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ハリボテロミオの夏の夢  作者: 矢倉


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18/19

第四幕:準備

「玲央!それこっちにおいて!」

「はい!」

「あー、待って待って、先にこれ持っていくから!」

「はい!」


 大会前日。地方大会を勝ち抜いてきた10校が、朝から会場である劇場に集まっていた。あちこちから大きな声が飛び交って、会場内はバタバタしている。大会自体は全部で2日間の日程で行われて、僕たちの出番は2日目の3番目だ。なので、今日の会場練習も8番目に行うことになっている。それまでの間に、機材の搬入やできる限りの確認を行わなければならない。


「やっぱり、公演前ってバタバタしてるねぇ」

「この空気……いい緊張感ですよね」

「ちょっとみんな!邪魔にならないように静かにしててね」

「わぁってるって。俺様たちは敵城視察だ」


 そう言って、イデは他の二匹を連れてホールへと向かった。多分、会場で他の学校のゲネプロの様子を見に行くんだろう。なんだかんだで、イデはあの三匹の中で一番演劇が好きみたいだし。


「本当、自由だなぁ……っと!」

「おわっ!?」


 ぼーっとしていた僕の後ろから、ドンっと、誰かがぶつかってきた。慌てて、僕は倒れそうになったその人の体を受け止める。


「だ、大丈……ッ」


 夫?そう言い切る前に、僕は言葉に詰まる。

目に飛び込んできたのは、くりっとした丸い琥珀色の目だ。いつも遠目に見ていたそれが、すぐ目の前にある。いや、昨日見た。見たけど、昨日は色々必死すぎて、それどころじゃなかったんだ。うわぁ……改めて見ると、めちゃくちゃまつ毛長い。ってか口も結構小さくない?これであの声量が出るとか、すごすぎるんだけど……。 


「ご、ごめん、玲央くん!大丈夫!?」

「え、あ……うん!ぼ、僕は大丈夫!!!」


 と、しどろもどろになりながら、僕は朱里さんに答える。


「ごめんね。前見えてなくってつまづいちゃって」

「き、気をつけて……朱里さんに何かあったら大変……」

「朱里!大丈夫か?!」


 僕が言い切る前に、遠くからやり取りを見ていた蘭くんが駆け寄ってきて、僕から朱里さんの体を奪っていった。


「うん。大丈夫。玲央くんが受け止めてくれたから」

「ったく……気をつけろよな……」

「あはははは。面目ない」

「もうすぐ俺たちの番になるから、急げよ?」

「うん。わかった。ありがとう玲央くん!もうすぐ私たちの練習時間だから、いそご!」

「う、うん」


 そう言って、朱里さんは行ってしまう。嵐のようなやりとりに、思考が追いつかない。とりあえず、僕は落とした荷物を拾う。どうやら、昨日のことはバレてないみたいだ。


「……よかった」

「何がよかったんだ?」

「ひっ!」


 何驚いてんだよ……。そう言うのは蘭くんだ。

てっきり、朱里さんと一緒に衣装を着に行ったと思っていたのに、まだここにいたらしい。


「あ、え……と、その……ご……ごめん……」

「あ?なんで謝ってんだ?」

「あ、だって……朱里さん、蘭くんの彼女……なのに……」


 そう伝える。だって、変な誤解があってはいけないから。


「彼女?朱里が?俺の?違う違う!」


 蘭くんは目を丸くして、すぐに顔の前で手を左右に振った。


「へ?そうなの?」

「そうだよ。あいつ、ガキの頃からの片思い拗らせてんだから」

「へぇ……」


 そうなんだ。確かに、昨日もずっと好きな人がいるって言ってた。あれ、本当だったんだ。


「んなどーでもいいことより、目の前のことに集中しろ!もうすぐ俺たちの番なんだぞ?」

「そう、だね」


 ふわっと、気持ちが軽くなる。そうか。蘭くん、朱里さんと付き合ってなかったんだ。


「俺も早く着替えねぇと……お前も制御室だろ?」

「う、うん!」

「お互い、頑張ろうな!」


 そう言って、蘭くんが僕の背中を叩く。その痛みでぽわぽわした気持ちが、一気に吹き飛んだ。何考えてるんだ、僕!今は大会に集中!!!気持ちをなんとか切り替えて、僕は制御室へ向かった。


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