深夜のサバゲー大会、試合終了です。訓練編⑬
バン!バン!バン!
「——っ!?」
闇の向こうから突如として放たれた鋭い弾幕。
衝撃とともに、俺の胸元にズシッと重い感触が走った。
(え……嘘だろ……!? 俺……撃たれた……!?)
思考が一瞬フリーズする。
だが、俺が崩れ落ちそうになった瞬間、後ろにいた3と4のプロ2人が迷うことなくハンドガンを構え、闇に向けて即座に撃ち返した。
バン、バンッ! バンッ!
闇を切り裂く銃撃音。しかし、その銃撃をあざ笑うかのように、低く静かな声が暗闇の奥から響いた。
「——Too naive. You're in my territory now.(甘いな。ここは俺のテリトリーだ)」
聞き馴染みのある、冷徹で圧倒的な威圧感を纏った声。
脳裏に一瞬でその男の顔がよぎる。
(ま、まさか……!?)
直後、暗闇の中でわずかに火花が散った。
バン、バンッ!
一切の無駄がない、極限まで研ぎ澄まされた二連射。
「ヒット……!」
「ヒット……!」
俺の背後で、プロであるはずの3と4の2人が、同時に苦々しい声を上げた。
(なっ……プロのふたりが、一瞬で……!?)
木造エリアを完全にクリアしたはずだった。
どこから狙われた……!? まさか、俺たちが入ってきた『入り口』から挟み撃ちにされたのか……!?
だとしたら——1と2のオッサンたちが守っていたコンテナ街も、すでに破られたということだ。
(……くそっ、最初から俺たちの裏をかいて挟み撃ちにしてきてたのか……!)
それを理解した瞬間、俺は潔く両手を上げた。
「……ヒット!!」
俺の声が暗闇に響いたのと、ほぼ同時だった。
『——そこまで! 訓練終了! 訓練終了!!』
『……スコア発表。試合時間13分12秒。
チーム・レイレイ:ユト1キル、グゼン1キル、サンリー1キル、計3キル。チーム壊滅。
チーム・ゼロ:アグン1キル、ゼロ4キル、計5キル。勝者、チーム・ゼロ!!』
スピーカーから審判AIの無機質なアナウンスが響き渡り、フィールド全体の投光器が一斉に点灯した。
暗闇が一瞬で吹き飛び、眩しい光の中に浮かび上がったのは——悠々と銃を収め、不敵な笑みを浮かべるゼロの姿だった。
あまりの規格外さに、俺は開いた口が塞がらないまま言葉をこぼした。
「あんた……なんでここにいるんだよ……」
悔しさと驚きが混ざった俺の言葉に、ゼロは肩をすくめながら不敵に笑った。
その背中には、さっき俺たちを仕留めたCO2ハンドガンとは別の、重厚で巨大なスナイパーライフルが背負われている。
「種明かしをしてやろう、ヴァイオリン。お前が立てた配置の予想——『コンテナに2人、木造エリアに2人、車庫側に1人』。これは寸分違わず大正解だった」
「え……じゃあ、なんで……」
ゼロは指を一本ずつ立てながら、冷静に俺の目を見つめた。
「敗因は3つある。まず1つ目は、致しかたないことだが、この戦闘エリアの地形を完全には把握できていなかったこと。2つ目は、味方の特技を活かしきれていなかったこと。そして3つ目は——お前が俺という男を知らなかったことだ」
「っ……!」
ズシリと響く言葉に、俺は息を呑んだ。
「ゲーム開始と同時に、車庫側にいた俺は『車庫には敵が一人もいない』と一瞬の気配で勘づいた。そこから散乱するガラス片を踏まないよう足元に神経を集中させ、音を完全に殺したまま全速力で車庫を駆け抜けてな。……その途中に、ちょうどコンテナ街が一望できる射線上の隙間があったんだ」
ゼロは背中のスナイパーライフルにちらりと目をやり、不敵に口角を上げた。
「そこに滑り込んでスナイパーを構え、お前らの味方を一人即座に撃ち抜いた。もう一人いたことには気づいてたが、2対1なら味方の奴らが勝てると見込んで、そこから速攻でハンドガンに持ち替え、全速力で走りお前らが入っていった木造エリアの『入り口』から追撃をかけた……ただそれだけだ」
(……そんな場所があったのかよ……! 地形を知り尽くしてなきゃ、絶対に思いつかねぇルートだ……!)
ゼロの隠密速度と圧倒的な判断力、そして地形の熟知。
レイレイの「車庫側の敵は足音を警戒して慎重に動くはず」という読みを、ゼロは圧倒的なスキルと知識で完全に上回ってきたのだ。
呆然とする俺だったが、ゼロの言葉が引っかかって思わず尋ねた。
「……でも、それってめちゃくちゃ危険すぎんだろ! もし俺の作戦が違ってて、車庫側に誰か潜んでたらどうするつもりだったんだよ……!?」
リスクが高すぎる暴挙にツッコミを入れる俺に、ゼロは背中の巨大なスナイパーライフルをポンポンと叩き、ニヤリと笑った。
「対面での撃ち合いなら、そこは俺の『エリア』だ。誰がいようが撃ち勝てるから問題ない」
「〜〜〜〜っ! 自信満々かよ!!」
思わず口から飛び出たツッコミ。だが——俺の背中には、嫌な汗がじわじわと滲み出ていた。
一瞬の判断力。気配を完璧に消す隠密性。そして、一回のミスも許さない冷徹なまでの冷静さ。
(……ハンパねぇ。これが……これが世界政府の特殊部隊の力かよ……!)
俺は今更ながら、全身の肌で痛烈に確信していた。
目の前にいるこの男は、ニタリと笑いながら話すただの気さくなオッサンじゃない。
世界を裏から牛耳り、数多の戦場を潜り抜けてきた怪物——正銘真銘の『本物』だ。
サバゲーの真似事のような訓練ですら、この圧倒的な絶望感。
世界政府という巨大な組織がどれほど規格外の戦力を抱えているのか、その片鱗を突きつけられた気がして、俺はゴクリと唾を呑み込んだ。
そんな俺の引きつった表情を見て取ったのか、ゼロはフッと不敵な笑みを深め、背中のスナイパーライフルを軽く担ぎ直した。
「おいおい、そんな顔をするなヴァイオリン。俺を褒めるのは結構だが……お前にはまだ、2つ目の敗因を教えていなかったな?」
「……っ、味方の『特技』を活かしてなかった……ってやつか?」
「そうだ」
ゼロの鋭い視線が、俺の背後にいる味方のプロたち——ユト、グゼン、サンリーに向けられる。
「お前は彼らをただの『コマ』として優秀な配置につけた。だが、彼らが何においてプロフェッショナルなのか、その個性の『尖り』を理解していなかった……だから崩されたんだ」
「……っ!」
ゼロの指摘に、俺は思わず唇を噛み締めた。
正直、胸の奥で反論したい気持ちが湧き上がっていたのも事実だ。
(……俺だって、それは頭をよぎったさ。だけど……あのわずか数分の作戦タイムで、そこまでの情報まで盛り込んで組み立てろなんて無理がある。そんなことしてたら作戦自体が——)
言い訳が頭を駆け巡り、俺が言葉を口にしようとした、その瞬間。
「——言い訳なんていらねぇよ」
ゼロの声が一気に体温を下げた。
氷のように冷たく、刃物のように鋭い眼光が俺を貫く。




