第41話 懸念
お昼ごろに赤石首相が学校から去り、無事に平穏な日常が戻ってきた。
しかし長屋の心中はそれどころではない。
(考えてみれば、大統領と首相と言うのはかなり親しい関係にある……。そりゃ俺の存在も簡単に知ることが出来る。その首相が、大統領を差し置いてクーデターの中心に身を置くとなれば、それは首相が首謀者となって起こる革命にならざるを得ない……!)
そんな状況に、長屋はなんとなく既視感を覚える。
(これあれか? 原敬とか高橋是清みたいに総理大臣が暗殺される感じのヤツに似ているんか? そうなると、大統領の周辺にいる人物も危なくなるから……。あっ、まさか……!)
長屋は考えてしまった。馬渕たちがいる人類維持局のことを。彼女たちは長屋の召喚に関する中心人物だ。当然ながら大統領の息がかかっていることだろう。そんな彼女たちのことを、クーデター軍が放っておくだろうか。
「ヤバいかも……」
授業中にも関わらず、長屋は机の下で知っている人類維持局の面々にメールを打つ。内容は、首相がクーデターを企んでいること、長屋も殺害される可能性があること。この二つを端的に書いてメールを送信した。
しかし、西原にはメールを送信出来たが、馬渕にはメールが届かなかった。
(なんで……?)
長屋は慌てるが、考えを改める。人類維持局は国の機関である。内閣内で発生している異常事態に対して、すでに対策を講じている可能性もある。その第一段階として、情報を抹消することは常套手段で定石だ。もしかすれば、馬渕がこれを行っている可能性があるかもしれない。
(でも西原さんにはメールが届いているから……。最悪の可能性も考慮しないといけないのか……?)
とにかく、今はメールが届いた西原を頼るしかない。
授業終わりに西原からメールの返信が届いた。
『昨日から研究所にメールや電話が届かないの。もしかしたら長屋君の懸念が当たっているのかも……』
西原の文面から、不安そうな雰囲気が感じ取れる。
(これ……、思った以上にヤバいか……?)
その後、西原と数回ほどやり取りして、放課後に研究所へと向かうことになった。
(最悪な事になってなければいいんだけど……)
そして放課後になった。いつものように、黒須が長屋に声をかける。
「陽介君、一緒に帰ろー?」
「ごめん茜。今日は急用ができちゃって、すぐに帰らないといけないんだ」
そういって急いで荷物をまとめる長屋。
「そ、そうなんだ……」
「ホントごめん! じゃ、また来週!」
そういって長屋は教室を飛び出す。横で高崎が声をかけようとしたが、それを置き去りにするくらい全力でダッシュしていた。
昇降口で急いで靴に履き替え、校門までダッシュする。校門の前ではすでに西原が車を寄せて待っていた。
「すみません、急に呼び立てるようなことしちゃって」
「大丈夫よー。私もちょっと心配だったからー」
長屋がシートベルトを付けたのを確認した西原は、少々強めにアクセルを踏む。
研究所に向かう道中、長屋は流れゆく窓の外を見て不安な気持ちを膨らませていた。もしかしたら馬渕が死んでいるかもしれない。
(いやいや、この目で見るまでは事象は確定していない……!)
そんなことを思っていると、研究所が所在する通りまで出てきた。しかし、いつもなら見えるはずの建物が見えない。その代わり、外気導入している車のエアコンから焦げ臭いニオイが漂ってくる。
「な、なんか変なことが起きていませんか……?」
長屋は直感で、いつもと何かが違うことを感じ取る。
やがて車は人類維持局の研究所に到着した。しかしその敷地に入ることはできなかった。
研究所はすでに瓦礫の山となっており、あちらこちらに割れたコンクリートが飛び散っていた。
研究所の門には規制線が張られ、中に入れないようになっている。
「これは……」
いうなれば、何かしらの爆弾を使って建物を破壊し、その上で火炎放射器で燃やし尽くしたような状況と言えば分かりやすいだろう。
事故か事件か、どちらにせよ何かしらの因果が働いたのは間違いない。
「研究所が……、破壊されてる……」
現実を受け入れることができず、西原は手で口を覆い隠していた。目の前の光景にかなりのショックを受けているようだ。
長屋も唖然としていたが、馬渕のある言葉を思い出す。
『研究所の地下に来なさい』
今まさに、その言葉に従うしかないだろう。長屋は規制線の黄色いテープをくぐり、現場へと入っていく。
「え、ちょ、長屋君……?」
西原は、長屋のことを呼び止めようとしたものの、結局長屋の後ろをついていく。
長屋はどこかに地下に通じる扉があると考え、研究所の跡地を進む。そんな中、敷地の隅にあった小さな物置小屋に目が留まった。ここだけ火災の魔の手から逃れたようだ。
長屋は物置小屋に近づくと、それがただの物置小屋ではないことに気が付く。
「指紋認証に虹彩認証……?」
物置のロックにしては厳重である。そして何を思ったのか、長屋は指を穴部分に入れ、目をカメラに近づける。
数秒で認証され、ロックが解除される。扉が開くと、そこには急な階段が存在していた。ロックが解除されたことで、小さな電灯がところどころ光る。
「これは……」
長屋は意を決して、階段を下る。
「ちょ、ちょっと待ってー」
西原も戸惑いながら、長屋の後ろを追いかける。
長い長い階段を下り、ようやく床に到着する。そしてその先に、一つの電球に照らされた台を発見した。その台には一般的な大きさのアタッシュケースが置かれている。
アタッシュケースの上には、一枚のメモ紙が置かれていた。
『長屋君に、全てを託すわ 馬渕』
それだけのメモだ。
アタッシュケースにも何かロックのようなものがあり、今は開かないようだ。
「今はこれを持っていろ、ってことね……」
最後の希望であると言わんばかりに照らされるアタッシュケース。それの正体も分からずに、長屋は回収するのだった。




