act20 メタモルフォーシス
そう呟いたかと思うと、シャルフ領主は体に力を込め始めた。
「ぬううううううううううおおおおおおおおおおっ」
体がうっすらと光始めたかと思うと、体の表面がまるで金属のように変化していく。
「な、なんだこれ?」
「こいつはまさか、メタモルフォーシスなのかい!」
祖母ちゃんは驚いたような声を上げる。
「メタモルフォーシス? 何なの、それは?」
初めて耳にする言葉に、僕は思わず祖母ちゃんに問い掛ける。
「魔法みたいなモノなんだけど、魔法じゃなくて、体を別の物質に変化させる能力を持つ者を言うんだよ、金属に変化したり、石に変化したりとね」
「金属や石……」
「この場合は金属に変化したって感じだよ、そして固いから剣や弓矢による攻撃は受け付けなくなる。つまり防御力が相当高くなっているって事さ、かなり厄介だね」
祖母ちゃんの表情に緊張が見られた。
「倒せるの?」
「解らないね、解らないけどやるしかないだろ、向こうさんはあたし達の事を帰す気はないみたいだしね……」
シャルフ領主は改めて剣を構えた。
「貴様等、死ぬが良い!」
素早く動き、僕等に横一閃に剣を振るってくる。
「す、鋭い!」
一番正面に立っていたハルシェシスは後ろに一歩下がって攻撃を躱すも、剣の鋭さに表情を堅くする。
そして倒れ伏している盗賊の手元から剣を奪い取った。
「だけど、アタシもそんなに弱くはないわよ」
ハルシェシスも剣を構えた。
「喰らいなさい!」
ハルシェシスは剣を上段に振り上げ、そして一気に振り下ろす。
キーンという高い金属音が鳴り響いたかと思うと、ハルシェシスの使った剣の先が折れて弧を描いて飛んでいく。シャルフ領主の体は黒っぽい金属と化していた。
「おいおい、何かしたのかい?」
シャルフ領主は不敵な表情で笑った。
「鈍剣だったかもしれないけど、折れちゃったわ…… 驚きべき事ね……」
「ハルシェシス、お前の剣圧が低かったんじゃねえか、だから、俺っちが技を見せてやるぜ! 行くぜえええええええっ、乱牙!」
今度はバステトが無数の剣撃を喰らわせる乱牙を放った。
激しい金属音がキンキン鳴り響くも、シャルフ領主は平気そうな状態だ。
「ガ、ガチかよ。剣こそ折れちゃいないが、刃がカタガタのボロボロになっちまったぜ」
バステトが使った剣は刃が欠け鋸のようになっている。
「効かないな、全くもって……」
「だったら、これはどうだい!」
祖母ちゃんが掌を向けてそこから発する炎で攻撃を仕掛ける。燃えさかる炎がシャルフ領主を黒く焦がしていく。
「ふふふ、残念ながら、表面が薄く焼けただけだ。何も効かないよ」
シャルフが煤を拭うような動きをすると元の光り輝く金属質な体表に戻る。
「マ、マジかい」
「そうしたら、今度はこちらがいかせてもらうよ!」
シャルフ領主が素早く動いたかと思うと、ハルシェシスの腹に拳がめり込んでいた。
「ぬおおおおおおおおおっ、かはっ!」
ハルシェシスは腹を抱えて蹲る。
「弱いな」
また素早く動いたかと思うと、今度はバステトに手刀で攻撃を仕掛けていった。
「ちっ、速ぇぇ!」
バステトは身の素早さで攻撃を躱すも、それ以上の速さで追い詰めてくる。
「う、うおっ! うおっ! うわああああああああっ!」
躱しきれなくなったバステトは側肩部に手刀を喰らい横に吹き飛ばされた。
「女! 次はお前だ!」
「えっ、か、可愛いあたしに暴力を振るうってのかい?」
祖母ちゃんは緊張した様子で身構える。
何か女子ぶってやがるぞ。
「知らん! 別に可愛いとは思わん」
そう呟きながらシャルフは祖母ちゃんの胸辺りに正面から掌底突きを喰らわせてきた。
「ぐっふっ!」
祖母ちゃんは10メートル近く後方に吹き飛ばされる。
続いてシャルフが僕を見た。
「小僧! お前は攻撃を仕掛けて来なかったから、まだ攻撃をしないでやろう……」
「あ、ありがとうございます」
変な問答だ。
周辺に吹き飛ばされた祖母ちゃん、バステトは何とか膝を付きながら立ち上がり、蹲っていたハルシェシスがゆっくりと身を起こした。
「おいおい、何なんだよ、あいつ、エインヘイヤル並みに強えぇじゃねえか…… そんだけ強えぇなら、態々スノードラゴン退治に俺っち達なんかを頼らなくても良いじゃねえか……」
「確かにその通りだね、だけど相性ってものがあるんだよ、僕はスノードラゴンと相性が悪いんだ。だから負けはしないけど勝てないんだ。悔しいけどね」
「負けないけど勝てない? 一体どういう意味だ?」
バステトは首を傾げる。
「ああ、奴の攻撃で殺される事はないけど、凍り付いて動けなくなってしまうんだよ、そうカチンコチンになってその場で氷像みたいになってしまう。
だからスノードラゴンが去るまでほぼ戦力外になってしまうんだ……」
「なるほど……」
堅い金属人間化しても、そのまま手も足も動かせないなら、倒されないだけで意味がない。相性とは言ったものだ。




