第三幕:できる演技
「……はぁ!心臓飛び出るかと思った!」
ようやく、朱里さんの姿が見えなくなって、僕は大きく息を吐く。空気がおいしい。でも……本当に、やばかった。
「うわぁん!ごめん〜!玲央ぉ〜!!!」
「いいよいいよ。レテが悪いわけじゃないから」
滝のように涙を流しながら、僕に抱きついてくるレテ。その頭を、僕はそっと撫でた。誰もあんなことになるなんて予想できなかったんだから、レテは何も悪くない。そんなことよりも、なんとかあの場を切り抜けることができたという安堵感の方が大きかった。
「しかしすごいですね……玲央……」
「よくあの解像度のレテができたな」
僕に泣きつくレテの後ろで、驚いているイデとアル。そんなに驚くことかな?
「え?全然だよ。表面的にしかレテになれてないし……レテのことをよく知ってる人が見たら、大分違和感があったんじゃない?」
まさかレテになりきることになるなんて思ってなかったから、本当に薄っぺらい演技になってしまった。もう少し演じていたらボロが出ていた。あれが限界だ。
「もっとレテやみんなのことを知っておけば、もっといい演技ができたのに……ごめんね」
「えぇん……!いいんだよぉ!玲央は悪くないよぉ!」
えぐえぐと、レテはまだ泣き続けている。なるほど、レテは突然のこういう事態には弱いのか。覚えておこう。
「だけどよぉ……お前、演技できるんじゃねぇか」
そう言ったのはイデだ。
「あんだけ嫌がるもんだから、てっきり大根かと思ってた」
確かに、そう思われていても仕方ない。でも、演じれないわけではないんだ。
「……まぁ、誰も……誰も僕を役者として見てなかったから……ね」
「?」
「さ、もう帰ろう!明日はゲネプロだよ!」
頭と両肩に三匹を乗せて、僕は家路を急ぐ。そう。明日は大会前日。朝から機材の搬入に始まって、順番に本番のステージを使った直前の舞台練習がある。絶対に遅刻は許されない。
「明日のために、家でゆっくり休もう!」
「そうですね」
「そうだな」
「……うん」
そうだねぇ。と、レテが答える。でも、レテはどこか上の空だった。
「もっとみんなのことを知る……かぁ……」
もしかして僕たちも、もっとちゃんと玲央のこと知った方がいいのかも……。
涙を拭きながら、ぼそっと、レテが呟いた声は僕に届くことなく、夜の街の明かりに吸い込まれていった。




