第43話 武力行使
長屋たちは必死になって学校から離れる。とにかく銃撃戦に巻き込まれるのを避けたかったからだ。流れ弾が体のどこかに当たってしまえば、死ぬ確率が高くなる。鋼鉄に包まれた巨大ロボットに比べ、人体はあまりにも脆弱過ぎるのだ。
数分ほど走り、銃撃戦の音が遠くなる。ここまでくれば、ある程度は安心だろう。
「に、逃げ切れたか……?」
ようやく黒須と高崎の手を離し、呼吸を整える長屋。黒須と高崎も息が上がっていた。
その時、スマホにニュースの通知が飛んでくる。長屋は見る気力が湧かなかったが、どうやら彼女たちのスマホにも通知が飛んできたようで、黒須が確認した。
「えっ……!?」
その内容に驚いている。
「茜っち、何かあった?」
「東京の国会議事堂が陸軍の部隊に占拠されたって……!」
「マジかよ……!」
陸軍の部隊というと、おそらく赤石首相が承認したクーデター軍の可能性が高い。ここまで来ると、だいぶ手が込んでいる。
「マジで戦時中の暗殺事件じゃねーか……」
ボソッと呟く長屋。ここまで来ると、長屋たち民間人がどうのこうの出来るような話ではない。
(どうする……? このまま家に籠もってたほうが安全なのはその通りなのだが……)
長屋の目が泳ぐ。ここで選択をミスすれば、長屋だけでなく黒須と高崎の命も危ない。そうなれば、ここに三人でいるのは危険なのかもしれないだろう。
そんな考えがグルグルと長屋の脳内を巡る。長屋は呼吸が浅くなり、酸素が足りなくなってくる感覚がしてきた。
その時、前の交差点からトラック、バン、バスなどの車両が勢いよく飛び出してくる。それらの車両の外装には、扇の中に菊の紋章が書かれており、よく見ればどの車両も異様に増加装甲を装備している。
「何だあれ……、タクティカルトラックかよ……」
武装車両が長屋たちの前に急停車すると、そこから銃やらロケランを装備した多数の男性がゾロゾロと降りてくる。周辺を警戒しているのか、長屋たちのことをあまり気にしている様子はない。
すると、バスの中から見たことのある男性が降りてくる。
「あれは……、久野とかいう不審者……」
その久野は長屋の姿を見ると、二コリと笑いながら長屋の方に近づいてくる。
「これはこれは、長屋陽介様。ここでお会いするとは奇遇ですね」
「……こっちは正直会いたくなかったですけど」
長屋はバチバチに敵対する雰囲気を出しているが、久野はそんな視線を物ともしていない。
「その様子ですと、クーデター軍と遭遇したようですね。赤石首相が先に行動してしまいましたので、我々も行動を起こさざるを得なかったのですが……。実に不本意ですね、こうして武力に発展してしまうのは」
「その割には、かなり嬉しそうですね?」
「それはもちろん。こうして武力行使の口実を頂いたのですから。この機会を逃すわけには行きませんから」
そういって久野が右手を上げる。それを確認した武装男性たちがこちらに接近してくる。このままでは、長屋たちは囲まれてしまうだろう。
「ヤバい……。茜、マリ、俺を置いて逃げろ!」
「よ、陽介君! どうして……!」
「ヨウ君を置いていけるわけないでしょ!」
二人は混乱しているものの、状況のヤバさを理解した上で逃げるのを拒否しているようだ。その証拠に、二人とも長屋の裾を掴んでいる。
「これは二人の手に負えるものじゃない! 俺がなんとかするから早く逃げるんだ!」
「やだよ……。ここで離れたら、陽介君と二度と再会できる気がしないよ!」
「そうだよ! なんか勝手に危ないことに巻き込まれてるヨウ君が心配だし、これ以上うちを心配させないで!」
黒須と高崎から、愛の叫びとも取れる意見が飛び出す。だが今は、それに答えている場合ではないのも事実だ。
「ごめん、茜、マリ。でも、これは俺自身の問題だから……」
そういって長屋は、バッグからあるものを取り出そうとした。せめてもの抵抗の印である、拳銃を。
その瞬間だった。何かが爆発するような音が聞こえ、直後に甲高いエンジン音が徐々に接近してきた。
エンジン音のする方を見ると、そこにはどす黒い煙を吐いた武装ヘリが回転しながらこちらに落下してきていたのだ。
長屋はとっさに二人の肩を掴み、その場に伏せる。
落下してきた武装ヘリは、久野の向こう側にいた武装車両の真ん中に墜落した。それにより、派手に爆発が起きる。
その光景に唖然としたが、長屋は次の瞬間には切り替えていた。
「逃げるよ!」
すぐ近くにあった裏通りへ抜ける細い道に、二人を連れて逃げる。
「……逃げましたか。まぁいいでしょう。そのうち相まみえることですから」
久野は長屋の様子を見ていたが、あえて追いかけるようなことはしなかった。
そうして長屋たちは、マンションに向けて再び走るのだった。




