深夜のサバゲー大会、外国の人は、優しいです。訓練編⑩
「……はぁ? さ、サバゲー……?」
俺は耳を疑った。
あまりにも予想外すぎる言葉に、頭の回転が完全にストップする。
「そう! 深夜限定、裏のサバゲー大会だ!」
ゼロは満足そうに胸を張り、車から降りると後部座席から大きなスポーツバッグを引っ張り出した。
「おい待てオッサン。俺たちは訓練をしてるんじゃなかったのかよ。なんで夜中に怪しい大人たちと撃ち合いをしなきゃいけないんだ」
「ハハッ、バカ言え。ただのサバゲーだと思うか?」
ゼロはバッグのチャックを勢いよく開けると、中から黒光りするエアガンを取り出しながらニヤリと笑った。
「3日前、俺が休んでバーディクトにお前を任せてた本当の理由はな……このサバゲー大会に、腕の立つ最高にイカれたメンバーを集めるためだったんだよ。いやー、大変だったんだぞ? 元軍人とか元警察のヤツらを引っ張り出してくるの」
「……ちょっと待て! 俺、今からそんなヤツらと戦わなきゃいけないのかよ!?」
俺は思わず大声を上げた。元軍人に元警察って、プロ中のプロじゃねぇか!
「あはは! 安心しろって、全員手加減なしの本気モードだから!」
「安心できる要素がどこにもねぇよ!!」
「暗闇での視界確保、敵の配置把握、隠密行動、そして無言での連携……これ全部、さっき移動中に叩き込んだ『ハンドサイン』の実践テストだ。俺が厳選したこの猛者たちを相手に、どこまで通用するか試してもらう」
「……あ」
ここでようやく、点と点が繋がった。
3日前にゼロが休んでいた理由も、車内での無茶苦茶な暗記も、すべてこの『実践訓練』のためだったというわけだ。
「納得したか? ちなみにルールは簡単。5対5に分かれて戦ってもらう」
「……ん? 数字間違えてねぇか? ここにいるのはあんたを入れて9人だぞ」
向こうで談笑しているプロっぽい奴らは全部で8人。ゼロと合わせても9人しかいない。5対5ならあと一人足りないはずだ。
「なに言ってんだ、あと一人(10人目)はお前に決まってるだろ」
「いやいや、ちょっと待て! 俺は上から指示する戦略家だろ! なんで最前線で戦わなきゃいけないんだよ!」
暗に前線へ送られそうになり、俺は全力で拒否の姿勢を見せた。だが、ゼロはめんどくさそうに頭を掻きながら思い出したように指を立てた。
「あぁ、言い忘れてたな。戦略家には2つの役職がある。全体の戦略を考えて現場に指示を出す『マエストロ』。そして現場での状況を把握し、マエストロの意見を受けて現場に適合するように指揮を執る『ヴァイオリン』だ」
「なんだそのマエなんとかって?」
「マエストロだ。まあ言うなら、マエストロが『指揮官で』で、ヴァイオリンが『副指揮官』って感じだな」
ゼロはニヤリと不敵に笑うと、バッグから黒光りする重厚なハンドガンを一丁取り出し、俺の胸元にドンと押し当ててきた。
「で、今日のお前の役目は――現場で戦う『ヴァイオリン』だ」
「……おい、オッサン。一応確認だけどよ」
俺は胸に押し付けられた冷たい金属の感触に顔をひきつらせながら、銃をチラリと見下ろした。
「これ……本物じゃないよな?」
「当たり前だろ、エアガンだよ。と言ってもCO2ガスガンでな、食らったらマジで涙出るくらい痛ぇけど」
「全く安心できねぇ仕様だな!!」
俺が思わず叫ぶと、後ろから「ハハハ!」と気さくな笑い声が聞こえてきた。
「おいおいゼロ、そんな脅かすなよ〜。大丈夫かい小僧? 車酔いでもしたか?」
振り返ると、そこに立っていたのは丸太のような腕をした大柄な外国人男性だった。ガチガチのフル装備でいかにも元軍人といった雰囲気だが、その大きな顔には満面の笑みが浮かんでいる。
(……っていうか、よく見たら周りにいる奴ら、ゼロともう1人意外ほとんど外国人じゃねぇか!?)
金髪の男に、刺青の入った大柄な男、鋭い目つきの東南アジア系の男……まるで海外の映画から飛び出してきたような猛者ばかりだ。
「足引っぱるんじゃねぇぞ、なんて冷たいことは言わないから安心してね! 安全第一! 怪我だけはしないように楽しもう!」
「そうそう。チーム分けはもう済んでてね、君と僕たち4人が味方チームなんだ。僕ら元警察や元自衛隊のオッサンたちに、バシバシ指示出してくれよ〜」
隣にいた優しそうな男性もニコニコしながら、温かいお茶のペットボトルを俺に差し出してくれた。
(……え、なにこの人たち。元軍人に元警察って聞いて身構えてたのに、めちゃくちゃ良い人たちじゃん……っていうか、このプロたちに俺が指示出すのかよ!?)
威圧感ゼロの温かい雰囲気に拍子抜けしつつも、とんでもない責任感に冷や汗が噴き出してくる。すると、隣でゼロが肩を竦めてニヤッと笑った。
「そうそう、俺はもちろん敵チームの副司令官だからな! そのつもりでかかってこいよ〜?」
「……ハッ、いいねーオッサン。そっちの方が燃える」
レイレイの目には、興奮があった。
敵として立ちはだかるゼロの顔を見た瞬間、車内でのスパルタ暗記や、これまでの理不尽な訓練の記憶が一気に脳裏を駆け巡る。
(……ちょうどいい。今日の車内での恨みも、今までの理不尽な恨みも、全部このサバゲーで返してやる!)
俺は渡されたハンドガンをしっかりと握り直し、ゼロに向かって不敵に笑い返した。
「さぁて弟子、さっき覚えた120個のハンドサイン、一歩も間違えずに使いこなせるか?」
「……フン、間違えるどころか、あんたを蜂の巣にしてやるよ!」
頼もしく優しい味方のプロたちを背に、俺の『実践訓練』が、始まる!!
最後までありがとうございます!!




