テストの結果を聞いて決断します。
翌日。
昼過ぎまで寝て、いつものように母親がドアの前に置いていった冷めた昼飯を腹に流し込む。
パソコンを起動し、いつもの未解決事件掲示板を開いた。
画面に並ぶ事件のスレッド。昨日までなら何の疑問も抱かずに考察を書き込んでいただろう。
だが、あの男の言葉が頭から離れない。
『君がこれまで解いてきた未解決事件のほとんどが、君の推理通りの結末だったんだよ』
「……嘘に決まってんだろ」
つぶやきながらキーボードに手を伸ばした、その時だった。
画面の隅にメールの着信通知が浮かび上がる。
『昨日はありがとう。結果を伝えたいんだが、昨日の場所で夜の1時に待ってる』
「はぁー、なんで結果伝えるだけで俺が行かなきゃならねぇんだよ……めんどくさ……」
その時、部屋の外から足音が聞こえた。
「れんー、起きてるのか?」
父親の声だった。
そういえば今日は土曜日か。母親とすら顔を合わせていないのに、気まずすぎる。
俺は相変わらず無視を決め込んだ。
(……俺には、なにもないんだよ!!)
自分の部屋で小さく呟いた。
――1時。
俺は昨日の場所へやってきた。
そこには見覚えのあるワゴン車が停まっている。
車から降りてきた昨日の男が、こちらへ歩み寄ってきた。
「結果を伝える。心の準備はいいか?」
「準備もなにねぇよ。どうせほとんど解けなかったんだから、受かってるわけないだろ」
「まぁまて。じゃあ伝える。問1から問9は0点……そして、最後の問10……これも0点だ」
「なぁ、言ったろ? 戦略なんて立てられないって。じゃあ俺、帰るわ」
「おいおい、話は最後まで聞けって。テストの結果は0点……ということで、君を合格とする!」
「は? ……なんで合格なんだよ! 全問0点だったんだろ!?」
「ああ、間違いなく問1から問9は0点だ」
「だったら……」
「問10で君が書いた答え、覚えているか?」
「あ? なんだよ急に、えっと確か……『メンバーの特技を取り入れて、全員がストレスを感じない戦略を新しく考える』……だったような」
「そうだ。お前はこの問題で、神の視点からではなく『戦略を受ける身』になって考えた。それは、お前が解いた未解決事件の考察にも見られた『没入型心理分析』だ」
「なんだよその……ぼつにゅうなんとかって?」
「没入型心理分析だ。他者の立場に立ち、その人の知識・感情・意図をシミュレーションする思考法さ。簡単に言えば、『かわいそうに』と同情するのではなく、『相手の視点から世界がどう見えているか』を論理的・構造的に追体験する認知の動きだな」
「『簡単に言う』って前置きしたのに、全然簡単じゃない説明を聞いたのは初めてだよ」
「悪い悪い」
「でも、そこまで言うならなんで俺は0点なんだよ?」
「それは、君の書いた回答が模範解答のどれにも当てはまらなかったからだ」
「あー……なるほどな。どうせ上の規定かなんかで、『模範回答以外は全部不正解にしろ』とか言われてんだろ!」
「まあそういうことだ。さすがだな……この問題と解答を作ったのはお堅い戦略家のエライ人でね。『模範以外の答えを書いたものは全員0点にしろ』と命令されているんだよ」
「そうかよなら……」
「だがな、俺はアンダー18の最高部隊に、こういう発想ができるやつを戦略家として招きたかった。探し続けて……やっと見つけたのがお前なんだ。これが最後のチャンスだ。これを逃したら俺たちも諦める。……俺たちの戦略家になってくれないか?」
俺は少し考え込んだ。
引きこもりの俺が、世界政府なんて大層な組織でやっていけるはずがない。
……だけど、俺にはずっと消えない不安があった。将来のことだ。
このまま断ったら、俺はきっと一生ニートのままだ。家族に顔向けできない生活がずっと続く。
返事なんて、最初から決まっていたのかもしれないな。
「……あーもう、わかったよ。ついて行ってやるよ。ただし条件が2つある。1つ目、俺にあまり期待するな。2つ目、ちゃんと金は払え」
「勿論、2つ目の報酬に関しては約束しよう。……だが1つ目は無理があるな」
「うるせぇ! 俺はな、人から勝手に期待されて、勝手に期待外れ扱いされるのが大嫌いなんだよ!」
「……ふっ、わかった。約束しよう。これで今日からお前も世界政府の一員だ。よろしくな」
男が右手を差し出してきた。
俺はその手をぎゅっと握り返す。
「よろしく」
「と……いうことで。これから時間はあるか?」
「あ?」
お読みいただききましてありがとうございます。
4話は、最後の男の、時間はあるか?がどんな意味なのか、ぜひ楽しみにお待ちください!!




