第77話 あの日の記憶
時計の針がちょうど十二時を指した時、部屋のインターホンが鳴らされた。
ホテルのシェフがランチを持ってきてくれたらしい。
ソフィアがそれを受け取り、戻ってくる。
「漆原さんの分も用意してもらったぞ。満足いくまで堪能するといい」
「ありがとうございます。しかし、タダで頂いてしまって本当に大丈夫なのですか?」
「ああ。一人分の食事が増えることなど、大した問題ではない。気にするな」
何だか申し訳ないなと思いつつも、牛肉を煮込んだものと付け合せの紫キャベツが乗った皿をもらう。
こうして、美空とユナイタルステイツ軍魔女部隊の少女たちのランチ会が始まった。
「うん、美味しい」
「肉ウマいっ!」
「絶妙な煮込み具合、最高だね〜」
オリビア、エイヴァ、ルナが煮込み肉を口に入れ、幸せそうな表情を浮かべる。
それを見た美空も、とりあえずそれを一口。
「確かによく味が染み込んでいて、絶品ですね」
すると、口の中で程よい肉汁が溢れ、ホロホロと肉がとろけた。
これは調理にも相当な手間がかかっていそうだ。
さすがは名門ホテルの料理といったところか。
「私も、ここのご飯は美味しいから気に入っているのよ」
「漆原さんにも気に入ってもらえたようで良かった」
シャーロットとソフィアの言葉に頷きつつ、再び煮込み肉を口に運ぶ。
みんなでご馳走に舌鼓を打ち続けて、少し経った頃。
ふとオリビアの方を見ると、彼女と目が合った。
「そうだ美空さん。あの時私たちを助けてくれた理由って、訊いてもいいですか?」
ちょっぴり不安そうに首を傾げるオリビアに、美空は微笑んで首を縦に振る。
「ええ、構いませんよ」
「本当に? 無理はしないでいいんですよ?」
「はい。オリビアさんは優しいですね」
おそらく彼女は、あまり掘り返されたくない話題なのではないかと心配していたのだろう。
しかし、美空にとってあの出来事は消したい過去でも忘れたい記憶でもない。
今の自分を形成した大事なターニングポイントだと思っている。
一つ息を吐いて、ゆっくりと口を開く。
「私は皇国護衛隊の航空部隊として、ユナイタルステイツ軍と日々戦っていました。祖国を守るため、あなた達の所属する空軍のパイロットも何百人と殺してきました。……でもあの日、戦場に現れたのはあなた達でした。私と歳も変わらないであろう、うら若き少女たち。もちろん、最初はいつも通りに撃滅しようと考えました。しかし、思ってしまったんです。せめて、あなた達には幸せに生きてほしい。これから待つ明るい未来を、潰したくはないと。それに、私はずっと護衛隊で酷い扱いを受けてきました。だから、撃つべきはあなた達ではなく、目の前を飛ぶ味方である。今にしてみれば狂っているとしか言いようがないのですが、あの時の私は、それが最善の選択だと信じていました。そして、今も。その選択をしたことに後悔はありません。だって、こうして再び皆さんと会えたのですから」
今こうして、目の前に元気な彼女たちがいる。
それがとてつもなく、どうしようもなく嬉しかった。
自分はもう後戻り出来ないところまで来てしまったけれど、彼女たちが幸せに暮らせる世界を作れるなら。
ここまでやってきたことは、間違っていなかった。
強く拳を握りしめる美空。
「美空さん……」
オリビアは美空が何を考えているのか分からず、どんな言葉を掛けるべきかと思案する。しかし結局、ただ静かに美空の顔を見つめることしか出来なかった。




