act21 シャルフとの戦い
シャルフ領主が改まり顔を上げる。
「だか、スノードラゴンとは相性が悪いが、お前達と相性が悪い訳ではない。お前達は此処で始末させてもらおう」
「そいつは、こ、困ったものだね……」
祖母ちゃんは顔を顰める。
「ねえ、ア、アンナ、何か方法無いの?」
ハルシェシスが小声で問い掛ける。
「う~ん、う~ん、そうだね……」
祖母ちゃんは必死に手立てを考えているようだが、どうも良い方法が見付からないようだ。
「……そうだね、硬くて攻撃が通じないんだろ? だけどスノードラゴンには凍らせられて動けなくなって無力化させられてしまうと……」
しばし思案に耽っていた祖母ちゃんが顔を上げた。
「あっ、そ、そうだ、良いことを思い付いたよ!」
祖母ちゃんがポンと手を叩く。
「アンナ、何を思いついたのよ?」
「ああ、だからスノードラゴンやったのと同じようにすれば良いんだよ、別に無理に倒さなくても、動けなくすれば良いんじゃないかい?」
「同じようにする? だけど、この場で凍らせたってすぐ元に戻っちゃうじゃない! それにアンナは氷の呪文は得意じゃないでしょ!」
確かに祖母ちゃんが氷の呪文を使っているのを見た事はない。
「別に氷の呪文じゃなくても、関節を固めれば良いんでしょ、封印とか硬化の呪文でさ」
ハルシェシスはハッとした顔で理解を示す。
「あっ、ああ、成程ね。で、それって、出来るの?」
「多分行けると思う。だけど援護してね、援護というか抑え込んでくれて、動きを止めてくれないと、魔法を打ち込むむことは出来ないと思うから」
「動きを止めるのね、解ったわよ、じゃあ、頑張るわよバステトちゃん」
ハルシェシスはそう言いながら足元に落ちている良さそうな武器を拾う。
「えっ、俺っちかよ? まあ、言われなくても頑張るけどよ」
バステトも転がっている剣を拾い上げた。
そうして、二人は改まって身構える。
「ほう、何か作戦でも思い付いたか、だが、この僕に通じるかな?」
余裕を感じさせる雰囲気でシャルフ領主がニヤリと笑う。
「偉そうに笑ってねえで、俺達の攻撃を受けてみろってんだよ!」
そう叫んだと同時にハルシェシスとバステトが左右に分かれて攻撃を仕掛けた。
ガンガンと剣と剣が火花を散らし激しい攻防が続く。
そして、二人が敢えてそうしてくれているのか、時折、牽制し合い動きが止まるシーンが何度か生じる。
「よし、いける! ヤイ・セイダマズル・ウェルザンディ・ステイン! ステイン!」
そんな瞬間に祖母ちゃんは指を差し細い光の魔法攻撃をシャルフ領主の膝関節、肘関節、股関節などに打ち込んでいく。杖が無いせいか魔法の威力は随分と弱い感じだ。
だが、しばらく隙を突いて攻防を続けているうちに、シャルフ領主の動きが変わってきた。そう動きが明らかに硬くなってきているのだ。
「むううううううううっ、なっ、なんだ、体の動きが…… 僕の体の動きが悪いぞ……」
思うように動けないのかシャルル領主からは苛立ちの声が聞こえてくる。
「ああ、お前の体は凄く硬い。剣による攻撃も魔法による攻撃も受け付けない程に。だけど、体の全部が硬い訳じやない、傍目には解らないが、体を動かす為に、固くない部分も生じているのだろう」
祖母ちゃんはシャルフの膝辺りを指差す。
「想像するに、それは関節の部分だとみた。関節まで硬いと動きが制限されてしまう。だから関節部分はそこまで硬くないんだ。そして、あたしはそう考えて、その箇所に硬化の魔法を打ち込んでいったのさ」
「な、なにっ、お、おのれええええええっ、そんな真似をしていたとは……」
シャルフはギリギリと歯を鳴らす。
「ハルシェシス、バステト! まだ奴の頸には硬化の魔法は打ち込んでいない、その部分を狙って攻撃して頂戴!」
「ああ、了解だぜ」
バステトはニヤリと笑い、ハルシェシスは静かに頷き剣を構える。
「喰らいなさい!」
「喰らいやがれ!」
バステトとハルシェシスは挟み撃ち状態で剣を振るう。
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
シャルフからは焦りと苛立ちが感じられる唸り声が漏れ聞こえて来る。
バステトとハルシェシスの振るった剣がシャルフの頸を捉えようとした瞬間、シャルフの体全体が元の人間の表皮に変化した。
そして、慌てたようにシャルフは身を屈めバステトとハルシェシスの攻撃を躱す。ハルシェシスとバステトの剣がぶつかり高い金属音を響かせた。
「ちっ、外されたぜ!」
「で、でも、メタモルフォーシスが解けたよ! もうどこでも良いから切り付けて!」
祖母ちゃんが叫ぶ。
「了解だ!」
バステトはすぐさま剣を縦に切り返し、シャルフの肘から先の右腕を切り落とした。
「ぐああああああああああああああああっ!」
一方のハルシェシスもシャルフの左足を切り付け深手を負わす。
「ぬうおおおっ! ぐううううううっ…… お、おのれ……」
しゃがみ込んだまま再び身を守るためにシャルフはメタモルフォーシス状態になった。体を縮め関節をも硬くしているようだ。
「まるで亀のようだね、だけど、もう戦える状態ではなくなってしまったね……」
祖母ちゃんの問い掛けに答えることなくシャルフ領主は苦々し気に僕等を見上げていた。
「ねえ、一つ教えて欲しいんだけどさ、なんでスノークイーンの為に戦うんだい? 何か弱みでも握られているのかい?」
祖母ちゃんはまた問い掛ける。
「……僕達はスノークイーン様の兵隊だ。だからスノークイーン様の為に戦っている。そして領土を増やそうとしている……」
「兵隊だけって理由で戦っているのかい? それが正しい事なのか悪いことなのかを考えずに?」
祖母ちゃんは首を傾げる。
「ああ、命令されたから、それを遂行しようとしているのだ。スノークイーン様は僕達の神様だ。間違った事はしていない」
「でもさ、此処はスノードラゴンの守護地だったんだろ? 侵略行為をしているのはお前達になるじゃないか? 悪はお前達なんじゃないかい?」
「違う、そんな事はない。僕達は間違っていない」
「でもさ……」
「…………」
それ以上問答は続かなかった。只、正直もう問答を続ける事は無意味だと思わざるを得なかった。
「……あたしは敢えてお前を倒す事はしないよ。しないけど、矢張り、今後は奉納品を返して、この国を解体するんだね、元々はスノードラゴンが守護する場所だったようだし、侵略行為みたいなのは止めるべきだ。それを止めればスノードラゴンも襲って来なくなるだろうしね」
祖母ちゃんは動かなくなり固まっているシャルフに向けて言及する。横ではハルシェシスとバステトがそうだと言わんばかりに頷いていた。
「もう、あたし達は行くよ、元凶のスノークイーンと話をしに行く必要がある。スノークイーンが一体何を考えているのを問い質す必要があるからね……」
「…………」
シャルフはそれに関してはもう何も言及してこなかった。そして動く事も出来ないようだった。
そうして、一度阻止されたが、僕達は再び帰路につく。
僕達が離れると、妻のような人物が心配そうにシャルル領主の傍に駆け寄って行った。
結局、僕にはこのペルージャ国の人々の気持ちがよく解らなかった。スノークイーンは自分の支配領域を増やす為に此処に前線基地としての国を作った。スノークイーンの目的はなんとなく解る。だけれどもシャルフ領主達が身の危険を冒してまで、スノードラゴンと戦う理由は理解できない。何故部下や兵隊だというだけで、善悪関係なしに戦うのかが理解できなかったのである。




