第76話 魔法少女たちとの再会
シャーロットに続いてホテルの中へと足を踏み入れた美空は、そこに広がる光景に感嘆の声を漏らした。
「外観もなかなかでしたが、中もかなりの豪華さですね……」
高い天井から吊るされた巨大なシャンデリア、誰もが知る歴史的芸術家による絵画や彫刻作品の数々、床一面に敷かれた最高級品の絨毯。これはテイストこそ違えどシャムコン王国の王宮に匹敵するレベルの装飾ではなかろうか。
そんな豪奢なロビーに目を奪われていると、奥のフロントからホテルマンが出て来てこちらに歩み寄ってきた。
「おかえりなさいませ、シャーロット様。そちらの方は?」
「私の友達よ。入れていいわよね?」
制服をきっちりと着こなす好青年のホテルマンに対し、首を傾げて問うシャーロット。
ユナイタルステイツ軍貸切のホテルに、こんなどこの誰とも分からない部外者は入れさせない。などと断られるのではと一瞬焦ったが、そんな展開にはならなかった。
「もちろん、歓迎いたします。では、ただいまご友人用のカードキーをお持ちしますので、少々お待ち下さい」
フロントに戻っていくホテルマンの背中を見送り、静かに胸を撫で下ろす美空。
門前払いは避けられたが、自分が国際指名手配犯の漆原美空だとバレれば一巻の終わりだ。このホテルに滞在している間は、より一層慎重に行動する必要がある。
ホテルマンからゲスト用のカードキーを受け取った美空は、シャーロットと共にエレベーターで最上階の四階へ。
しかし降りてみると、正面に観音開きの扉があるだけの小さなエレベーターホールしか無い。
「えっと、皆さんが泊まっているお部屋はどちらですか?」
もしやあの扉の奥に廊下があって、そこに各部屋の扉が並んでいるのだろうか?
そんな予想をしつつ問いかけた美空に、シャーロットは笑みを浮かべて答える。
「どちらも何も、この階にあるのはこの一部屋だけよ」
彼女が指差したのは、エレベーターの向かいにある観音開きの扉。
この階には一部屋しかない。つまり、これがもう部屋の入り口ということ。
「あなたたちは、ワンフロア丸々使っているのですか?」
「ええ。正式な名前はロイヤルスイートルームって言うらしいわ」
まさか魔法能力者の少女たちにここまでの好待遇を用意するとは。ユナイタルステイツ軍の財力おそるべし。
「さあ漆原さん、みんなが待っているわ」
カードキーをかざして扉の施錠を解除したシャーロットに促され、先に室内へと入る美空。
すると、何平米あるのか分からないほど広々とした室内から賑やかな声が聞こえてきた。
「お邪魔しま〜す……」
恐る恐る声を掛けると、談笑していた少女たちが一斉にこちらを向いた。
そして、驚きと喜びが交じったような表情で口々に叫んだ。
「あっ、あの時の!」
「どうしてキミがここに!?」
「おお、意外なお客さんだね〜」
「これは驚いたな」
「散歩していたら偶然会ったから、みんなにも会ってもらおうと思って」
隣に並んだシャーロットがそう説明すると、一人が立ち上がって手を差し伸べてきた。
「私ね、ずっとあなたにお礼を言いたかったんだ。あの時は助けてくれてありがとう。私はオリビア、よろしくね」
「漆原美空です。よろしくお願いします」
美空がオリビアと握手を交わすと、他の少女たちも同時に立ち上がった。
「あたしエイヴァ! ヨロシク!」
「私はルナ。あの時のことは私も感謝してるよ〜」
「ソフィアだ。私からも礼を言わせてくれ、ありがとう」
「私は別に、感謝されるようなことはしていませんが……。皆さんと再び会えたことは、とても嬉しいです」
そう言って笑顔で応じる美空に、少女たちも顔を綻ばせる。
しばらくして、その様子を眺めていたシャーロットが、いつから考えていたのかある誘いを持ちかけた。
「漆原さん。せっかくですし、ランチご一緒しませんか?」
「えっ? 私なんかがいたら邪魔なのではないですか?」
自分は彼女たちを利用しようとしている身。遠慮とかそういう話ではなく、さすがに断るべきだ。
しかしオリビアは純真な微笑みを浮かべたまま言う。
「気にしないでください。私たちも美空さんともっとお話ししたいので」
そんな風に言われてしまっては、こちらも断りづらいではないか。
それならいっそ、彼女たちにとことん付け込んでしまおう。
「では、お言葉に甘えて」
美空が提案を受け入れると、オリビアは「やったぁ」と無邪気に喜んだ。




