40話目
《299日目(1月25日)午後3時30分 残LP2》
ダンジョンに入ったのは久しぶりだな、この無機質な扉が懐かしい。
この先にいるのはラスボスのデスバフォメット、恐らく俺の最後の戦いになるだろう。
「準備はいいな、行くぞ」
横綱さんの号令で扉を開けて闘技場の中へ進む、前に戦ったアルテママンティスのコロシアムと同じ建物だな、アレはトラウマ物だった。
ゴゴゴゴゴッ
登場の仕方まで同じか、ラスボスなんだからもうちょっと変化つけてやれよなぁ。そんな俺の思いは他所に地鳴りが響き地面に書かれた魔法陣から見覚えのある白い羊が現れた。
もう2度と会いたくないと思っていたが世界を飛び越えて再会するとは男女であればどれだけロマンチックだっただろうか。
メゲェェェェエエエという雄たけび、全身を黒く染め立ち上がって鎌を構えたデスバフォメットの姿は俺の思い記憶にある姿そのものだった。
ふと前世の記憶が甦る、実質20年ほど前であるが本当にコイツのせいで大変な目にあったのだ。
いいやつだって何人も死んだし、逃亡中は生きた心地がしなかったし、働き盛りの男が減ったので生き残った俺達の仕事量が増えたし、失くした商売道具の買いなおしや騎士団派遣で金を取られるしであの後の生活は本当にキツかった。
あのときの恨み、今晴らさないでいつ晴らすのか。
もちろん完全な逆恨みである、俺たちが狩りに行って返り討ちにあっただけなのだから。しかし、やれるときにやらなきゃ今度いつこのような機会に恵まれるか分からない、もしかしたら二度とないかもしれないチャンスなのだ。
というわけで死んでもらおうかデスバフォメット、お前の首はそこらの木の枝に吊るされるのがお似合いだ。
無論、俺がここまで強気なのは強力なプレイヤーに囲まれているからに他ならない、皆頑張って!
デスバフォメットは今までに会ったどのモンスターよりも強かった、最強に近い防具に身を包んだ俺が防御に徹しているにも関わらず何度か死にそうになったほどだ。
前世の騎士団はこんなのと戦っていたのかと考えたらあの大人数と高額料金も納得だ。
そんな余計な考えをしていたらまた死に掛けた、油断は常時大敵である。
5分ほど経った頃、デスバフォメットの死角を突き奇襲気味に後頭部に鈍器が打ち落とされ、同時に数十枚のガラスが割れたような音が響きデスバフォメットの巨体を倒れた。
奴の力の源である後頭部に光る小さな角が破壊され、力を失うかのように体毛は黒から白に変化した。俺の古の記憶は間違っていなかった、まさか役に立つ日が来るとはなぁ、俺も驚きである。
「今だ、畳み掛けるぞ!」
横綱さんの号令の下、一斉にデスバフォメットに大技を叩き込む。俺も20年来の恨みを晴らすように槍スキルを連打する、そう、思い返せば前世で死んだ原因もコイツが絡んでいるのだ。
なぜなら、俺が前世で死んだ理由は不作による食糧不足で森の毒草を誤って食べてしまったことだが、もし仮にコイツがいなかったらわざわざ森の草なんか食べていないのである。
俺が森の草を食べなければいけなかったのは、コイツの虐殺のせいで働き手が減るわ出費が増えるわでいざというときの貯金がなくなったから仕方なく森の草を採取し食べたのだ。まぁ、そのせいで死んだのは自業自得ではあるのだが、コイツがいなければ普通に貯金で別の町から食糧を購入してその年も平穏に終わったはずなのだ。つまり、俺が死んだのはコイツのせい、決して俺が誤ってブエノン草を拾ってしまったせいではない、絶対にコイツのせい、絶対にだ。
俺の様々な思いの込められた槍がデスバフォメットに突き刺さる。
この一発はこのデスゲームに巻き込まれて辛い思いをしたプレイヤーの分!
これはあの時殺された村の皆の分!
次は残された遺族の分!
無駄な出費が増え、贅沢ができなくなった分!
死ぬ間際のブエノン草の毒のつらさの分!
そして、最後に、誰にも介抱されずに死んだ俺の悲しさの分だぁぁ!
一部コイツに関係ない気もするがそんなことはどうでもいい、今はデスバフォメットを倒すこと、それが一番大事。
倒れてから30秒ほどしたところでデスバフォメットが立ち上がり体毛も白から黒へ変化、鎌も振り回してまだまだ元気そうだ。
何度でも攻撃してやるさ、君が死ぬまで、攻撃を止めない、ゲームのラスボスだしな。
問題は最初よりも攻撃力が増えているところか、君が死ぬ前に俺が死にそう、頑張れ俺!
~30分後~
デスバフォメットの死亡確認。俺は生存確認、どうにか生き残れました。
今この場では何度か聞いたファンファーレが鳴り響いている、いつものと違うのはダンジョンクリアおめでとうの言葉がグランドクリアおめでとうの言葉に変わったことくらいか。
周囲では俺を含め歓喜の輪が広がっているが、特に変化がないのが気にかかる。
このダンジョンをクリアしたなら何かあるはず、と思っていたのだが……とりあえず外に出てみようか。
外に出たところで皆から祝福を受ける、何か変わったことは?と尋ねてみるが”黒き羊の決闘場ダンジョンクリア”のシステムメッセージは届いたがそれ以外は何もないらしい。
おかしいな、確かにグランドクリア条件は満たしているはず……と思っていたところでどこかで聞いた覚えのある声が響く。最初にデスゲームを告げた女性の声だ、周りの何人かが覚えていたようだ。
”DORAIAサーバーの皆さん、黒き羊の決闘場ダンジョンクリアおめでとうございます。DORAIAサーバーグランドクリアとなります。”
よかった、ちゃんとグランドクリアしていたのか。すぐにアナウンスしてくれよなぁ、不安になるだろうが。
”ではまずグランドクリア共有権が発動しますので全サーバーの既にLPが0になったプレイヤーを含む全プレイヤーの生還が約束されます。また、グランドクリアを達成したDORAIAサーバーでは魔法カード【脱出】を各ショップで購入できます。”
ふぅ、これで全員が生還か。やっとやり遂げた感が出てきたぞ。にしても【脱出】はうちのサーバーだけなのか、まあ死なないなら別にいいけどさ。
”なお、現在までに【脱出】を使用したプレイヤーやLPが0になったプレイヤーは【脱出】を使用した時の待機場所となる待機所にサーバー別に全員待機していますのでそちらで会うことが可能です。また、期限である365日終了まで、ゲームからのログアウトはできませんのでご了承ください。”
ほう、先に抜けた蒼の騎士団のメンバーや芸術の剣とかのメンバーにも会えるのか。にしても期限終了まで全員拘束か、先に帰られると現実世界で即暴露だろうから仕方ないか。
以上です、それではよいRFZライフをお楽しみください。”
楽しめと言われてもなぁ。それに俺のLPあと2だよ?あと2日の命なんてセミより短いぞ。
周りのメンバーもやっと実感が沸いてきたのか騒がしいがとりあえずまずは街に戻ろう、俺達がやれることは全てやって結果も出したのだ。まずは街に戻り皆で祝杯をあげよう、もうRFZ内にいれる時間は少ないからな。こうして俺達は首都に転移魔法で凱旋した。
《299日目(1月25日)午後4時20分 残LP2》
首都に無事到着した、長かったなぁ約300日、現実では2時間しか経っていない……らしいが本当だろうか。実際は現実でも300日経っているんじゃないだろうか、不安である。
まぁ、考えても仕方ないか、俺にできることは全てやった、これ以上は無理だ。
さて、まずは乾杯だ!と街の中心部にある一番豪華な酒場に歩き始めたところ、
「お前ブルーノ=フェルセンだな」
と後ろから肩を叩かれ声をかけられたものだから、そうだけど、と言いながら振り返るとそこには3人の憲兵さんが。 あっ……
魔法カード【脱出】使用、GO!
299日目、こうして俺は【脱出】を使用し、このデスゲームから無事脱出した。
良い子の諸君、犯罪はダメだぞ。最後が締まらなくなるからな!
次回最終話です。




