act23 スノークイーン
雪原を抜け、導かれるまま僕等は進んで行く。
道中、雪の女王の手下と思われる雪像の兵隊達が街道脇で監視しているかのように目を配らせていた。
雪像の兵隊が両脇を固める巨大な門を抜け、雪壁で囲われたスネーウ王国の敷地内へと入ると、中央に白く巨大な城が聳え立っているのが見えてきた。
「おおっ、すげえな、氷の城だぜ!」
バステトが唸る。
「ええ、いかにも雪の女王の城って感じよね」
ハルシェシスも頷き、じっと城を見詰める。
「スノークイーン様が首を長くしてお待ちですよ、フフフフフフ」
狼顔のコリュスが嫌らしい笑みを浮かべる。
白い氷の階段を登り正面の大扉に至ると、雪像の衛兵がグググと大扉を押し開けてくれる。
そのままフギンとコリュスの引率に従って後についていくと、氷柱が立ち並び天井が高い広間のような場所に連れていかれた。広間の両奥には槍のような物を手にした衛兵のような者が警戒警備に当たっており、その中央には白っぽい豪華なドレスを身に纏った綺麗な女性が座っていた。そして、横には感情が無いような少年が立っている。
ゲルダが緊張した表情をしてその子を見ているのもあり、若しかしたらあれがカイ君なのかもしれない。
「女王様、彼の者達をお連れしました」
コリュスとフギンは恭しく揃って頭を下げる。
「まあ、連れてきてくれたのね、ご苦労様でした」
可愛らしく少し甲高い声でスノークイーンは答える。スノークイーンの手元にはペットなのかスノーラビットが抱かれ優しく撫でられていた。今までのコシチェイは目が赤く、肌は灰色、髪は黒髪が多かったが、スノークイーンは肌は白く、髪も白、目は青色とコルポックル族に近いイメージだった。悪者感は薄くとても清楚なイメージだ。本当にコシチェイなのだろうかと感じずにはいられない。
「あ、あんたがスノークイーンさんかい? あたし達もあんたに会いたいと思っていたけど、スノークイーンさんの方でもあたし達に話があるとかないとか聞いたけど……」
祖母ちゃんは少し緊張した様子で問い掛ける。スノークイーンを余り刺激しないようにしている気配があった。
「ええ、話はあります。貴方達がわたくしの傘下の国々を滅茶苦茶にしているって話を聞いたのですけど、何の目的でそんな迷惑行為をするのかしら?」
頬を微かに膨らませながら苦言を述べてくる。
「えっ、なんでって、それは、各所で皆さんが迷惑しているようだったから……」
「い~え、違います、皆さんは迷惑なんてしませんわ」
なんか意外と頑固そうだ。
「いやいや、ロートス王国では、住民がジャコウウシに姿を変えられたり、変えられるのを恐れて無理やり従わさせられてたみたいだし、ペルージャ王国はスノードラゴンの土地を無理やり奪っていこうとしていたみたいだし、貴方の横にいる男の子、多分、カイ君なんじゃなかと思うけど、無理やり攫ったみたいな話も出ていますけど……」
改まって祖母ちゃんが説明する。
「誤解があります!」
「誤解?」
「ええ、その認識には誤解があります。ロートス王国のキルケ―には民から愛される領主になりなさいと言って国を預けました。そして現にそうしていると聞いています。ペルージャ王国に関してはスノードラゴンは統治らしき事を何もせずに、その土地の守護神の振りをして、長きにわたり住みに難い環境を放置し続けてきました。なのでスノードラゴンを追い出すべく国を作ったのです。続いてこの少年は迷子だったのです。それを、わたくしが保護をしてカミュという名前を授けたのです。攫ってなどいません」
それを聞いた祖母ちゃんは顎に手を添えて眉根を寄せている。
「いや~、なんか各地で聞いたのとはちょっと違うんだね」
「いえ、それが真実なのです」
「じゃあ、誤解だったって事かい? 誤解なのに混乱させてしまったあたし達が悪い奴等だって事なのかい?」
「ええ、そうです」
それを聞いた祖母ちゃんは困ったという顔で頬を掻く。
「とはいえ、あたし達は此処に至るまでに、ロートス王国で依存性のある身を食べさせられてジャコウウシに変えられそうになったり、ペルージャ王国のシャルフ領主からスノードラゴンの存在が邪魔だから駆逐しようとしているという話を聞いたり、ここにいるゲルダから幼馴染の男の子のカイ君を助け出して欲しいって頼まれているんだよ、あたし達としては実体験として味わっているし、それが真実だと思っている。そして、ゲルダの為にカイ君を取り戻してあげたいと思ってるんだよ」
「でも、わたくしは自分が言ったことが正しいと思っています。そして迷子だったこの子を何処の誰とも解らない貴方達に渡す気はありません」
「でも、あたし達も引かないよ」
祖母ちゃんは強く言い放つ。
雪の女王と祖母ちゃんは、無言でじっと見つめ合う。
「じゃあ、どうする気なのかしら? 無理矢理わたくしからこの子を奪い取るつもりなの?」
雪の女王は少し微笑みながら聞いてくる。
「それも辞さない気だよ」
「成程ね、戦う気なのね、ただ、わたくしは戦いを好まないわ。血が流れたりする野蛮な事は嫌いなのよ、なので、わたくしからの提案なのだけど、魂を掛けたゲームをするというのはどうかしら?」
「ゲームだって?」
「ええ、ゲームよ、貴方は、チェスというゲームを御存じかしら?」
「一応、知識としては知っているけど、あんまりやった事はないわね」
「全く同じではないけど、そのチェスみたいなゲームをしましょう。貴方達が勝ったらこの子は貴方達に渡すわ、但し、このゲームは負けたら勝った方に魂を奪われるという命のやり取りが行われる特殊なゲームなの、当然貴方達の魂もわたくしの魂も奪い奪われるという事になるわ、その上で、それをしてみるっていうのは如何かしら?」
雪の女王は余裕を感じさせる微笑を見せる。
「イメージが出来ないんだけど、それはどんなふうにやるんだい?」
「そうですね、貴方達は5人いるから、それぞれ役割を持たせるのよ。そう、女王、王子、騎士、戦士、兵士にね、その上で一人ずつ順番に前へ出て、相手方が送り出した者と対峙するのよ」
「成程ね」
「それでね、女王は10の力を持っている。王子は8、騎士は7、戦士は5、兵士は4になるの」
「つまり、女王と騎士が対峙したら女王が勝つという事だね」
「そう言うです。でもね、そう単純ではなくて、武器や防具という物も存在するの。それを持たせる事によって騎士が女王に勝つ場合もあるのよ」
祖母ちゃんが手を挙げる。
「質問なんだけど、どうやってその人が女王だとか騎士だとか、どんな武器を持っているかって判断するんだい? 言葉で言うだけなら直前に変える事だって出来るだろ?」
「ええ、だから判断材料として、これを持つのよ」
雪の女王はチェス盤とチェス駒のような物を取り出した。
「これは、ニブルヘイムに伝わる古いチェスみたいなゲームでシャトランジと言います。これの駒を手に持って前へ出るのよ、王子駒、武器駒の組み合わせとかでね」
雪の女王はその白い駒を僕等に見せながら説明をする。
「成程ね、因みに武器駒とか防具駒とかっていうのはどんな物があるんだい?」
「え~と、武器の方は剣と槍と戦斧になります、そして、武器駒には法則があって、剣は戦斧より強く、槍は剣より強く、戦斧は槍より強いのです」
「所謂、三竦みの状態だね」
「ええ、そして、それぞれの五人組に剣駒2個、槍駒2個、戦斧駒2個が渡す予定になります。その内の3個を5人の内3人に持たせる事が出来るの、そして、武器駒を身に付けると力が3増すの、つまり王子が武器を持っていると11の力がある事になる訳ですね」
「女王より強くなる訳だ」
「そういう事です」
「でも、騎士では同格まではいけても勝てるまでにならないね」
「いいえ、そんな事はないわ、双方が武器駒を持っていたら状況は変わってくるのよ、例えば、わたくし側が女王で槍を装備していたとします。そして貴方達は騎士で戦斧を装備してたら、武器駒の相性で、槍は引く2、戦斧は2加算される事になるの。なので、女王は10+3-2になり、騎士は7+3+2になり、結果、女王側は11で騎士側は12になり、騎士側が勝つという結果になるのです」
「成程だね」
武器駒の選択とその駒の強弱による勝敗だけでも対戦になるのに、武器が装備される事で随分ややこしくなるぞ。
「そして、防具駒というのが2種類あります。これは2個だけしかなく、盾と鎧になるのですが、盾は戦斧の攻撃の無効化、鎧は剣の攻撃の無効化をしてくれます。ただこの防御駒には加算はありません。そして武器駒と防御駒を同時に所持は出来ないのです」
「つまり、5人の内で3人は武器を持ち、2人は防具を持つ事になる訳だね、何も持たないって選択もあるのかい?」
「別に持たせなくても構いませんが、持たせた方が俄然有利になるから持たせる方が良い気がしますけど……」
「まあ、そうだね」
「そんな感じの戦いで勝負を決めましょう。汗や血を流さない戦闘でね」
雪の女王は微笑みながら提案してくる。
祖母ちゃんは腕を組んで考え込む。そして僕やハルシェシス、バステト、ゲルダを見る。
「良いかい?」
今までのように普通に戦うでも良い気がする。だけど提案に乗っても良い気もする。
「アタシはどっちでも良いわよ、アンナに任せるわ」
ハルシェシスはふうと息を吐く。
「俺っちも良いぜ、先生に任せるぜ」
「私もです。皆さんに助けてもらわなければカイを助け出す事など到底出来ない事が解りました。アンナさんにお任せます」
そんなゲルダを見ながら僕も大きく頷く。
「よし、受けようじゃないか、その勝負」
祖母ちゃんはスノークイーンを見ながら吠えた。




