第四幕:代役
「……蘭だが、足にヒビが入っているらしい」
そう言ったのは、監督だった。
突然の事故。あの後、僕たちは会場の事前準備を終えると、学校に引き返してきていた。稽古場には、重い空気が漂っている。無理もない。まさか、大会直前に主役が怪我なんて……。
「明後日の本番だが、蘭を出すことはできない」
「えっ……」
「じゃあ、どうするんですか?!」
稽古場がざわつく。当然だ。……このままでは、棄権するしかない。せっかく、ここまで頑張ってきたっていうのに……。
「それについては、蘭と話し合った。朱里」
「はい!」
突然、朱里さんの名前が呼ばれ、返事をして朱里さんは一歩前に出る。幸い、朱里さんにはかすり傷一つなかったらしい。けれど監督は、蘭くんと何を話し合ったっていうんだろう。
「蘭は、お前が代役に相応しいと思う相手がいるなら、そいつに代役を任せたいと言っている。……誰かいるか?」
「蘭くんの代役……ですか?」
急な監督の提案に、朱里さんは一瞬目を丸くするも、すぐに少し目線を下ろして考え始めた。けれどそれもすぐに元に戻すと、ぐるっとゆっくり部員の顔を見る。そして、僕と視線が重なった。
「どうだ?」
「ロミオ役、ですが……玲央くんにお願いしたいです!」
「え?」
突然のことに、僕は言葉を失う。再度、稽古場がざわついた。当然だ。みんなからすれば、僕はただの照明係。ロミオなんて大役、できるわけがない。それなのに、朱里さんは一体何を言ってるんだ。
「そんな、僕……ッ!」
無理です。そう言おうとした時だった。
「……やります」
口が、勝手に動く。
「やらせてください!」
そう言って、僕の手はメガネのツルに指を添えて、ズレを直す。……それは、アルがメガネを直す時の仕草だった。




