第42話 クーデター
週末。長屋はベッドでくつろいでいたが、いまいちくつろぐことは出来ていなかった。
その理由は、リビングのテーブルに置かれていたアタッシュケースである。爆散していた研究所跡地から持ち出してきたのはいいが、中身が開けられない以上はどうする事もできない。結局、無用の長物になっていた。
「そもそもこれが何なのかが分からないことにはなぁ……」
このアタッシュケースを持ち帰ってから、数時間ほど開けられないか確認、もとい格闘をしていたのだが、解錠のヒントすら得ることが出来なかった。
こうしてデカすぎる文鎮が鎮座した状態のまま、長屋は月曜日を迎える。
いつものように学校へ向かっていると、黒須と合流した。
「陽介君、おはよー」
「おはよう、茜」
「先週のアレ、なんの用事だったの?」
「あ、あれはー……。お世話になってる人の安否を確認するためにね……」
嘘ではない言い訳をしていると、後ろからドンッと何かぶつかってくる。
「ヨウ君、おはよー!」
「ぶほぁ!」
高崎のタックルバックハグだ。会心の一撃で腰が逝きそうになった。
「ヨウ君、この間すごい急いで廊下走ってたけど、何かあったのー?」
高崎からも同じ質問をされる。それに繰り返し答えようとすると、何やら騒がしい声が聞こえてくるだろう。
遠くの方、校門の近くで何者かが騒いでいる。よくよく見ると、それはいつぞやのフェミニスト集団の新日本婦人会であった。
「げっ……。ちょっと見たくなかった集団がいる……」
「見たくなかったって? ……あー、この間、銃を向けていたっけ?」
「そうなんだよな……。因縁とかつけられてなければいいんだけど……」
そういって長屋は俯き気味で校門に接近する。そして、新日本婦人会が長屋の顔を見ようとした。
その時である。
少々道路にはみ出ていた数人のフェミニストが、突如として車輪駆動で移動していた巨大ロボに轢かれた。自動車などに比べ巨大なタイヤに巻き込まれた彼女たちは、ほんの数瞬で頭が破裂し、血しぶきを周りのフェミニストたちにぶっかけていた。
数秒の間、新日本婦人会はおろか、その全景を見ていた長屋たちも、何が起きたのか分からなかった。
「きゃあぁぁぁ!」
事態を把握した黒須が、真っ先に悲鳴を上げる。それにつられるように、フェミニストたちからも悲鳴が上がる。
そんな中、何の異常もなかったように振る舞っている巨大ロボ。その肩には、第一師団隷下の第一格闘サポーター大隊のマークが書かれていたが、その上に書き換えるように首相の私兵を意味するエンブレムが入っていた。
そして巨大ロボ部隊は道路の真ん中で停止すると、スピーカーで住民に話を始める。
『住民の皆さん。我々は赤石首相が有する軍隊です。現在東京都では、野々瀬大統領閣下の暗殺が企てられており、これに対して赤石首相が独断で、我々のような信頼のおける部隊に治安維持の派遣を要請しました。住民の皆さんは、外出はせずに、ご家庭の中で最も安全な場所に身を隠してください。これ以降は、首相のシークレットサービスからの指示があるまで、外出しないようにお願いします』
その断片的な発言を聞いて、長屋は完全に繋がった。
(これは、首相によるクーデター……! となるとこれから起きるのは、国体を賭けた血みどろの戦い……!)
それを理解した時、新日本婦人会のフェミニストたちが怒り狂っているのが見えた。
「このぉクソオスに支配された無能集団め!」
「私たちの怒りと悲しみと憎しみを受け取れ!」
すると、どこからともなく取り出した小銃や拳銃の銃口が、巨大ロボット兵に向けられる。そして、躊躇することなく引き金を引いた。
銃声が辺りに響き渡る。それを聞いて、長屋は反射的に体を屈め、頭をバッグで隠す。黒須と高崎も同じようにしていた。
しかし、小銃ごときで巨大ロボット兵に傷はつかない。その攻撃に気づいた操縦者が、車輪駆動から二足歩行駆動に切り替え、足で踏みつぶしていこうとしていた。
「クソッ! 逃げよう!」
長屋は、これ以上ここにいるのは危険と判断し、黒須と高崎の手を取って逃げ出す。
「陽介君! 逃げるってどこに!?」
「今は俺んち!」
「でもヨウ君の家もすぐに危なくなるんじゃないの!?」
「分からない! でも、家に行ければ何とかなる方法があるかもしれない!」
何とかなる方法。それは、あのアタッシュケースに他ならない。
とにかく、家に帰らねば。長屋たちは走った。




