとなっていた野々瀬がニコニコとしている。
「お加減はいかがでしょうか? 長屋様」
目が覚めてから、長屋の脳内には断片的に老齢の長屋の記憶が存在していた。21世紀の長屋が生まれてから、2067年の未来確定事故を経て、歴代の日本の首相や国家元首の脳内を依り代としていた1500年以上の記憶が。
「……そこそこ頭が痛い。インストールしたデータ量が、脳の許容ギリギリな証拠だな」
「そういう経験を、歴代の大統領に強いてきたのも事実ですよ」
「そうか……、そうだな。今まで世話をかけた」
「いいのです。我々の呪いも、もうすぐ解放されますから」
そういって野々瀬はそのまま、グラッと横に倒れた。その顔には生気はなく、真っ白である。
「負担をかけすぎたな。今日までよく働いてくれた。感謝する」
なんとなく口調が変わっている長屋。老齢の長屋と融合した影響だろう。
「さて。さっさとやることやらなければな」
そういってアタッシュケースに手を伸ばす。老齢の長屋の記憶があるため、中身が何なのかはもう分かっている。
アタッシュケースの鍵は開いており、バックルを開けて、パカッとフタをオープンする。
そこには謎のガジェットが入っていた。大きさは長財布程度の大きさだが、見た目に反して重厚感があるように見える。
「お久しぶりだな、ヘリクゼンバックル」
長屋はバックルを取り出し、それを持ち上げる。立ち上がってそれを腰に当てた。途端にバックルからベルトが出現し、腰を一周してバックルを腰に装着させる。
それが終わると、バックルから警報音にも似た音楽が流れだす。
長屋は両手を斜め前方向に差し出して交差させ、それをゆっくり顔の横に持ってきて握りこぶしにする。
「変身」
そのまま両手をバックルの前で交差させた。すると待機音が変化して、ポーンと鳴った。
『スキャニング』
するとバックルから流体のような金属があふれ出し、長屋にまとわりつく。そしてラバースーツのように全身をまとい、さらにその上から装甲のようなものが生成される。
最後に、装甲に色が現れて変身が完了する。
『ヘリクゼンアルファ』
仮面をかぶったようなそれは、まさに特撮ヒーローのようだろう。
そんな長屋のそばに、自立走行型二輪車であるバイクがやってくる。長屋はバイクに跨ると、グリップを捻ってエンジンをふかす。
そしてそのままバイクを走らせる。地下から地上に出る専用の通路を全速力で走る。そして大統領公邸の裏に出てきた。
ヘッドギアの画面に更新した情報が表示される。どうやらこの近くに敵性勢力がいるようだ。
その場所へとバイクを走らせる。現場に到着すると、そこには武装した巨大ロボが黒須たちに襲い掛かろうとしていた。
「待て!」
長屋はエンジンを全力にして、全速力で巨大ロボへと走る。速度が乗ったところで、バックルの右上側を3回押した。
『ヘリクゼン、キック』
長屋はバイクの速度を利用しつつ、バイクからジャンプする。
「とぅっ!」
胸部から背中にかけて存在するイナーシャルブースターエンジンが、全力で長屋の空間ベクトルを変化させて、キックに最適な速度と角度に調整する。
それにより長屋のキックは、11式格闘サポーターのメインエンジンを捉え、そして貫いた。地面に着地した長屋は、キックの惰性で地面を抉りながら滑る。
黒須たちのことを狙っていた巨大ロボは、その場で一切動かなくなった。サブシステムもやられたのだろう。
長屋が立ち上がると、黒須たちは驚いてポカンとしていた。そこに長屋が駆け寄る。
「大丈夫か? 茜、マリ」
「その声……、陽介君……!?」
「ヨウ君何してるの?」
「これは成り行きでこうなった。事情は後で説明する。今は安全な所に━━」
その時、射撃音と共に衝撃が長屋を襲う。長屋は背中に違和感を感じたが、装甲が存在するため特に影響はない。
長屋が振り返ってみると、そこには女性たちが拳銃や小銃で武装していた。さらにその奥には、クーデター軍と上京区の連中もいる。
「私たち新日本婦人会が損失を被っているのも、全部大統領が悪いわ! 出てきなさい!」
「我々が大統領を殺して、赤石首相を正式な国家元首にする!」
「今こそ、我が国の正当なる後継者を高御座にお座りにさせる時! いざ出陣せよ!」
見ているだけで頭が痛くなるような感じだ。
「こうなったら、まとめて相手にするしかないな」
長屋は、黒須たちの前に立つ。
「ここからが、俺の物語だ」




