暗い階段を下らされた先は最悪でした。
「あ? なんでだよ?」
「いいから、あるか、ないかで答えろ」
「まあ、ないって言ったら嘘になるけどよ……」
「よし、じゃあ乗れ」
男はワゴン車を指さして言った。
「えーーー……」
俺は猛烈に嫌な予感がした。
車の前まで来ると、男が黒い布のようなものを差し出してくる。
「これつけろ」
「なんだこれ?」
「目隠しだ」
「なんでだよ?」
「これから行く場所はこの国のお偉いさんや、防衛するやつらも知らない秘密の場所だ。入ったばかりのお前に教えるわけにもいかないだろ?」
「……まあ、そうか……」
俺は渋々目隠しをして、車に乗り込んだ。
「じゃあ、出発するぞー」
それから1時間ほど走っただろうか。途中でガタガタの悪路に入り、車体がめちゃくちゃ揺れて首が痛くなった。
(はぁーー最悪だよ)
「目隠し取れー、着いたぞー」
「え?」
「あ、その前に。俺の名前は零だ。よろしくな」
「なんで今言うんだよ! 絶対今じゃねぇだろ。しかも本名じゃないし」
「バカ言うな、本名なんか明かすわけないだろ。それに、今言うのには理由があるんだよ。今日からお前のコードネームは零零だ。俺の『零』から取ったんだから大事にしろよ」
「なんで勝手にアンタの名前から取ってんだよ!」
「それはここに来た理由にも繋がる。まあ、目隠しを取って降りろ」
「あ?……わかったよ」
ドアを開けると、辺り一面は深い木々に囲まれていた。そしてその中央に、ひとつだけ異質な車庫のような建物がポツンと佇んでいた。
「なんだよここ……」
「見た目通り、ただの車庫だ」
(え? こいつなに言ってんだ?)
「まあ、入れ」
ゼロが指紋認証をかざすと、車庫の扉が開いた。だが、中にあったのは車ではなく、地下へと続く階段だった。
「階段……?」
「ああ、目的地はこの下だ。行くぞー」
降り始めてから、おそらく15分ほど経っただろうか。いつ踏み外すかもわからない真っ暗な階段を、俺は壁を伝いながら少しずつ降りていた。ドッと疲労が押し寄せてくる俺を余所に、ゼロはスタスタと余裕で降りていく。
「なぁ、疲れたんだけど……まだか?」
「まあ待て、見えてきたぞ」
暗闇の中でゼロは指をさして言っているのだろうが——
「いや、何も見えねぇよ!」
「まあ、そうだよな」
突然、ゼロが足を止めた。
「ここだ」
「ここだ、と言われても、やっぱり何も見えねぇわ!」
「まあまあ」
すると急に重厚なドアが開き、電気がついて部屋の中が露わになった。
「入れー、入れー」
俺は一目見ただけで、その場所の正体を悟った。
「なぁ、もしかしてなんだが……まさかな……」
「多分、レイレイが思っている通りの場所だぞ」
部屋に漂っていたのは、ひんやりとした湿気と、焦げた硝煙、そして金属油が混ざり合った独特の匂いだった。奥には人型ターゲットが複数並べられており、どれも中心に穴が開いている。電球がポツンとぶら下がる地下空間は、まるで外の世界から完全に切り離された異界だった。
「そうだよな……ここ、射撃場だよな!?」
「正解ーーー! さすがだね」
「なにが『正解ーーー』だ! この国じゃ特別な資格がないとこんな場所違法だって知ってんだろ!」
「まあな。だが俺たちは世界政府だ。何やってもバレなきゃ文句は言われないさ」
「もし、バレたら?」
「多分、その時もなーーんにも言われなーーい」
「……ああ、その世界政府とやらの立場がどれだけヤバいのか、よく分かってきたよ」
俺はとんでもない組織に入ってしまったのだと、今さらながら自覚した。
「で、俺をここに連れてきた意味は?」
「それは車に入る前にした説明と関連している」
「説明……?」
「忘れてんじゃねぇよ! 名前だよ、名前!」
「あー……あの、アンタから名前を取った気色悪いやつのことか」
「えっ……気色悪いの、アレ!?」
「まぁ……、かなりな」
俺は呆れながら引いた目で言った。
「まあ……まあいい、本題に戻るぞ。俺から名前を取った理由はひとつ。今日からレイレイ、お前は俺の弟子だ!」
5秒ほどの静寂が部屋を支配した。俺は静かに息を吐き出すと、こう返した。
「え……それは……ちょっと……嫌です」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
ゼロと、レイレイの師弟関係はうまく行くのか?
ぜひ感想もらえたら嬉しいです!!




