表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハリボテロミオの夏の夢  作者: 矢倉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/31

第五幕:舞台に必要な人


 前日に三匹と相談して、アルと入れ替わるのは公演の直前と決めていた。場所も、誰かに見られている場所ではない方がいいだろうということで、人気のない物置に集合することにしていたので、僕は約束通り物置の扉を開ける。そこにはもう、三匹が集まっていた。


「おせぇぞ、玲央」

「玲央、顔色悪いよ?」

「大丈夫ですか?」

「……」


 僕に話しかける三匹に、僕は言葉を返さなかった。


「すみません……玲央、でも……いきましょうか」


 そう言って、アルが僕の手の甲をとってキスをしようとする。でも、


「ッ……?!玲央ッ?!」


 僕はその手を払いのけると、三匹まとめて物置に置いてあった木箱を被せて、その上に座った。


「玲央、てめぇ!!!出せ!!!!」

「玲央ぉ?!」


 突然の出来事に、三匹は箱の中でガタガタと騒いでいる。でも、ごめん。こうするしかないんだ。


「……ごめん。僕、やっぱりアルに身体を貸せない……」

「そんな……っ?!」

「はぁ?!テメェ、今更何言って……!!!」

「だって!!!だって……アルに身体を貸したら、僕が演技できることになるじゃないか!!!」


 事情を知らないみんなは、きっとそう思うだろう。そうなったら……また演技しろって、舞台に立てって……そう言われるに決まってる。みんなの力を借りたら、きっとできるよ。みんな、無茶苦茶演技上手だったもん。でも……でもさ、そんなの……虚しいじゃんか。本当の僕は、舞台に立てないのに、みんなの力を使って舞台に立つなんて。

 だから、身体は貸せない。僕は……。僕は……ッ!


「僕はこのまま……舞台に立てない奴のままでいるのが、一番いいんだ……」


 木箱に座ったまま、僕は膝を抱える。

 これでいい。これで、いいんだ。今日の大会は棄権になるだろうし、僕はみんなからめちゃくちゃ言われるだろう。でも、それで自分を守ることができるなら、そっちの方がいいに決まってる。

 

「……何言ってやがんだ。テメェ一人のわがままで、舞台を台無しにする気か?」

「……そうだよ」

「ッ……!」


 僕の返事を聞いて、イデはガッと、力任せに木箱を蹴った。


「おい玲央!テメェにとっての舞台は、そんなもんなのかよ!違うだろ!!!」


 倉庫に、イデの怒鳴り声が響く。でも、そんなの関係ない。僕はもう、決めたんだ。この声を、聞いちゃいけない。僕はイデの声を聞かないように、耳を塞いだ。それでも、イデの声が入ってくる。


「まだ数日しか一緒にいねぇけど、お前舞台が好きで好きでたまんねぇんだろ!?一緒にいたら嫌でもわかるわ!好きなのに諦めようとして、なんなんだよ!?好きなら諦めんじゃねぇよ!!!」

「ッ……!諦めるに決まってるだろ!!!」


 僕もつい。声が大きくなる。


「あぁ、そうだよ!イデのいう通り好きだよ!舞台が!!舞台が大好きだよ!わかってるよ!自分でも諦めたくないんだ!でも、でも無理なんだ!観客が怖いんだ!みんなが期待を込めて僕を見つめる、あの眼が怖いんだ!!」


 一気に言い切って、息が切れる。倉庫の中に、僕の息遣いだけが聞こえた。

 そう。怖いんだ。どんなに練習したって、あの期待のこもった眼を向けられると、そのプレッシャーに押しつぶされてしまう。どうしようも、ないんだよ……。

 ぎゅっと、僕は膝を抱える。


「……ねえ、玲央……」


 話を聞いていたレテが、静かに言う。


「今日、舞台の上に必要なのは……誰?」

「え……?」


 突然の問いかけに、言葉が詰まる。今日、この舞台の上に必要な人……。それは……


「そんなの、蘭くんに……」

「違いますよ」


 そう言ったのは、アルだった。


「今日、この舞台に必要なのは、元々ロミオ役だった彼でも、私でも……ましてや玲央、あなたでもありません」


 え?蘭くんでも、アルでも、僕でもない?じゃあ、誰が……?

 ……その時だった。


「まもなく、エントリーナンバー325、琴華高等学校演劇部の舞台を開演します。席にお戻りください。」


 開演を告げるアナウンスが、館内に響きわたる。


「ちょっ!?玲央がいないのに、開演ですか!?」

「どうして!?」

「棄権……しないの?」


 アナウンスを聞いて、僕は思わず立ち上がる。それに気づいたイデが、ニヤッと笑った。


「はっ!丁度いいじゃねぇか!」

「おわっ?!?!」


 軽くなった木箱を放り投げて、イデたちが出てくる。しまった。アナウンスにびっくりして、立ち上がっちゃったから……!


「さ、お呼びだぜ?」

「よ……呼んでないよ!誰も、僕のことなんて……!」

「あぁそうだ。誰も、あの舞台にお前なんか呼んじゃいねぇ」


 ……そうだ。さっきも、三匹は同じことを言っていた。あの舞台に、僕は必要ないって。でも、じゃあ誰が、あそこに必要だっていうんだよ。狼狽える僕をよそに、イデはそっと倉庫の扉を開ける。


「さあ、ロミオ……ジュリエットがお待ちだぜ?」

「ッ……!!!」


 あぁ、……そうか。

 イデに言われて、初めて気づいた。確かに、みんなが言う通り、あそこに今必要なのは、僕じゃない。そうだ。あそこにいるべきなのは、他の誰でもない。……ロミオだ。

 すとんっと、何かが胸に落ちる。そうか。僕じゃなくていいんだ。だってあそこに必要なのは、ロミオなんだから。ロミオが、いればいいんだ。


「そう……だね。行こう」


 ジュリエットが待っている。僕は顔を上げて、急いで舞台へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ