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転生したスワンプマンは過去の栄光に思いを馳せるか?  作者: 紫 和春


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第19話 フードコート

 ショッピングモールの中は、当然のことながら様々な店舗が軒を連ねている。このモールには女性服の店が多くあり、次いで雑貨屋が多い。

 長屋と黒須、二人が同時に楽しめるのはこういう雑貨屋なのだ。


「色々あるなぁ」


 長屋は店舗の外から中の商品を眺める。

 アクセサリー、バッグ、人形、コップ、化粧品など、幅広い商品が取り扱われている。


「そういえば、バッグの類いって持ってなかったな……」


 いつもはスクールバッグで済ませている長屋。外出用のボディバッグはおろか、普通のバッグも持っていない。


「じゃあ、ここで買っていく?」


 黒須が長屋のことを覗き込みながら言う。


「そうするか」


 二人は店舗に入る。


「らっしゃっせー」


 女性店員がユルい声で対応する。真面目に仕事しているようには見えないが、このくらい気が抜けているほうがちょうどいいのだろう。

 二人はバッグが並んでいる棚を見る。


「うーん、こうして見てみると、女性用が多いな。まあ当然の帰結ではあるか……」

「そうかな? このレモン色のボディバッグとか似合いそうだよ?」


 そう言って黒須が黄色のボディバッグを手に取って長屋に見せる。


「ちょっと派手じゃない? もう少し地味な色が似合う気がする」


 長屋はバッグを物色する。


「青とか紺があれば……」

「それなら……。これとかどうかな?」


 黒須が提案したのは、少し明るめの紫色をしたボディバッグだった。

 それを見て、長屋は少し考える。


「うん……、これなら大丈夫かな」

「すごく良いと思うよ」


 黒須からのお墨付きをもらい、このボディバッグを購入することにした。

 会計に向かう前に、黒須も欲しいものがないか見て回る。


「そうだなぁ……。こういう小物とかいいけど……」


 10分ほど悩んだ黒須は、最終的にブローチを選んだ。


「これは、これから陽介君といろんな思い出を作る時につけるの。それで、将来このブローチを見た時、陽介君といろんな思い出を作ったなぁって思い出せるようにする。それってとても素敵なことだと思うな」

 手の中にあるブローチを見ながら、黒須は将来に思いを馳せる。

 それを聞いた長屋は思った。


(結構考えが重くないか……? 将来俺と茜が結婚するような言い草だし……)


 しかし長屋は思うだけにした。


(そんなことをわざわざ言うほどノンデリじゃないし、言うだけ野暮だしな)


 意外と立場をわきまえている長屋である。

 その後、それぞれ会計を済ませて店を出る。


「この後どうしようか?」


 長屋はスマホで時間を確認する。


「11時半か……ちょっと早いけど、お昼にしよっか」

「いいよー」

「何が良いとかある?」

「うーん……。このモール、フードコートとかあるから、そこで良いんじゃない?」

「おっけー」


 二人はモールに併設されているフードコートに移動する。どこを見ても女性客でいっぱいである。もちろん、店舗はメジャーなファストフード店数店とうどん、デザート専門店、定食屋といった具合だ。


「何食べる?」


 黒須が長屋に聞いてくる。


「そうだなぁ……。あの豚の生姜焼き定食にでもしようかな」

「じゃあ私も定食にしよっ」


 そういって二人で定食屋に並び、食事を受け取る。近くにあった座席に座った。


「それじゃあ……」


 長屋は手を合わせる。

 その瞬間、何かが破裂する音が響いた。


「えっ!?」


 その音は長屋の真後ろで発生したようで、鼓膜が痛む。そして思わず振り返ってみると、長屋に対して拳銃を突きつける老年の女性がいた。


「お、大人しくしろ! じゃないと、お、お前の命が危ないぞ!」


 突然訪れる非日常の光景。常軌を逸している状況に、長屋は思わず眩暈で倒れそうになった。


「陽介君!」

「あ、あんたも動くんじゃないぞ! 変な動きをしたらただじゃおかないからね!」


 そういって女性は、長屋の額に銃口をグリグリと押し付ける。

 すると、市民からの通報を受けたのか、二人の女性警官がすぐに駆けつけてきた。


「拳銃を持ったあなた! 今すぐ拳銃を捨てなさい!」


 警官も対抗して拳銃を取り出し、銃口を女性に向ける。


「うるさい! あ、あんたらのような国家の犬が、アタシのエリート街道を邪魔したせいで、今じゃ無一文生活だ!」

「私たちは国家の犬ではありません! 市民の治安を守るのが仕事です!」

「じゃあなんでエリートのアタシに男をあてがわなかったんだ!? アタシにはその権利と義務があったんだ!」


 なんだか分からないが、この老年の女性は男性に執着しているらしい。


「あなたの主張は署で聞きます! 拳銃を捨てなさい!」

「嫌だ!」


 そんな言葉の応酬をしていた、その時である。

 老年の女性の背後から、ワイヤーで繋がった黄色い何かが高速で飛んできた。そしてそれが女性に刺さると、ビクンと体が跳ねて硬直したように床へと倒れ込んだ。


「確保ーっ!」


 裏に隠れていた応援の警官が多数出てきて、女性の身柄を確保する。拳銃も警官の手によって回収された。

 身が安全になったことが分かった長屋は、思わず腰が抜けて尻もちをついてしまう。


「陽介君! 大丈夫!?」


 黒須が長屋に駆け寄り、背中に手をやる。


「お、俺、生きてる……?」

「大丈夫、生きてるよ……」


 黒須は長屋の前に回り、安心させるように肩を抱いた。


「陽介君が無事でよかった……」


 その抱擁が、実際に長屋のことを安心させる。

 その後、長屋と黒須は警察から事情聴取を受けた。念のため保護者にも来てもらい、今回の事件のことを保護者に伝える。黒須の保護者として母親が、長屋の保護者として当然の如く西原がやってきた。


「そうだったのですか……」

「とにかく、お子さんが無事なのが何よりです。今日はこのまま家に帰宅してください。もし今回の事件で心に傷を負ったなどのことがあれば、こちらの相談窓口に電話してください」


 そういって名刺サイズの紙を渡される。「警察の心の相談窓口」と書かれており、電話番号も付いている。

 こうして約数時間の事情聴取と現場検証が終わり、長屋と黒須は解放される。もうすぐ夕方だ。


「今日はさんざんだったな……」


 長屋がそのように言葉をこぼす。朝はナンパに絡まれ、昼には通り魔、午後は警察の事情聴取と、まさに怒涛の展開であった。


「でも怪我がなくて良かった。もしこれが銃の乱射事件だったら、私たち生きてなかったかもしれないし」

「銃の乱射事件なんて起きているの? この日本で?」

「年に数回はあるよ?」


 21世紀に比べて、ものすごく治安が悪くなっている。長屋はその落差に意識が飛んでいきそうだった。

 すると、保護者同士で話をしていた西原と黒須の母親が戻ってきた。


「陽介君、でしたっけ?」

「あ、はい」

「茜の母の沙織です。その、なんていったらいいのかしら。茜の彼氏さん……、なのよね?」

「え、えぇ」

「まずは、茜と仲良くしてくれてありがとうございます。そして今日デートだというのに厄日でしたね」

「は、はは……」


 長屋が愛想笑いをしている所に、西原が口を挟む。


「まぁ、うちの陽介はぼんやりとしている所がありますから~。とにかく、今日はこの辺で解散しましょう」

「そうですね。茜、帰るわよ。……では失礼します」


 そういって黒須と母親は帰っていった。

 それを見送る長屋と西原。


「いやぁ、それにしてもツイてないねぇ、長屋君。一歩間違えれば銃乱射事件だよ~」

「36世紀ってそんなに物騒としているんですか?」

「まぁ、ここ100年くらいで事件は増えてきたね~」

「銃刀法とかあるんですよね? 改正でもされたんですか?」

「確か30世紀政治革命の時にちゃっかり変わっていたような……」

「うわぁ……」


 長屋は思わず嫌な顔をする。


「そんなわけだから、とりあえずこれを渡しておくね~」


 そういって紙袋を渡される。長屋はそれを受け取り、中を確認する。その中にはクリアファイルの他に、拳銃と予備の弾倉が入っていた。


「え、これ……?」

「長屋君名義の自衛用拳銃。今のご時世なら半数以上の人が持ってるよ」

「えぇ……」


 長屋は思わず困惑した。しかし、受け取ってしまった上に、自分の名義になっているので、返却するわけにもいかない。


「……ありがたく頂戴します……」


 ちょっとカタコトで感謝の意を伝える。


「まぁ保護者だし~? これくらいは普通だよ~」


 その直後、西原は長屋にズイッと近づき、小声で話しかける。


「ところで、あの子が彼女? 高校生活エンジョイしてるじゃん?」

「……っ!」


 何か言い返したいところだったが、何も言い返せない長屋だった。

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