第32話 テスト勉強
5月に入ると、授業中に教員から次のような言葉が頻発する。
「ここ、テストに出します」
そう、まもなく中間試験の時期である。新和光高校は二学期制の学校で、期末試験までに中間試験が2回あるのも特徴だ。それだけで36世紀が特殊な環境であることが言えるだろう。
そんなこともあり、学校全体でテストという空気感が醸成されていく。それは長屋たちも例外ではなかった。
「ヨウ君、ここ教えてー?」
テスト前の期間は、部活動は休みになる。しかしそれは文芸部には関係ないとも言える。そのため、長屋たちは文芸部でテスト勉強をしていた。
「数Ⅰ? ならまだ簡単な方じゃない? 教えることある?」
「ヨウ君ひどくなーい? うち頭よくないって前にも言ったじゃーん」
「ならなんでこの高校にいるんだ……? いや、俺も転入してきたから人のこと言えないが……」
「そんなに教えてほしいなら私が教えてあげますよ」
「えー、茜っちは厳しそーだしなー」
「そうやって私のこと目の敵にするの止めてくださいよ!」
「まぁまぁ、茜も、高崎さんも落ち着いて」
長屋が二人のことをなだめようとする。
「陽介君は私のことが一番じゃないんですか!?」
「そ、そりゃ茜が一番だよ」
「でもうちのことも大切にしてくれるっしょ?」
「それは、そうだけど……」
黒須と高崎に詰められる長屋。優柔不断さが仇になってしまっているようだ。
「ていうかさー」
高崎がノート類をほっぽり出して、ソファにあったクッションを抱きしめる。そしてふとした疑問を長屋にぶつける。
「ヨウ君ってうちのこと苗字呼びなんだね」
「ギクッ」
思わず擬音語が口から飛び出してしまう。
「ねぇねぇ、うち彼女なんだよね? なんで?」
「なんでって言われても……」
そこに正妻面した黒須が上から目線で答える。
「陽介君は意外と恥ずかしがり屋なんですよ。でも私はそれを越えた存在なんです。つまり偉いんですよ!」
そういって腕組みし、ドヤ顔で高崎のことを見下す。
「うわー……。そういう私が本命ですって顔、正直女性受けしないから止めといたほうがいいと思うよ」
「私は女性受けしようと思ってないので問題ないでーす!」
謎のマウント合戦が始まった。ので、早急に長屋が撤収させる。
「はいはい、喧嘩はそこまで。俺は茜も高崎さんも大事にするから」
「じゃあうちのこと名前で呼んで?」
「うぐっ……」
高崎は潤んだ瞳で長屋のことを見る。さすがにこれ以上は逃げられない。
「ま、マリ……」
「~~~っ! はいはいはい、もう一回!」
「……マリ。もういいでしょ」
「もっともっと! うち、もっとヨウ君のこと好きになりたいから、何回でも呼んで!」
「ハズいよ……」
そんなことを言っていると、放送が流れる。
『完全下校時間となりました。生徒の皆さんは、速やかに下校してください。繰り返します……』
それに唆されるように、校内に残っていた生徒たちが廊下を駆けていく音がする。
「……俺たちも帰るか」
「えー、うちはもっとヨウ君と一緒にいたーい」
「高崎さんはせめて学校の規則を守ってください」
「ぶーぶー」
そんなことを言いながらも、三人は文芸室を出て下校する。
高崎は電車通学なので、校門ですぐにお別れだ。
「それじゃあヨウ君……」
そういって高崎は長屋のことを正面からギュッと抱きしめる。突然のことで、長屋も黒須も動けなかった。
そして数秒、十分にハグしたことで満足した高崎は、そのままパッと離れて駆けだしていく。
「また明日ねー!」
そのまま高崎は駅の方面へ走っていった。
その状況を呆然と見ていた黒須が、ようやく意識を取り戻す。
「ななな、何してるの陽介君!?」
「えぇ!? 俺!?」
「そーだよ! 私が一番なのにぃ……!」
そういって黒須は泣きそうな顔をする。
「あああ、茜……」
長屋は完全に慌ててしまう。そんな状況につけ入るように、黒須が長屋のことを上目遣いで見る。
「このまま陽介君のおうちに行かないと泣いちゃうかも……」
「え゙……?」
思わぬ言葉に、長屋はたじろぐ。
「そ、それは……」
「だって、あんなに高崎さんとイチャイチャしてたんだもん。私だってそのくらいしないと不公平だよ……」
「ぐっ……」
正論である。しかし、年頃の男女が二人っきりで一つの部屋にいるというのは、間違いが発生するかもしれないリスクが存在する。
(どうする……?)
長屋が長考に入る前に、黒須が決めにかかる。
長屋の制服の裾を掴んで、アピールした。
「ダメ……?」
「う……っ」
好きな人からの甘えモード。正直勝てる気がしない。
先に白旗を上げたのは長屋であった。
「いいよ……」
「やった……っ」
そしていつものように、長屋と黒須は手を繋いで帰り道を行くのだった。




