第31話 パフェ
週が明け、5月になった。36世紀では、21世紀にあったようなゴールデンウィークは消滅しており、通常の平日になっていた。
そんな中、週初めの月曜日の放課後だというのに、長屋、黒須、高崎は文芸室にて部活動に精を出してはいなかった。
「陽介君、クッキー食べる?」
「ヨウ君、一緒に小説読もー」
ソファに座っている長屋と、彼を挟むようにして座る黒須と高崎。そして彼女たちは長屋を取り合うように、彼の腕をギュッと抱きしめている。
「あ、あの……、二人とも……。そうやられると動けないんだけど……」
「だって、高崎さん。ちょっとは離れたらどうですか?」
「えー? そういう茜っちが動いたら話が早いんじゃないのー?」
二人とも長屋の彼女になったとはいえ、その中での覇権争いのようなものが絶賛開幕中である。これも古からの女性の性というものだろうか。
しかしそんな36世紀でも、21世紀とは違う部分があることを感じている。それは、女性の気が強くなったということか。
(言葉で言い表すのは難しいけど、よくあるラブコメアニメの登場人物に似た空気を感じる)
さすがに1500年もの時間が流れているのか、人類的な進化が起きているのだろう。そうでなければ説明できないような変わりようである。
「あっ、そうだ。ヨウ君さー、パフェ好き?」
「ぱ、パフェ?」
「うん」
「うーん、正直食べたことないからなんとも言えないなぁ……」
「マジー? じゃあ食べに行かないともったいないじゃーん! すぐに行こっ!」
そういって高崎は立ち上がり、長屋の手をグイグイと引く。
「ちょ、高崎さん! それはずるいですよ!?」
高崎に対抗するように、黒須が長屋の反対の腕を引っ張る。
そして完成する長屋の綱引き。
「ちょっ、二人とも……。落ち着いて……」
引っ張られて腕が痛む長屋。しかし、正直悪くなかった。
(俺を取り合いにしてくれてるのは正直嬉しい)
だが、それでは状況は好転しない。長屋は黒須に提案する。
「あ、茜……。せっかくのパフェだし、一緒に食べたいなぁ……って思うんだけど……」
そのお願いを聞いた黒須は、心臓を射抜かれたような表情をする。黒須の背景には「ズキューン」というオノマトペが書かれていそうだった。
「う、うん。分かった……」
腕を掴む力が弱まり、なんとか長屋の綱引きは終わった。
高崎は少し不満そうな顔をしているが、丸く収まるには必要な犠牲である。
そうして三人は、高崎の案内で駅前にあるカフェへとやってきた。多少人気があるのか、夕方の時間でも数人の行列が出来ている。
「少し待ちそうだね」
「ふっふっふ……。そういうと思って、チャットアンドで事前に予約を取っていたのだー!」
高崎はスマホを取り出しながら店に入る。そしてレジにいた店員に二次元コードを見せた。
「はい、ご予約の長屋さんですね。こちらの席へどうぞー」
スムーズに店内に案内される長屋たち。テーブル席に案内されるが、ここでもひと悶着が起きる。テーブル席はどう見ても二人掛け。一方で黒須と高崎は長屋と一緒に座りたい。そうなれば争奪戦が勃発する。
「高崎さん。二番目の彼女なんですから、ここは譲ってくれますよね?」
「いやいや。茜っちのほうが長く付き合ってるんだから、うちに譲ってくれてもいいっしょ?」
まさに小さな女の戦いだ。争いがヒートアップする前に、長屋が提案する。
「あのー、俺が一人で座って、茜と高崎さんが一緒に座るっていうのはどうかな……?」
その提案をすると、二人はジトー……とした目で長屋を見る。
「駄目だよ陽介君。女の子にそういうこと言っちゃ」
「今のはないわー……」
何故か争っていた二人に批評される長屋。長屋の心に傷がついた。
結局そのように座ることになり、長屋の前には黒須と高崎が座っている状態になる。
「じゃあ早速パフェ食べちゃおー。すみませーん!」
高崎が店員を呼ぶ。
「はい、ご注文をどうぞ」
「えーと、茜っちはパフェ食べる?」
「た、食べますよ!」
「じゃあ春のイチゴパフェ二つでー」
「二つ?」
長屋と黒須が疑問に思う。高崎が答える前に、注文を受けた店員は去っていった。
「二つってどういうこと?」
長屋が聞くと、高崎はニコニコ笑ったまま答えない。
10分か15分ほど待つと、再び店員がやってくる。
「お待たせしました。春のイチゴパフェになりまーす」
自分たちの目線近くまでそびえ立つパフェが二つ、黒須と高崎の前に置かれる。
「えと、高崎さん……。俺の分は……?」
「んじゃ、いただきまーす!」
長屋の問いを無視して、高崎はスプーンでパフェに乗っていたクリームを掬い、それを長屋に差し出す。
「はい、あーん」
その時、長屋と黒須に衝撃が走る。そして理解した。高崎はこれをやりたいがためにここに来たのだと。
「ななな、何してるんですか高崎さん!?」
「えー? 何って、彼女らしいことだよ? あ、茜っちにはまだ早いかぁ?」
高崎が黒須のことを煽る。煽られた側の黒須は、負けじとこちらもクリームを掬って長屋に差し出す。
「陽介君! あーん!」
「ちょ、ちょっと落ち着けっ━━」
口が開いた瞬間、高崎と黒須がほぼ同時にスプーンを口に突っ込む。いきなり食べ物を口に入れられたことで、長屋は少しむせてしまう。
「だ、大丈夫……」
「あー、茜っちヒドイんだー」
「それは高崎さんも同じでしょ!」
再び二人がヒートアップしそうになる。長屋はなんとかむせを抑え、二人に向き合う。
「二人とも。俺のことを一番に考えてくれるのは嬉しいけど、まずは二人が仲良くならないといけないと思うんだ。そうじゃなきゃ、いつまでも平行線のままだよ」
「陽介君……、それはその通りだけど……」
「ヨウ君、茜っちは最大のライバルだし……」
「いや、ライバルじゃない」
長屋は目を見開いて言う。
「俺と茜と高崎さんは、一種の家族だっ!」
「か、家族?」
「そう。今は彼氏彼女の恋人関係だが、もしかしたら近い将来夫婦に発展するかもしれない。その時はすでに家族なんだ」
「家族……」
「つまり、その前段階である今も、家族として団結する必要があるんだ!」
長屋はこう主張した。
(自分でも何を言ってるのか分からない暴論だけど、今はそれでいい……! この場が丸く収まってくれさえすれば……!)
彼女たちの反応を見ると、どうやら心に刺さるものがあったようで、急に大人しくなる。
「陽介君と、家族……」
「そりゃ、いつかヨウ君とそういう関係になるかもしれないけど……」
そして納得したのか、黒須と高崎は手を取り合った。
「私たちは、家族になる存在……!」
「今は一緒に、前に進むべきっしょ!」
「分かってくれて何よりだ……」
そういって頷く長屋。
「じゃあ……」
「一緒に食べてくれる?」
そんな長屋に、黒須と高崎からクリームの乗ったスプーンが差し出される。
「ん?」
「パフェ二つしか頼んでないから、一緒に食べよ?」
「ほら、ヨウ君、あーん?」
「あ、あーん……」
とりあえず、丸く収まったのでヨシとした長屋であった。




