最悪です。明日から、普通の訓練が始まるらしいです。銃と目的①
今日3本目です。
【訓練開始15日目(リモート7日目)】
『Complete――シミュレーション終了。』
無機質なアナウンスとともに、暗転していた仮想戦闘ルームのホログラムが消え去った。
「ふぅ……」
額に滲んだ汗を指先で拭い、レイレイはヘッドセットを外す。画面に表示されているのは、ゼロが残していった最新の戦闘アルゴリズム。そして、それを完全に攻略した自身のスコアだった。
『さすがだな、レイレイ』
モニター越しにゼロの声が響く。
「まあね。でも、もう一つ別のパターンやってみたいから、もう一回やるよ」
『ふっ、ホントよくやるよなーー』
「色んな可能性を試すの、本当に面白いんだよね、これ」
『そうかよ。気に入ってくれて嬉しいよ』
「よし、じゃあ次は別ルートの攻略試すから静かにな」
レイレイは外していたヘッドホンを再び両耳に当て、深くかぶり直した。画面上のカウントダウンが刻まれていく。
『シミュレーション開始まで、3、2……』
『あ、そうだ。俺、今日そっちに帰るから。明日から身体訓練な』
「おいおいおい……待て待て待て!」
レイレイはヘッドホン越しに叫びながら、慌てて手元の停止ボタンを連打した。画面のカウントダウンが『1』でピタリと止まる。
「はぁ?てか、なんでいつも急に言うんだよ!?」
『いやぁごめんごめん。こっちの用事が今日で色々終わったんだよ』
「えーーー! 明日から戦闘訓練かよーーーー……」
『なんだよ、そんな嫌そうな声出して。元々戦闘訓練は、お前の第一の課題だろうが!』
この7日間、ずっと画面に向かって戦略を立てるのを楽しんでいた分、明日から始まるであろう激しい筋肉痛やしごきの恐怖を思い出して、レイレイは本気で震え、頭を抱えて落ち込んだ。
「わかってるけどさぁ……わかった、じゃあ明日だけ、明日だけこれやろう!」
「ダメに決まってるだろ、せっかく俺が、帰るのにそんなリモートでできることしないだろ」
「はぁー……」
『まあまあ、そんなにやりたいなら、このソフト完全に貸してやるからいつでも遊んでいいぞ!!』
画面の向こうで、ゼロはなぜかドヤ顔で胸を張った。
(……いや、そうじゃない。そういう問題じゃないんだよ。こいつ、やっぱなんかズレてるな)
「太っ腹なご褒美」をやったとばかりに満足気な顔をしているゼロに、心の中で盛大にツッコミを入れながら、レイレイは静かに通信を切った。
暗転した画面に自分のげんなりした顔が映る。
身体のあちこちが悲鳴を上げる明日からの地獄を想像し、レイレイは重い足取りでベッドへと向かった。
俺は、明日のことを考え恐怖に震えながら、なんとか眠りについたのだった。
【訓練開始16日目】
時刻は20時。俺は、起きた瞬間に思う。
「あーーーやだやだやだ行きたくないよーー……」
天井を見つめたまま、ベッドの中で深くため息をつく。
目覚ましが鳴る前に目が覚めてしまったのは、間違いなく明日(あるいはこの後)から始まる訓練の恐怖のせいだ。体を起こすだけでも億劫なのに、これから待っているのはゼロの容赦ないスパルタメニュー。
(病気になったフリでもしようか……? いや、あの人なら『風邪くらい気合で治せ』って余計にハードなメニュー組んできそうだな……)
現実逃避の思考を巡らせていると――
コンコン!
「れん、起きたの?」
扉の向こうから聞こえたのは、母親の声だった。
「うん、起きたよ」
「…………」
返事をしたものの、なぜか母親はそれ以上何も喋ろうとしない。
「どうかした?」
「あ、ううん。夜ごはん、ここ(ドアの前)に置いておくから食べなね」
「うん、わかった」
足音が遠ざかり、母親は静かに階段を降りていった。
ドアを開けてトレーを受け取り、部屋でご飯を食べながら、俺はふと思う。
(……そういえば、母さんと喋ったの、すごく久しぶりだな。あの時以来だったか……)
ご飯を食べ終わり、空になった食器をドアの前に出す。余計なことを考えて不安にならないよう、時間までゼロから借りた訓練ソフトに没頭することにした。
夢中になって画面を操作していると、ふと時計が目に入る。表示は【12:10】。
「ヤバッ、迎え12時30分なのに!」
俺は慌てて着替えと準備を済ませた。
すでに両親が眠っている寝室の前を、忍び足で通り抜けて玄関を出る。
現在、12時22分。
(やばい、走らなきゃ間に合わない……!)
「はぁ……はぁ……ッ!」
息を切らして集合場所へと駆け込んだのは、12時31分だった。
1分の遅刻。そこには、黒いワゴン車の運転席のドアにもたれかかり、缶コーヒーを飲みながらクールに気取っている男がいた。
「よぉーレイレイ、久しぶり――」
「おいおい、声がでけぇよ! それにリモートで毎日顔合わせてただろ」
「つれないなぁ。画面越しじゃ伝わらないだろ? 師匠と弟子が久々に再会する、このエモい感動の瞬間ってやつがさ」
「……あのさ、たった1週間会ってなかっただけなんだけど」
レイレイの冷ややかな視線に、ゼロは「意外とかわいいところもあるな」と笑いながら缶コーヒーを飲み干した。
「……なんかさ、本部行ってからちょっとおかしくなってないか?」
「そんなことないさ。ほら、1分遅刻のおしおきとして、車内でこの後の地獄のトレーニングメニューをじっくり解説してやるよ」
「絶対いらない!! 乗る前に逃げたくなるからやめて!!」
ゼロはひらひらと手を振ると、空になった缶をゴミ箱へ放り込み、笑いながら運転席のドアを開けた。
3本目です。
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