戦略をたてるのは大変ですが、楽しいとおもいました!!戦略家に一歩近づ来ました)訓練編⑤
「くっそ……! やればいいんだろ、やれば!!」
俺は怒りに任せてキーボードを叩き直し、再びシミュレーションを起動した。さっきの失敗は地形の見落とし。なら、今度はそれを前提に組むだけだ。
(非常階段が死角……! あそこを潰さないと話にならない。万全な方にはまず階段の踊り場を制圧させて、スナイパーのおとりにもなってもらう。足をケガしてる方は、スナイパーの射線を確認したあと、銃でそっちの方向に威嚇射撃を一発。相手は一度バレた位置を変えるために動くはず……その間に、2人は脱出!!)
俺はキーボードを叩き、二人に具体的な動きを指示した。
モニターの中、万全な方が階段を駆け上がり、敵の注意を引きつける。同時に、負傷した方が隠れながらスナイパーの潜む屋上方向へ銃口を向け、乾いた銃声を響かせた。
――パァンッ。
「……ッ、狙いは外れた……いや、外したんじゃない。わざと外して『位置を悟らせた』んだ!」
ゼロの呟きが聞こえた気がした。威嚇射撃で、スナイパーは、自分の隠れ場所が特定されたと判断し、反射的に場所を移動しようと立ち上がった。
(今だ!!)
その一瞬の隙を見逃さず、階段を制圧した万全な方が躍り出て、移動中のスナイパーを抑え込む。その隙に負傷した方も階段へ飛び込み、2人はそのまま死角の路地裏へと消えた。
『……ふっ。まさか威嚇射撃で敵を動かして、その隙に脱出ルートを確保するとはな』
モニターには「Mission Complete」の文字が輝いていた。
「見たかオッサン! これが俺のやり方だ!」
俺は荒い息を吐きながら、モニター越しに勝ち誇った。
『上出来だ。お前の言う通り、戦力が見えなくても、相手の心理を読めば盤面はひっくり返せる。……悪くない戦略眼だよ。まぁでも、都合がいい場面だな』
「うるせぇ、前提条件がなかったってことは好き勝手にアレンジしていいってことだろうが!」
『……ふっ。そうだな、その通りだ。予定通りにいかない戦場で、都合のいい状況なんて待ってたって一生訪れねぇ。都合が悪けりゃ、力技でも何でも使って、自分とチーム全体の能力に都合よくねじ曲げる。それが戦略家ってやつだ』
ゼロは、あからさまにニヤついた声を出した。俺の反論が気に入ったらしい。
『……まあ、今回は100点満点中80点ってところだ。あとの20点は、お前が自分の「限界」を決めつけてることだな。自分の策に必死すぎて、まだ思考の広がりが狭い』
「自分の限界って……これ以上どう自由に考えろってんだよ。今の俺にはこれが限界だろ!」
『俺はお前の可能性を知ってる。あの未解決事件を解き明かしたお前の脳力を、まだ全然限界まで活かしきれてねぇんだよ』
(限界か……)
ゼロの言葉に、胸の奥が痛いところを突かれたように熱くなった。
(あの事件……)
誰にも評価されず、ただの趣味だと思われていた俺の分析力。それを「可能性」なんて大層な言葉で認めてくれたのは、後にも先にも画面の向こうにいるこのオッサンだけだろうな……。
「……ハッ、急に語り出しやがって。柄にもねぇこと言ってんじゃねぇよ」
照れ隠しに小さく悪態をつくと、ヘッドホン越しにゼロが楽しそうに鼻を鳴らす気配がした。
『ははっ、なんだお前、照れてるのか? 顔赤いぞ』
「うるせぇな! ほら、早く次行くぞ、次!」
『はは、まあいい。じゃあ次……って、おい、もう7時じゃねぇか。よし、今日はここまでにしとくか』
(なんだよ……今乗りに乗ってきたところなのに……)
心の中でそう文句を言いつつも、俺はヘッドホンを少し外して画面に向かって言った。
「……わかったよ。じゃあまた明日な」
『おう! 明日もその意気で来いよ!』
プツン、と通話が切れると、画面は静かに暗転した。
ヘッドホンをデスクに置くと、部屋の中に急に静寂が戻ってくる。
「……自分の限界、か」
俺は背もたれに深く体重を預け、天井を仰いだ。
戦場における自由。
(オッサンの言う『限界』って、なんなんだろうな……?)
暗くなったモニターに映る自分の顔を見つめながら、俺はまだ少し火照っている頭を静かに冷ましていった。
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