銃と目的④ 1発って度胸ありすぎだろ
遅くなってすみません最新話ですよろしくお願いします
「……はっはっはっは! すげぇな、お前! 正解正解、はなまる! 200点満点、完璧だよ!」
命がけの状況だというのに、突然爆笑し始めた目の前の男に、俺は心底びっくりしてドン引きしていた。
「やっぱすごいな、さすがゼロが見込んだだけのことはある!」
「いや……」
「あーごめんごめん! 名乗るのを忘れてたよ。俺の名前は、世界政府のバーディクトだ」
そう言うと、男はゼロの顔のリアルなマスクをペロンと剥ぎ取った。
現れた素顔は……高い鼻筋に彫りの深い顔立ちをした外国人だった。
(……こいつ、無駄にイケメンすぎるだろ)
いや、でも待て。こいつ、ゼロの時と同じだ。「名前」を聞いたはずなのに、答えたのはおそらくコードネーム。……こういう無駄に気取り気味なところ、どこかゼロに似てやがる。
(もしかして……世界政府って、こういうヤバい奴らの集まりなのか……?)
関わっちゃいけない人種の匂いをひしひしを感じていると、男は困ったように眉を下げた。
「なぁ、ごめんだけどそろそろ銃を下ろしてくれない? それ、本物の弾が入ってるでしょ」
ヘラヘラとした態度で両手を挙げる男に、俺は銃口を向けたまま冷たく言い放つ。
「分かった。じゃあ、最後に一つ確かめさせろ。……質問だ。ゼロの一番厄介なところはどこだ?」
この質問は、あいつを日常的に知っている奴じゃないと絶対に分からない。どうせ答えられずに詰まるはずだ。俺は指に力を込め、答えられなかった瞬間に引き金を引く構えをとる。
「え? んー……大事なことを言わずに後から言ってくるのに、絶対に反省しないところ。大事な会議に普通に遅刻してくるところ。全体的に自由すぎるところ。あと、ば……」
「……もういい、分かった。あんたはちゃんとあいつを知ってるんだな」
あまりにも具体的で生々しい答えの数々に頭が痛くなり、俺は深く溜息をつきながら、そっと銃を下ろした。
「で、本物のオッサン……ゼロはどこにいるんだ?」
俺が銃をポケットにしまいつつ尋ねると、バーディクトは「あー」とわざとらしく首をかしげた。
「安心しなよ。あいつは今、夜の街に消えてるよ」
「夜の街?」
「まぁ中学生には分かんねぇよな。あいつは今、遊びに行ってるんだ」
「……ちょっと待て。俺が訓練でボコボコになってる時に、あいつは遊んでんのかよ!?」
「まぁ、そうなんだが……」
「許さねぇ……絶対殺す……!」
ふつふつと湧き上がる殺意を口にする俺に、バーディクトは慌てて手を振った。
「まぁまぁ落ち着けって! 俺がお前と試してみたかったから、交代してもらったんだよ」
「なんで俺と……?」
「いや、本部でゼロに会った時に自慢されたんだよ。『これから伝説になる最高の戦略家が、俺の弟子にいる』ってな」
「それは……まぁ、別にいいけどさ……」
あまり期待のハードルを上げないでほしい。俺はあいつにも言ったはずだ、期待されるのは苦手なんだと。
と、その時。バーディクトが車の時計を見て顔を青くした。
「あ、ヤバい! もう4時だ! はやくお前を家に帰さねぇと、あいつに怒られる!」
男は勢いよくエンジンをかけ、アクセルを深く踏み込んだ。
「ごめん、ちょっと飛ばすぞ!」
「え!? うわあああぁぁぁっ!?」
猛スピードで夜の山道を駆け抜ける車の中で、俺の悲鳴が虚しく響き渡った。
右へ左へ、時には上下に激しく揺られ、まるでジェットコースターに乗っているかのような恐怖に襲われる。目的地に着く頃には、俺はすっかり酷い車酔いで喋ることすらままならなくなっていた。
なんとか生きた心地のしないドライブに耐え抜き、車が家の前に停車する。
「着いたぞ」
「うぐ……ぅ……ありがと……」
「あー、ごめんごめん! 流石にスピードを出しすぎたかな」
俺はフラフラになりながらドアを開け、片足を踏み出した。
「あり……がと……ござ……」
「おう、じゃあ気をつけて帰れよ」
その時、俺はポケットの中に残るズシリとした違和感を思い出した。ポケットからそっとそれを取り出し、助手席越しに差し出す。
「あ……すみ……ません、これ……返しておいてくれますか」
俺が手渡したのは、射撃場から密かに持ち出していたあの模擬銃だった。
「お、なんだ。ちゃんと返してくれるのか。分かった、届けておくよ」
車を後にした俺は、ようやく解放された安堵感とともに家の中へと足を進めた。そのまま倒れ込むように部屋のベッドへ潜り込み、深い眠りについたのだった。
プルルル、プルルル……。
走り去る車のモニターに、着信を知らせる電子音が響く。
「はーい、こちらバーディクト」
『お、気分が良さそうだな。俺の弟子はどうだった?』
通話口から聞こえてきたのは、本物のゼロの声だった。
「いやぁ最高だよ、ゼロ。あいつはすごいね。今まだ中学生でしょ? 将来間違いなく化け物になるよ」
『だろ? 中学生であれはヤバいだろ!』
「うん、最初は中学生って聞いて半信半疑だったけどさ。あの観察力と違和感に気づくセンス……本当に今まで訓練を受けてこなかったのか疑うレベルだよ。僕の行動を読んで額に銃を突きつけてきた時は、流石に本気で驚いたからね」
『あいつ、お前にそこまでやったのかよ!』
「僕も完全に予想外!」
『……で? お前はどこまで本気を出したんだ?』
「いや、ガチで7割は出したよ。本気でバレないように化けたつもりだったんだけど……それすらあっさり見破られた。あーあ、早く僕の弟子とも会わせてみたいなぁ」
『ってことは……』
「もちろん、合格だよ」
『良かったよ。お前がこっち側についたら、話が進めやすくなる』
「あんな『最終兵器』を見せられてさ、ゼロ側につかないわけないじゃない」
バーディクトは不敵に微笑むと、夜の街を見つめながら静かに口を開いた。
「――じゃあ、そろそろ動こうか。『第0部隊』の設立に向けて」
『……あ、それとさ』
ゼロが思い出しかのように言った。
『お前が頭に当てられたその銃、弾数を見てみろよ』
「ん? 弾数?」
「あ、そうだよ君が銃って、 レイレイの前で言ってなかったからバレたんだよ」
『それは完全にお前のリサーチ不足だな』
バーディクトは首をかしげながら銃のカチリとマガジンを抜き、中身を覗き込んだ。
「……Oh my god."」
入っていた弾丸は、たったの一発だった。
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